羽の勇者Ⅰ
「そういえば、今日から少し面倒な仕事になるよ」
遅めの朝食を宿屋の食堂で済ませているときに、ヴァレンシアが思い出したかのようにぽつりと言った。
「面倒……ですか?」
『アート・ラヤ』に来て、それなりに時間が経った。数ヶ月はここで過ごしただろうか。
冒険者ギルドの仕事もその間にこなし、ギルド内ランクも4から5まで上がった。
この街の中でも顔が知られ始め、多少は大きな仕事もこなしてきた。
そんなときに、改めてヴァレンシアが『面倒』とこぼすのは何なのだろうか。
「それは先日の竜退治よりも面倒なのですか?」
この街に来てしばらく経って、『勇者クレア』が竜を退治した、という報せが届いた。
単身で『竜殺し』を達成した勇者の活躍に国が湧いていたが、つい数日前には私とヴァレンシアがそれを達成することとなったのだ。
クレアが倒した竜よりも小振りであったらしいが、冒険者2人、それも女性で片方は子供の2人組が竜を殺し、ギルドではささやかな祝勝会が開かれたほどだ。
『竜殺し』といえば聞こえはいいが、あの戦いは泥沼もいいところだった……。
「今回の仕事はね、今までのような魔物退治とか探索とかじゃないんだよ。正直、私は乗り気じゃないなあ……」
溜息混じりに言い捨てるヴァレンシア。
では受けなければいいじゃないか、という言葉を飲み込み、代わりに同じく溜息をついて返してやる。
そもそもギルドに行く前にヴァレンシアが仕事の内容を知っているということは、冒険者ギルドの仕事ではなく、我々の『本来』の任務だ。
もちろん、こっちに来てからも『パマギヤシラ』が私とヴァレンシアに仕事をさせることは何度かあったが、その内容も殆どが魔物退治だった。
「私達の『親分』からの仕事ですか。どういった内容なのですか?」
「端的に言えば、護衛と案内かな」
「案内というのは分かりませんが、護衛なら今までもギルドの仕事でやってるじゃないですか」
街の要人や商人の護衛は何度か受けており、退屈なときも少なくはないが、溜息をつきながら愚痴るほどか―――
そこで、あることに気付く。
護衛と案内の任務、その依頼元は『パマギヤシラ』……。
『パマギヤシラ』がこの手の任務を寄越したことはなかった。ではそんな特務部隊が私達に護衛させる対象とは何だろうか。
「……ヴァレンシア、指令書を拝見しても?」
「今回は『親分』からの指令書はないよ。とある貴族名義で、この街のギルドに依頼書を出すらしいよ。私達ご指名でね」
「それはご丁寧なことで……。でも随分遠回りな仕事の頼み方ですね」
「まあね。その辺は後で説明するよ。問題は私達が案内と護衛を仰せつかる対象なんだけどさ―――」
ヴァレンシアが身を乗り出してきたので耳を貸すと、全く予想していなかった答えが囁かれた。
「―――『羽の勇者』だよ」




