13 君こそ我等がリーダーだ
その後、無事にギルド内の全員が目を覚まし魔王様の特技お披露目会は滞りなく閉幕となった。
ギルドにたむろしていた自称荒くれ者ちっくな奴等の視線が露骨に下がったような……。
うん、まあ、気持ちは分かる……。
とにかく危ないから二度とやらないでおくれ。
「それで妾の評価は如何程のものであるかな?」
スカーレットは水を打ったように静かな空気も物ともせず支配人にグイグイと近寄り冒険者ランクを求めている。
威圧系キャラは関わりにくいので後でこっそりトラウマになるくらい説教しておこう。
「う、うーん、そうですねぇ……」
決断に難色を示す支配人。
そりゃそうだろう。
スケールが余りに大きすぎてヒューマンには到底評価できるものではない。
だが彼には立場上、冒険者の能力を精査し、ランクを確定する責務がある。
恐らく腹の中ではXランクであろう。
されど簡単に告げられない理由がそこにはある。
Xランクが規格外の最高ランクであること、そしてその最高ランク滞在者がルシオン唯一人であることだ。
現イセリアギルド登録者で1名しか成しえてない最上位を個人の裁量で与えてしまってもよいのだろうか……、いっそのこと魔導水晶をバッキバキに砕かれた方が何も考えず晴れやかな気分で裁定できるような気もするが……。
困り果てるイセリアギルド支配人。
額にはうっすらと汗を帯びている。
ところがどっこい思いの外決断は早かった。
パッと後ろを振り向き審査官に向かって両手の人差し指を斜め垂直に重ね合わせてバツを示すナイスミドル。
それを見てコクコクと縦に素早く首を2回振る審査官。
いやいやアンタら、そんな視認性抜群な審議でいいのかよ……。
「お待たせしました。厳重なる鑑査の結果、魔王スカーレット殿にXランクを認定します」
ほう、厳重ときましたか……。
俺の思惑なんぞお構いなしにウムウムと腕組みして頷くスカーレット。
しかしながら彼女以外は『仕方ないよね』といった空気である。
「ねえ、ちょっと今の見た? なんか凄くテキトーに決めた感じよね。それならあたしもやり直してくれないかな」
雑な感じが拭い切れない支配人の振る舞いにセシルががっつり反応した。
「何だ、お前納得してないのか?」
「そりゃそうよ! あたしだってクーリエの時みたいにもっと時間を掛ければあんな結果にならないわよ!」
不満をあらわにするセシル。
自爆と言えばそれまでだが確かに手順を間違えなければまた違う結果に至ったであろう。
そんなご立腹な彼女をルシオンが後ろから抱きかかえた。
爛れた感情を包み込むように、身体を慈しむようにそっと優しく。
「大丈夫だよー。しーちゃんがホントは強いの、みんな分かってるもん」
「ちょ、ちょっと、いきなり何よ。べっ、別にルシオンにそんなこと言われたってあたしは……」
不満の矛先を見失ったのかセシルが急におとなしくなった。
その姿をスカーレットとクーリエが遠巻きに見守っている。
「冒険者ランクなんて所詮は表向きの指標に過ぎないからな、既に本質を理解してくれる仲間がいるなら強く拘ることもないさ」
「なにそれどういう意味?」
「新たにパーティーを組みたいのなら個人の冒険者ランクは重要だけど今のお前にそれが本当に必要なのかって話だな」
俺の説明を聞いてルシオンは強くセシルを抱きしめた。
スカーレットはこちらを向いてニッカリと、その横でクーリエが優しく微笑んでいる。
「セシル、お前とはまだ出会って数日だけど俺はお前のことは信頼できる仲間だと思っている。それじゃあ足りないか?」
「サムの言う通りなのじゃ。妾もかつて様々なエルフを見てきたがお主のような性格の持ち主は初めてなのじゃ。お主は不思議な魅力が溢れておる。胸を張るがよい。妾が保証するぞ」
全員に見つめられてセシルは顔を赤くして俯いた。
いつもの生意気な口は閉じたまま。
どうやら褒められるのは苦手と見える。
天邪鬼な面もあるけどセシルは簡単に人を裏切るような奴じゃない。
まあゆっくりと打ち解けていければいいだろう。
歩く大道芸みたいなメンバー構成だけどこれなら上手く連係は取れそうだ。
4人を見渡す。
これならスカーレットを軸に歴代最強パーティーも夢ではないだろう。
俺はぼんやりとガレオンで殿堂入りする姿を想像していた。
……
「話は済んだようだね」
