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7話。弘農会議

文章修正の可能性有り

初平3年(西暦192年)4月 司隷・弘農


董卓らが李粛を殴りつけているのと同じころ、弘農の宮城のとある一室では緊迫した空気が流れていた。


「本当に大丈夫なのよね? 間違いないのよね?」


その空気を生み出しているのは、董卓陣営に於ける最重要人物の一人であり、董卓が目に入れても痛くないと豪語する孫娘の董白であった。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですって」

「そうそう俺らの中に司馬の坊ちゃんを狙うような阿呆はいやせんぜ」


不安に怯える彼女を慰めるは、董卓が弘農に派遣してきた武闘派の将軍である李傕と郭汜だ。董卓からの信任を受けて弘農に派遣された両将軍の言葉を聞いて董白の不安もあっさりと解消……


「本当ね? 李傕汜(りかくし)を信じて良いのね? 嘘付いたら霊薬(水銀)飲ませるわよ!」


「「一つに纏めんな! それと罰が怖ぇよ!」」


「そんなのどうでも良いわよ! 本当に大丈夫なんでしょうね?!」


「「良くねぇッ!」」


……解消される筈がなかった。むしろ涼州勢の血の気の多さを知っている分、簡単に『大丈夫』と断言されたことが信じられなかったのだ。


「ま、まぁまぁお嬢様。李傕様や郭汜様が言うならきっと大丈夫ですよ! ……涼州勢は」


「王異がそう言うなら……って、并州勢はどうなの?!」


「「「……」」」


「視線を逸らすなぁ!!」


「いやぁそんなこと言われてもよぉ」

「俺らも并州の連中はちょっとなぁ」

「呂布様と王允との繋がりが読めないので何とも」


「駄目じゃん!」


「お。お嬢様! 落ち着いて下さい!」


うがーと頭を押さえながらバタバタする董白と、そんな董白を落ち着かせようとする王異。そして二人の少女を見て「ここで騒いでもしょうがねぇだろうになぁ」と達観する表情を見せる李傕と郭汜。


控え目に言っても混沌(カオス)である。


「あ~それで、実際のところはどうなの?」


その混沌を生み出している一行を横目に見ながら、『謎』と書かれた仮面を被った謎の少年が己の側近に話しかければ、問われた側近こと徐庶は、静かに拱手しながらその問いに答えた。


「はっ。端的に言えば、李傕将軍と郭汜将軍の仰る通りかと」


「二人の言う通り? それは涼州勢は大丈夫だけど、并州勢は分からないってこと? それじゃ司馬懿はどうなっ……あぁ、大丈夫なんだね?」


「はい。ご明察です」


もう一人の側近である司馬懿の身に危険が訪れそうだと言うことを認識したことで、謎の少年は一瞬激昂しかけるも、その司馬懿に仕えている徐庶が落ち着いた様子を崩さないのを見て、状況を正しく認識することが出来たようだ。


そんな謎の少年を見て、徐庶は年長者然とした雰囲気を崩さぬまま、その解説を行おうとする。


ちなみにこの徐庶と言う青年(17歳)は、少年が謎と書かれた仮面をつけていない場合、自身が話しかけるだけで神速の土下座を敢行し、少年が三度『もういいから、普通に話して』と言わない限り、絶対に頭を上げないと言う、少年からしたら非常に面倒な性格をしているのだが、今回のように仮面をつけているときは空気を読んでいるのかそのようなことはしないので、少年としては(常時この仮面をつけようかなぁ)と思っているとかいないとか。


ちなみのちなみに、董白が司馬懿の身を心配しているのは、決して『年頃の乙女が同年代の気になる少年を心配している』と言った微笑ましいものではなく、敬愛する祖父の配下が司馬懿に襲い掛かった場合に生じるであろう、皇帝からの不興や、どこぞの太傅との折衝で、祖父共々地獄に落とされることを心配しているのだ。


皇帝の母である何太后や皇帝の弟である劉協に関しては、いくら王允が狂おうとも、彼に従う兵たちが手を出すような真似はしないだろうと言う判断から、それほど心配されてはいなかったりする。


これを薄情と言うか、信頼と言うかはともかくとして、今回の少年たちの議題は司馬懿が無事に帰還できるかどうか? と言うことであった。


閑話休題


「現在の情勢を省みれば、大将軍である董卓様が動くことは無いでしょう。しかし王允の配下や、彼に雇われた破落戸(ごろつき)が司馬懿様にちょっかいを出そうとする可能性は有ります」


「ふむぅ。破落戸程度なら京兆尹や護衛の淳于瓊たちが居るから大丈夫だよね。だけど、何で徐庶は『董卓は動かない』って断言できるの?」


「そうですね。動く意味がないからです」


「意味がない?」


「はい。董卓様は豪勇の将であっても蛮勇の将ではありません」


「……つまり、董卓は勝てない戦はしないってこと?」


「その通りです」


「でも、董卓は倍以上いた袁紹の軍勢を蹴散らしたよね? それがもし王允とかに唆されて全軍でこっちに来たらどうなるの?」


王允が望んでいることはまさしくそれだろう。敵の狙いが分かっている以上、謎の少年がそれを警戒し、対処法を練ろうとするのは間違いではない。しかしそれは董卓が大将軍になる前から懸念されていたことでもある。


よって、どこぞの腹黒がそれに対して対処しているのも当然のことであった。


「どうにもなりませんね」


「負けるの?」


「いえ、董卓様が弘農にたどり着いた時点で、配下の方々に捕えられてコチラに護送されるでしょう」


「ふぁ?!」


まさかの戦う前から終わると言う徐庶の言葉を聞いた謎の少年は、思わずおかしな声を上げてしまった。そんな驚きの態度を見せた謎の少年に対し、徐庶は己の言葉の根拠の解説を行う。


