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6話。大将軍、長安の情報を得る。

文章修正の可能性有り

初平3年(西暦192年)4月。司隷・京兆尹・郿


丞相一行が長安から弘農へと出立したことを受け長安にいる名家たちが困惑する中、董卓は自身の代理人として長安に派遣していた李粛を呼び戻し、今回行われた司馬懿の上奏に関するあれこれの報告を受けていた。


「んで、最終的に論戦に負けて丞相を持って行かれた王允の野郎が、お前ぇらに弘農から派遣されてきた一行を襲わせようとした、と?」


「へい。それも王允の野郎。司馬の坊ちゃんたちのことを指して『連中は殿下をたぶらかす賊だから殺しても構わん』なんて抜かしましてね」


「はぁ? まさかあの野郎、お前ぇらが知らねぇとでも思ってたのか?」


「おそらくは。それに、上手く行けば俺らの罪を帳消しにして大将に恩を着せた上で弘農と敵対させて、自分の陣営に引き込めるとでも思ったんじゃねぇですか?」


「無くはねぇ、か。……どこまでも見下してくれやがる」


当然のことながら、劉協を連れて行く相手が司馬懿であり、その行き先が弘農であることを知っていた李粛は王允からの命令を拒否。


そして李粛に断られた王允は養女を通じて呂布を動かそうとしたのだが、李粛から話を聞いていた呂布も「李粛が駄目だと言うなら并州勢は動かせん」と、苦渋の表情を浮かべて、愛妾からの要請を拒絶することとなった。


その為、王允は自前の戦力を動かそうとしたのだが、急なことで事前の根回しもしていなかったせいか、その動きは方々にバレバレであり、結局その戦力は『長安の中に怪しい武装集団が居る』と言う密告により動いた京兆尹の兵によって取り押さえられてしまう。


自身の立てた策の失敗を知った王允は、捕えられた連中が尋問されて自分の名を出す前に司徒の権限をフルに使って口封じを行うと共に、自分の義挙に協力しなかった李粛らを叱責したのであった。


……そもそも王允には李粛に対して命令する権限が無いので、命令に従わなかったからと言って李粛が叱責される理由は無いのだが、それに関しては今更の話であろう。


とりあえずかなり簡略化されてはいるが、これが今回の長安で引き起こされた一連の事件の流れである。


「連中が俺らを見下してるのは今に始まったことじゃありませんけどね」


「確かにそうだがよ」


飄々としている李粛に対して董卓は苦虫を噛み潰したかのような表情を見せるが、今回の王允の行動は自分たちを騙して罠に嵌めようとしたということなのだから、それも無理はないことだろう。


自分にそんな真似をしてくれた王允に対して、個人として董卓が面白い感情を抱けるはずもないし、荒くれ者共を纏める大将軍としても、王允如きに舐められたままなぁなぁにしては部下の統制にも問題が出てくる。


加えて、丞相と言う後ろ盾を失った王允や楊彪がどのような行動を取って来るかわからないと言う不安も有った。


これに関して細かく言うなら、王允らの手際がどうこうではなく、自分の配下の脳筋連中がどう動くかわからないと言う不安であった。なにせ、今回は李粛が王允の嘘を見破れたから良いものの、今後も必ず王允の嘘を見破れるとは言い切れないのだ。


また、嘘では無く政治的な根回しをされて、どうしても要望を断れないと言う状況にされる可能性も有ると考えれば、董卓とて決して楽観視をして良い状況ではない。


実際、李粛から命令を拒否された王允は、養女を使って呂布を動かそうと画策していたのだ。もしもこのとき『王允が呂布を動かすかもしれない』と考えて事前に動いていた李粛からの情報提供が無ければ、呂布は王允の言う通り普段から行っている名家狩りのような形で司馬懿の一行を襲い、西園軍と并州勢の間で争いになっていた可能性は高い。


この場合処罰を受けるのは誰か? と問われれば、それは当然呂布を動かした王允……ではなく、呂布本人と呂布の養父である董卓となる。いや、王允も無実とは行かないかもしれないが、それでもその罪は両者よりもかなり軽くなることは確実である。


それは何故かと言えば、そもそも王允には呂布を動かす権限が無いからだ。


つまり、自身を動かす権限が無い王允から情報提供を受けた呂布が、その情報の裏も取らずに勝手な判断で兵を動かし、司馬懿一行を襲った。と言うことになる。


この場合、一番悪いのは当然呂布となり、次いで罪が重いのがその呂布に権限を与えた董卓となってしまうのだ。


ちなみにこの場合、王允は情報を提供しただけの第三者でしかない上に、そもそも法を司る立場である司空の楊彪と司徒の王允が手を組んでいる以上、王允が罪に問われる可能性は極めて低い。


さらにその情報とて「自分たちを嵌めようとする連中に流された!」とでも言って被害者面をすれば、周囲から無能の誹りを受ける可能性は有るかも知れないが、重罪に問われることは「無い」と断言しても良いだろう。


そうやって自分の安全を確保しつつ、司馬懿らを襲って一行を全滅させ弘農にいる者達に情報を渡さないようにすることで、王允らは自分たちの好きなように情報を布告することが出来るし、そうやっていろいろな情報を流しつつ時間を稼いだ上で董卓を騙して自陣営に巻き込んでしまえば、確固たる武力の後ろ盾を持たない弘農の若造などどうとでも料理できるだろう。


今回の王允が狙ったのはこんなところだろうか?