俺達を漂う空気が和やかになったのを察知したのかいつものシブい雰囲気を取り戻した支配人が声を掛けてきた。
こくり。
俺は静かに頷く。
「それじゃあ名簿を作りたいんだけどリーダーは誰が務めるんだい?」
「ああ、それならスカー」
「リーダーはサムなのじゃ」
「……、リーダーはス」
「リーダーはサムで決まりなのじゃ」
「こいつ……」
スカーレットを笑顔で睨みつけるが彼女もこの上ない笑顔を俺に向けている。
だが瞳の奥には確固たる信念が込められている。
そんな表情だ。
「我等のリーダーはサムこそが相応しいと感じるのじゃがお主達の意見はあるかの?」
「別にいーんじゃないの?」
「にーさんよろしくー」
「全面的にお任せします」
気が付けば満場一致で可決されていた。
なんてこったい。
「のう、サムや」
「なんじゃい!!」
「そういきり立つでない。まずは落ち着いて1歩下がって見渡すがよい」
促されるままに俺は視線を動かした。
左からセシル、ルシオン、スカーレット、クーリエ。
気が付けば俺達は5人で円を描くように立っていた。
「何も言うことはなかろう。これはお主を慕ってできた輪じゃ。のう、クーリエ」
「えっ!? はっ、はいっ」
突然集まる視線にクーリエは咄嗟に両手を左右の頬に当てて緩んだ表情を懸命に隠す。
相変わらずポンコツな側近だ。
つーかお前、どーでもいいけどさっきから妙に楽しそうだな。
視線をスカーレットに戻す。
やはり意志を曲げる気配は微塵にも感じられない。
「……ったく、分かったよ」
スカーレットの諭すような口調に俺は盾突く言葉もなく促されるように了承した。
「支配人」
「決まったかい?」
「はい。僭越ながら自分がリーダーを務めさせて貰います」
「了解。君達に世界樹の御加護があらんことを」
支配人の決まり文句でふと嫌なことを思い出した。
このパーティー、祝福値マイナスなんだよな。
今更後には退けないけど……。
「ふう、やれやれじゃわい」
「ん? 何かあったか?」
ふいに漏らしたスカーレットの深い息に俺は問いを被せた。
「戦争ならまだしも観光気取りで他所の国まで来て頭を務めるのはまっぴらごめんなのじゃ」
「それが本音か!」
「カッカッカ。頼むぞ、我等がリーダー」
その後スカーレットとクーリエは仮申請という形で受理され、晴れてパーティー結成と相成った。
何事も無ければいいのだが……。
それから暫く経って俺達の所に支配人がやってきた。
「待たせたね、では最後に注意点だ。まず、パーティーランクはSSだね。実力的にはSSSが妥当だけどサム君がリーダーを務めるから1つ下げておいたよ。おっと、少し不服かな?」
横を向くと支配人の言葉に対してセシルが露骨に不満そうな顔色を浮かべている。
まあ分からないことは無い。
だが予想通りと言わんばかりに支配人は言葉を続けた。
「本当のことを言うとね、今、カーネリア大陸にSSSランクのパーティーはいないんだよ」
パーティーランクSSSを想像してみた。
要するにクーリエ並みの実力者のみで結成されるってことだ。
考えるだけでも恐ろしい……。
「そんなのがいきなりパッと現れてごらんよ。囲い込みに掛かるか、それとも潰しに掛かるか、勿論それらは裏で国が糸を引く前提さ。ではこの中で誰がいちばんに狙われるかな? そう、サム君、君だよ。しかもリーダーとくれば尚更だろうね」
確かに……。
1人だけ狙うならあらゆる面で俺だ。
「冒険者が確保すべきものは命、真理、そして退路だ。英雄と蛮勇は似て非なるもの。世界は命を軽んじる者を英雄と称えることはないだろう」
熱弁する支配人を見遣ると右手で握りこぶしを作って胸の前に高らかと掲げている。
何処でスイッチが入ってしまったのだろうか……。
「サム君、誰一人失うことなくまたこの場所に帰って来ておくれ、そうしたらその時君達を晴れてSSSランクパーティーと認定しよう」
嘘でも誇張でもない支配人の矢継ぎ早な力説に俺達は暫し聞き入ってしまった。
要約すれば心配しているってことだろうからその気持ちは有難く受け取っておこう。
「それでは健闘を祈る」
最後にそう言いながら拳を突き出す支配人。
コツン――
俺は彼の意思を引き継ぐように小さく頷きその拳にグータッチで応えた。
「ほいじゃ行きますか」
そう告げて俺は扉を開け放った。
スッと風が吹き込み世界は回り始める。
彼方まで広がる青の向こうまで。




