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ユハスが魔法を解除すると同時に石版は消えたが――そこには見るも無残なバーデルの姿があった。
ぼろ雑巾のような有様で地に伏すバーデルに、痛む頭を擦りつつガルディウスは声をかける。
「バ、バーデルさん。生きてますかー?」
返事はない。ただの屍のよう――否。
良く見れば、僅かに痙攣している体に生存を確認できる。
「頑丈なのが取り柄だからな。このくらいで即死はしない。」
「でも、これからクエストに出るのに……その……結構重症っぽいですけど……」
「こんな時用の回復要員がいるじゃないか。」
そう言ってユハスはディアラへと視線を向けた。
――否、正確には『その後ろの人物』へと。
「いつまでもディアラの背中に隠れてないで出てこい。エリシャ。」
「は、はいっ!」
返事とともに現れたのは、ガルディウスやバーデルよりも更に小柄な少女だった。
この辺りでは珍しい漆黒の髪と瞳。
ぱっちりとした大きな瞳は潤んでいて、今にも涙が零れ落ちそうだ。
アルティナのような万人が認める美少女ではないが、小さな体と儚い面差しが「守ってあげたい」と思わせる保護欲を誘う少女である。
「か、回復します!」
震える声でそう言って、少女はバーデルの方へと手を翳した。
「小治癒 」
神聖魔術初級の治癒魔法。
神聖魔術の基礎中の基礎であり難易度も低いため、魔法名のみの短縮詠唱は一般的だ。
しかし――
瞬く間に治っていく傷口に、ガルディウスは目を見張る。
一般的な小治癒 の回復力をはるかに上回っているのだ。
「小治癒 なのに……すごい。」
小治癒 は神聖魔術の基礎中の基礎。
戦闘中の一時的な止血や、ちょっとした怪我の回復に使われる、威力の低い回復魔法だ。
本来バーデルのような重症者の治癒に使われる魔法ではない。
一応小治癒 でも通常以上の魔力を消費して威力をあげることはできるので、重症者を回復できないわけではない。
だが、魔力の効率を考えれば通常以上の魔力を消費して低級の術を使うよりも、より上級の術を使った方が効率的なため、上級の術を使いこなせない魔法使いが苦し紛れに使う手段であり、それは褒められた手段ではない。
そして、ガルディウスが感嘆したのは少女が小治癒 の威力上昇の手段に通常以上の魔力を消費しているわけではないということだ。
神眼を持つガルディウスだからわかる。
何故そんなことが可能なのかはわからないが、少女が使っている魔力量は、一般的な小治癒 と変わらないのだ。
「うう、死ぬかと思った。」
呻きながらも立ち上がったバーデルは、装備こそぼろぼろだが、肉体的にはほぼ完治している。
自分を回復した少女に向き直り、改めてバーデルは口を開く。
「あんたが回復してくれたんだな。ありが――って何故逃げる!?」
バーデルの感謝の言葉を聞く前に、少女は脱兎のごとくディアラの背後に隠れるように張り付いていた。
「ご、ごめんなさい。でも……ご、ごめんなさい!」
「は?何を謝ってんだ?」
「ううっ……そのっ……」
ディアラの背後で、言葉を詰まらせる少女にバーデルは眉を吊り上げる。
「別に悪いことしてるわけじゃないんだろっ。言いたいことははっきり言えよ!」
語気を荒げたバーデルに、少女はびくりと肩をゆらす。
そしてその大きな瞳から、ぽろぽろと涙を流し始めた。
「なっ!?」
あわてるバーデルに、人でなし代表ユハスが人の悪い笑みを浮かべてとどめを刺す。
「女を泣かすとは、おまえもなかなか下種だな。」
「はっ!?」
「ダメですよ。女の人には優しくしないと。」
追い打ちをかけるようなガルディウスの言葉に、バーデルは絶叫した。
「お、おれが一体何をしたーっ!?」