「そもそもの話なんですがね」


「う、うん」


「董卓様が弘農に攻め込んできたとして、それで万が一にも勝ったとして、何を得るんでしょうか?」


「何って……あれ?」


現在でさえ董卓は大将軍として位人臣を極めている身であり、さらに長安から離れることで政治やそれに付随する書類仕事から解放されている身である。


そんな董卓が弘農に攻め込んでどこぞの腹黒を討ち取ったとして、一体何を得られると言うのか。そう言われてしまうと、謎の少年も言葉に詰まってしまう。


「そう。何も無いんです。むしろ今我々が行っている仕事が長安の連中に引き継がれることになりますので、否応なくその影響を受けることになるでしょうね」


「あぁ。なるほどなー」


この『弘農で行われている仕事を奪うこと』こそが権力を望んでいる王允一派が望んでいることなのだろうが、董卓たちにしてみたらそんなモノには関わりたくもないだろう。


しかし、現在長安の政ですら満足に出来てない王允一派が、これ以上の支配領域を広げたらどうなるだろうか? 完全にグダグダになって、董卓らにも書類仕事が襲い掛かることになるのは確実である。(何もしなければ軍の維持すら出来なくなる可能性が高い)


さらに救えないのが、王允らは董卓が政治的な行動をすることを嫌うと言うことだ。


つまり董卓側の視点から見れば、わざわざ皇帝の居る弘農に兵を向け、死にもの狂いで戦って、多大な犠牲を払った上で勝ったとしても、得るものが書類仕事と王允一派との確執と言うことになる。


そんな『地獄に行くために戦をしろ』などと言う命令に誰が従うものか。


それを命じた時点で、間違いなく牛輔や徐栄、張済、張繍などと言った側近は力づくで止めようとすることは想像に難くない。


これは呂布が王允の養女に唆されて暴走しても同じだ。


呂布個人に従う者はともかくとしても、董卓陣営の全員がその行動を止めようと長安に兵を向けることになることはあっても、呂布と一緒に弘農に攻め込むという選択をすることなど有り得ないのだ。


「さらに加えるなら、時間を置けば周囲から皇甫嵩将軍や朱儁将軍を始めとした軍勢がコチラに参加しますし、羌や鮮卑が後ろを突きます。かと言って短時間でこの弘農を落とすことは出来ません。故に、どう転んでも董卓様に勝ち目は無いのです」


「え? 羌とか鮮卑は董卓の味方じゃないの?」


「いえ、鮮卑はともかくとして、羌は董卓様の武威よりも太傅様と司馬懿様を恐れています」


「……太傅はともかく司馬懿まで? 董卓の部下もそうだけどさ、彼らみたいな無骨な者達にまで怖がられるなんて、あの二人は一体何をしたのさ?」


「私は『医術の研究』としか知らされてないので詳細は不明なのです。もしかしたら両将軍なら何か知っているかもしれませんが……」


漢と言う強大な帝国にすら真っ向から逆らう連中が、心の底から敵対することを厭うほどの恐怖を感じていると言う事実に『己の師と師兄がナニをやらかしたのか』と興味半分で話題を振るも……


「「医術の研究ぅ?」」


話を振られた李傕と郭汜は揃って顔を顰めた。


「そうよ。そう言えば前々から気になってたのよね。太傅様は……まぁわかるけど。何でみんなして無表情まで怖がってるの? お祖父様もよね? その医術の研究が何か関係してるの?」


太傅(腹黒外道)の弟子だから。と言うなら徐庶だって同じ扱いになるはずなのに、徐庶に対しては李傕も郭汜も苦手意識は持っていないように見受けられる。ならばその原因は彼らの人間性がどうこうではなく、彼らが行ったナニカが影響しているのだろう。


そう考えた董白は、そのナニカと言うのが徐庶が言った『医術の研究』だと当たりを付け、確認を取ろうとしたのだが、


「アレは断じてそんなチャチなモンじゃねぇですぜ!」

「そうですぜ! アレは何よりもドス黒い黒! 吐き気を催す邪悪ってヤツでさぁ!」

「……実際に吐いたしな!」

「暫く肉が食えなかったぜ……」


当の二人は青い顔をしながら思い出したくもねぇ! と口々に叫び、その内容を語ることを良しとはしなかった。


「あんたら……」


ただ、唖然とする董白に対して「捕虜になってはいけない」だの「捕まる前に自害した方が良い」だの「最悪捕まった場合も、知ってることは全部吐きましょう!」だのと、真剣な表情で忠告をしてきたので、その場にいた者達はこの場に居ない師弟が『医術の研究』と称して何をやらかしたのかを漠然とながらも理解することが出来た。


「うん。まぁ、董卓が裏切らないってことは良く分かったよ」

「そうですね。それが全てです」


謎の少年は李傕と郭汜の様子から、己の危惧していたことが杞憂であったことを理解してホッと溜息を吐くも、普段は書類仕事に忙殺されているだけの気のいい兄のように見ていた太傅が、実は周囲から『怒らせたら怖い存在』だと認識されていることを知り、何とも言えない気分になったと言う。



そんなわけで解説回。

皇帝を擁する腹黒外道と戦をしても董卓に得るものはなく、王允が嗤うだけなので戦をしません。

さらに言えば、時間を置けば周囲を囲まれて負けが確定し、時間を掛けない速攻を選んでも内部の統制が取れなくて負けますからねぇ。


そもそもどんな罠が有るかわからない弘農に速攻を仕掛けても無駄に死ぬだけですし。


董白の存在もありますが、まぁ様々な事情から董卓が弘農に攻めることは有りません。


医術の研究……いったい何をしたんだ? (迫真)ってお話



―――


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