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ガルディウスは、魔力酔いになったことがない。
それをバーデルは、「たまたま高濃度の魔力の放出をくらわなかったから」と言ったが、その可能性は極めて低い。
「馬鹿にもわかりやすく説明してやろう。まずは質問だ。高濃度の魔力とはどれくらいを指して言う?」
「そりゃあ魔法使いなら……魔法科生徒の平均魔力値は8000くらいなんだから、4000程度ってところだろ。」
「魔力値の半分が『基準』だからな。それがわかっていれば、こいつにとっての高濃度の魔力がどの程度になるかもわかるよな?」
そう言ってガルディウスを示すユハスに、バーデルははっとする。
「こいつの魔力値の半分……って、50の半分!?」
「そうだ。その程度の魔力なんて、そこらじゅうに放出されてるだろ?」
魔法使いどころか、魔力操作などまったくできない一般人ですら、平均して200~300の魔力値を持っているのだ。
一般人の中でなら、バーデル並みに魔力操作のお粗末な人間も珍しくなく――人のあふれる街を歩けば、魔力値50しか持たない人間にとっては高濃度の魔力が至る所に放出されている。
ガルディウスの魔力値で、魔力酔いになったこともなく十数年を生きてきたというのは偶然とは言えないだろう。
「ほとんどの人間は、高濃度の魔力の放出があると想定される状況で対策する。だが、おそらくこいつは常にしている状態なんだろうな。そうでもなければ、魔力酔いにならないはずがない。」
「でも、50しかない魔力値で魔力酔いに常に対処なんてしてたら、すぐに魔力切れだろ?」
「消費魔力は使い手の力量次第だ。それだけ少ない魔力で対処できてるってことだろ。」
そんなユハスの答えに、バーデルは目を見開く。
「お、おまえが人を……それも魔法使いを褒めるなんて!」
同じ魔力を消費して得られる効果は、使い手による。
10の魔力で100の効果を生み出す者もいれば、1の効果しか生み出せない者もいる。
少ない魔力でより多くの効果を引き出すことを、多くの魔法使いが目指しているのだ。
魔力値の大きさはもちろん重要だ。
そして、魔力をどれだけ活かせるかもまた、魔法使いの力量にかかってくる重要な要素なのだ。
魔力値は生まれ持ったもので、ほぼ成長の見込みはない。
しかし後者は別だ。
どれだけ効率よく魔力を使えるか――それを極めることを魔法使いなら誰もが考える。
特にユハスは、魔力値だけの魔法使いに対して冷ややかで――完全に魔力効率重視な魔法使いである。
負けず嫌いで、人嫌い。
そんなユハスが、重視する魔力効率で人を評価するなど、バーデルにとっては驚愕でしかない。
「別に褒めたわけじゃない。こいつが並の魔力を持っているのなら、確かに少ない魔力でそれだけの効果を生み出せることは評価に値する。だが、50しかない魔力値で魔法使いを目指すなら、必要不可欠な力だ。仮に魔法科生徒の平均の10倍の魔力効果を生み出せたとしても、こいつの魔力値で魔法使いの道をすすむなんざ、馬鹿のすることだ。」
褒めていないと口にしつつ――更には馬鹿のすることだとまで言うユハスであるが――その口から『評価する』という言葉が出た事実に、バーデルはまじまじとガルディウスを見つめる。
(こいつって、本当はすごいやつなのか?)
元々魔法科の生徒は肉体派とは言い難い生徒が多いが、ガルディウスはその中でも貧弱な部類だろう。
バーデル自身体格が優れた方ではないが、それと比べても貧弱としか呼べない小柄な体躯だ。
背の高さ自体はそれほど変わりないが、肉体派の多い武闘科生徒を見慣れたバーデルにとって、ガルディウスの手足の細さはあまりにも心もとない。
魔力効率がユハスに評価されるほど良いと言っても、所詮は魔力値50。
学院一の落ちこぼれと評されながらも、単位を満たすことには成功していることを考えれば、噂ほどひどくはないかもしれないが、それでもそんな噂がたつ材料くらいは持っているはずで……。
異様に目を引く派手な仮面のせいで妙な迫力はあるが、戦闘力はどれほどのものか――正直、期待できそうにない。
「まあ、魔力酔いになったことがないっていうなら……パートナーになることに異論はないよ。」
パートナーがこのまま見つからなければ、学武会の参加資格すらない。
ユハスに逆らえないこともあるが、魔力酔いというパートナーが原因の自滅がないというだけで、バーデルにとってガルディウスはパートナーとして悪くない相手だ。
学院内の評判は悪いが、それはお互い様。
「よろしくな!」
「はい!」
こうして、あぶれ者同士のパートナーが結成された。




