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十二話 狂宴

 家に戻ると、和やかな雰囲気で談笑が始まった。感情が表に出ない性格なのだろうか、アッシュ様は落ち着いて見えるけれどどこか楽しげで嬉しそう。こんな顔をするんだなっていうのが知れて嬉しくもある。


 それに、四天王としても、彼ら彼女の話は興味深い。ゴッツは冒険者を続けていて、色々な所を旅しながら格闘術を磨き上げている。エリオットは騎士として王国に仕え、クリスタは魔法学院の先生で生徒達を指導しながら研究と実験に明け暮れているそうだ。


 楽しそうだなぁ。


 大体の話を聞き終えて、純粋に私はそうおもった。今日が全員初対面だし、本来は敵なんだけどアッシュ様の人となりがわかるというか・・・・・・仲間達との関係性が私には新鮮で聞いているだけで嬉しい。


 それに、三人は私達にも気を遣っているのか、時折昔話も交えて教えてくれる。私の知らないアッシュ様のことだから、よりのめりこんで聞いてしまう。


 まぁ、殆ど殺伐とした昔話なんだけどね! こわくて尻尾と耳がブルブル震えるよ!


「しかし、騎士か・・・・・・エリオット。きちんとできているのか?」

「当たり前だろう? まぁ、騎士の大半が剣や槍を使っているから弓を使う僕は多少浮いているがね」

「大きなドジやぽんこつを晒してはいねぇのかって、アッシュは知りてぇんだろ」

「・・・・・・さて。お腹が減ったね」

「・・・・・・誤魔化したな」

「でも、エリオットの言う通りだよ。もう夕方だし」

「お前等な・・・・・・」

「だな。訪ねてきてなんだが、ご馳走になっていいか?」

「あ。なら、私達にお任せを。ね、リルチャン」

「え? あ、はい! お任せくださいっ!」


 唐突に話を振られたから一瞬思考が止まったけど、メヌエットに従って台所に移動。アッシュ様の仲間が持ってきてくれた材料があるから量的には大丈夫だ。


 よし、ここでアッシュ様の胃袋を掴める料理を作れば・・・・・・。


『ん、これは美味いな。こんな美味い料理なら毎日食べたい』

『お! いいじゃん毎日作ってもらえよ! 嫁さんにしてな!』

『うん、それがいいよ! お似合いだし!』

『ふ、おめでとう』


 ぐへへへ・・・・・・。


「いよし!」

「待ってリルチャン。そんなだらしのない顔をしているあなたには包丁すら握らせたくないよ」

「そんな殺生な~~・・・・・・!」


 おいおい泣いてせがむと、呆れながら包丁の持ち方から教えてくれた。ナイフや剣とは違うから混乱したけど、動物に例えてくれたからわかりやすい。熊さんの手だ。


 そのまま調理に入るけど、メヌエットはやっぱり手際がいいね。私が切ったものより綺麗にだし、なにより素早い。あっという間に材料の下準備はできた。


「どうするの? リルチャン。このままだと危ないんじゃない?」

「それは・・・・・・そうだけど」


 メヌエットはテキパキとした動きをしたまま、危惧を語る。万が一、正体がバレたときのことだ。


 私達だけの問題ではない。表向きは勇者のことを探る密偵としての役目だから、アッシュ様かゴッツ達も当然魔王軍の指示だとおもうだろう。再侵略の意図がある、と捉えかねない。そうなると逆にこちら側が攻められるかもしれない。


