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ガルディウスの問いかけに、ディアラは気まずそうに頬を掻いた。
「まじめにやろうって奴にこんなことを言うのは何だが……正直に言えば、勝敗はどっちでもいいんだ。」
「でも……ある程度は勝たないと進級できないですよね?」
「そりゃあな。でも、俺もエリシャも今期の進級は無理だと割り切ってんだ。」
「挑む前から諦めてどうするんですか。」
たとえ落ちこぼれていようとも、進級するつもりのガルディウスには納得のいかない話だった。
けれど――
「ストレートでの進級なんて狙ってねえんだ。珍しい話でもないだろ?」
そんなディアラの言葉に、ガルディウスは首をひねる。
「珍しくない?」
そんなガルディウスの反応に、今度はディアラが首をひねる。
「もしかして、知らないのか?多くの学院生がどういう道を選んでいるのか。」
「ええと……騎士になって国に仕えるか、ギルドに所属するんですよね?」
「そりゃあ、卒業後の話だろ。学院じゃ、入学よりも進級が難しい。進級できる奴より出来ない奴の方が圧倒的に多いだろ?俺が言っているのはそういう奴らのことだ。」
「進級できなければ……留年ですよね?」
「まあ、そういう奴もいるが少数派だな。」
「ええと……じゃあ、退学?」
「必要単位もとれないような連中には多いな。けど必要単位がとれてるなら、退学も少数派だぜ。ほとんどの奴は、休学を選ぶ。俺もエリシャもその予定だ。」
休学。
せっかく入学した学院を休むという発想がなかったガルディウスは、首を傾げる。
「……休学してどうするんですか?」
「進級目指して、学院外で修業すんだよ。」
「修行?わざわざ学院外でですか?」
質問を重ねるガルディウスに、ディアラは意外そうに目を見張る。
「本当に知らねえんだな。」
学院生の中ではあたりまえのように思われていることだし、よほど飛びぬけて優秀な者でなければ、普通はこの時期になれば、進級できなかった場合どうするかは誰もが一度は考えるものだ。
「あんたは進級できなかったらどうするつもりなんだ?」
「な、なんとしても進級するつもりですけど……駄目ならその時に考えようと。」
「学院一の落ちこぼれと噂されながら、その計画性のなさ……豪胆だな。」
感心するディアラに、ユハスはあきれた様子を隠しもせず言う。
「ただ物知らずなだけだろ。留年した場合の授業料のことを知らないとみたね。」
「……授業料?」
首を傾けたガルディウスに、「ほらな」と言うようにユハスは肩を竦めつつ、教えてやる。
アルデルト学院の授業料は国が負担するため、貧しい者でも学ぶことが出来る――が、これはストレートで進級した場合の話だ。
「国が授業料を負担するのは、各学年1年間のみ。留年した場合は翌年から自己負担だ。」
「自己負担……授業料っていくらなんですか?」
ガルディウスは貴族でも金持ちでもない。
生活費位ならば、贅沢をしなければしばらくは問題ない程度の貯金はあるが、学費も負担となれば話は別だ。
「馬鹿高いぞ。留年してるのはそれなりの貴族や大富豪の子供くらいだ。」
にやりと人の悪い笑みを浮かべて言い放ったユハスに、ガルディウスは愕然とした。