その策が失敗したので、今の董卓たちには王允にそこまでの考えがあったかどうかは分からない。しかしながら、王允が李粛や呂布を動かして司馬懿一行を襲わせようとしたことは事実なので、董卓は今後の為にも対策を練る必要性を感じていた。


「そんで、呂布が頭を抱えてるって?」


そして、現在その対策が最も必要とされていると目されているのが、現時点で王允の養女と言う楔を打ち込まれてしまっている人間。そう、飛将軍こと呂布であった。


「へい。養女とは言え娘ですからね。それを妾にした以上、自分も王允の派閥と見なされてるかもって戦々恐々としてまさぁ」


今の呂布は、今回は李粛のおかげで王允の策に乗らずに済んだが今後はどうなるかわからない。さらに妾となった養女自身も呂布を嵌めようとしているわけではなく、純粋に養父である王允を心配しているだけなので、処罰をするような真似も出来ないし、したくもない。


しかし王允の派閥に加わっていると見られるのは嫌だ。そんな板挟み状態となっているらしい。


「ま、わからんでもねぇよ。確かに呂布本人は卓抜した武人だが、家族はそうじゃねぇ。もしもアイツが弘農と敵対したら、間違いなく最初にそこを突かれるだろうからな」


弱点を突くのは基本中の基本であるし、呂布が皇帝に逆らうと言うなら妾や娘も罪人である。ただでさえ敵に容赦をするような連中では無いのに、それが罪人となったらどうなるか……数年前、涼州で韓遂らに味方をした羌賊の者達がどのような扱いを受けたのかを知る董卓は、他人事だと理解しながらも思わず首を竦めてしまう。


「ですです。流石の呂布だって、一人で逃げるならともかく、嫁や娘、さらに配下を引き連れて弘農のあのお方とぶつかったら絶対に勝てないってことは自覚してますからね」


個人の武ならともかく、兵を率いての戦。それも相手に地の利が有るので呂布と言えども苦戦することは間違いないし、そもそも呂布が王允に味方したところで勝ち目がないことは、誰の目(王允や楊彪のような長安しか見ていない人間以外)から見ても明らかなことである。


「そりゃそーだろ。しかも、この段階で弘農と敵対するってことは陛下に対して叛旗を翻すってことだろ?そうなりゃ俺だって長安に攻め込むしな」


そう。たとえどれだけの并州勢が呂布に味方しても、全員が全員呂布に従うと言うことは絶対にないのだ。それは同時に、籠城しようが野戦をしようが、呂布は常に配下の裏切りに備えなくてはならないと言うことと同義である。


……実際はそれ以前に、そもそも呂布の個人的な都合に付き従って弘農に矛を向ける兵がどれだけ居るのか? と言う話になるので、戦以前の問題なのだが。まぁあくまで仮定の話なので、とりあえずそこには触れないでおこう。


それを念頭に置いて考えれば、少なくとも溺愛する孫娘を弘農に送っている董卓にそのつもりは無い。むしろ呂布が王允に唆されて何か阿呆な事をするようなら、董卓自身が長安に攻め入り王允と一緒に呂布も討ち取って身の潔白とするつもりである。


そして董卓が呂布の味方をしないと言うなら、董卓の息が掛かっている并州勢を率いる呂布には長安での籠城も野戦も選択できないので逃げるしか道はなくなってしまう。しかしそれはつまり、長安を失って満足に補給も出来ない状況になった上で、董卓からの追っ手を警戒しつつ、外道が待ち構える弘農に行くということだ。


(そうなったら呂布に生き延びる道なんざねぇ。丁原には悪いが、俺は呂布は見捨てるぜ)


優れた棋士が数十手先の手順を読むように、董卓もこれから呂布が王允に味方した場合にどうなるか? を予想し、自分がそれに巻き込まれないよう動こうとしていた。


対策? 女や酒に狂った男に施す薬など無い。

故に、死ぬなら一人で死ね。

これは董卓だけではなく董卓陣営に所属している全ての者に共通している思いであった。


「あ~、ちなみに、ちなみにですぜ? いや、決して本気とかじゃなく、あくまで興味本位の話なんですがね?」


「あぁん?」


董卓が内心で非情の決断をしていると、その様子を伺っていた李粛が恐る恐ると言った感じで話を振る。


「もし、もしも、の話なんですけどね?」


「なんだってんだ。とりあえず言うだけ言ってみろ」


話を振ってきたわりに妙な前置きをする李粛に対し、董卓は怪訝そうな顔をしながらも「まずは話してみろ」と促す。すると李粛は何故か意を決した顔をして、とんでもないことを口にする。






「いや、ふとね? もしも大将が弘農のお方と敵対したら……勝てるかなぁ……なんて思いまして」


「……李粛」


「へい」


「お前ぇはイイ奴だった。……張済、張繍。反逆者だ。捕えろ」


「「はっ!」」


「いや! ちょ! まっ! 興味本位って言ったじゃないですか!」


「馬鹿野郎ッ! 冗談でも言って良いことと悪いことがあるだろぉがッ!」


「「そうだそうだ! やっちまえ大将ッ」」


「ぐはっ!」


そう言って董卓が、何処で誰が聞いているかわからない上、王允などが知ったら諸手を上げて小躍りするような問いを投げかけて来た李粛に対して容赦無い鉄拳を見舞えば、どこからともなく現れた者達も一緒になって李粛にツッコミを入れる。


……書類に殺されるのだけは御免だ。

これは董卓のみならず董卓陣営に所属する全ての者に共通する思いであった。


弘農のお話の前に、重要人物の動きを解説ですね。

実は長安でゴロツキを雇って色々と画策していたのは王允だったんだー!(迫真)ってお話


董卓の心が折れている理由? 孫娘や書類のことも有りますが、そもそもの話……おっと誰か来たようだ。



―――




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