 でも、今の魔界は復興してきているとはいえ戦争状態に突入できるような余裕は、まだないんだ。


「今はまだ怪しまれていないから大丈夫だとおもう。魔界に戻らなければ」

「そうかもしれないけど・・・・・・

「それに、いざというときの覚悟はできているよ」

「覚悟?」

「ああ」

「リルチャン・・・・・・あなたそこまで」

「だからいざというときは、一緒に死のう」

「道連れにする覚悟だったの!?」

「ちょ、大声急に出すなよ。指切るところだったぞ」

「死ぬ覚悟云々言ってる人が今更怪我の一つで・・・・・・!」

「アッシュ様に血のついたもの食べさせられるわけないだろ!」

「なんで急にキレてるの!」

「なにかあったのか?」

「ひゃ!? あ、アッシュしゃま・・・・・・」

「悪いな。二人で準備させて」

「い、いえいえ! 恩返しですからお気になさらず!」

「手伝えることはあるか?」

「だ、大丈夫です! 私達にお任せください! はい!」

「それは心苦しいんだが・・・・・・」


 あれ、でもアッシュ様と一緒にって、共同作業になるんじゃ?


 二人で一緒に料理の準備って、同棲している恋人がよくやるやつだし! いや! ラブラブな夫婦だってやってるし! 


「うへへ・・・・・・じゃ、じゃあ一緒に―――ってあれ?」

「もう行っちゃったよ」


 くそう! 判断が遅かったか! 私の馬鹿!


「そんなこの世の終わりみたいな大袈裟に泣くなんて・・・・・・」

「うるさい・・・・・・ちくしょう・・・・・・! 人参が目に滲みただけだ・・・・・・!」

「人参にそんな成分あったら、私も大変なことになってるよ」


 呆れているような、妙に冷静なメヌエットのツッコみの後、早く再開しろと催促された。なんだか姉としての演技が板についてるなこいつ。主だって忘れてない?


「お待たせいたしました~~~!」

「おお! 待ってたぜ!」

「うん、美味しそうだね」

「うわぁ・・・・・・!」


 少し時間が経ってから、料理が完成した。おもっていたよりも重労働で大変で、メヌエットの手際の凄さにビックリした。うん、すげぇ。いつもあんなかんじだったのかな。


「うん! 美味いな! ほっぺたが落ちそうだ!」

「うん、たしかに。王都でも中々味わえないね」

「そ、そうですか、それはなによりです」

「アッシュ様はいかがですか?」

「!」

「ああ。美味しい」

「!!!!」

「君達は、料理が上手なんだな」

「え、ええ! ええええ! お、お望みなら、こ、今後一生・・・・・・ごにょごにょ」

「?」


 うへ、うへへへへへ。アッシュ様が褒めてくれた~~~・・・・・・。もう死んじゃいそう・・・・・・。


「ねーねー、リルチャンちゃん。メヌちゃん」

「じゅるり。は、はい?」

「二人って、元々動物だったんだよね?」

「はい、そうですけど」

「あっ」

「なのに、どうして料理がこんなに美味しいの?」


 ・・・・・・・・・あ。


 まずい、そうだ! それを考えたらたしかにおかしい! 怪しまれる! 調子に乗りすぎた!


「ねー、ねー。どうして?」


 あわわわわわわ。ど、どうしよう!


 なんとか言い訳を考えようとするけど、思考と視界がグルグル! 冷や汗ダラダラ! なにも浮かばない!


「それには理由があります・・・・・・」

「え~~~! どんなどんな!?」

「ここに来る途中、私達は旅をしておりました。辿りつくまでの間、お金を稼がなくてはいけなかったので、下働きをして日銭を稼いでおりました」

「ほうほう?」

「そこで、料理の作り方や味付けの仕方を覚えられたのです」


 おお! 凄いなメヌエット! いやメヌちゃん! おかげで助かったよ!


「へぇ~~。そっか~~。でも、プロ並だよ?」


 いや、まだ終わってない! でも負けるなメヌちゃん!


「才能があったんです」

「そっか~~~。でも、動物の味覚と人の味覚って、違うって聞いたよ~~~?」


 しつっこいなこの人! もういいよ質問終わってよ! ボロ出ちゃうかもしれないじゃん! メヌちゃんもちょっと困っているし!


 ・・・・・・というか近くない?


 メヌちゃんとキスできそうなくらいの距離感だよ?




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