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「あぶれ者同士、仲良くペアを組むといい。」
そう言ってユハスにパートナーとして引き合わされた人物に、バーデルは目を見開く。
「は、はじめまして。」
自分以上に小柄で細身な体躯。そして、何よりも特徴的な不気味な仮面。
派手な仮面にそぐわない、控えめな声でそう言って軽く頭をさげた目の前の生徒――それは、学院一の落ちこぼれであるガルディウスに間違いない。
バーデルとガルディウスに面識はない。
しかし、悪い噂ばかりだが知名度は高く、一目でそれとわかる特徴的な外見をしていれば当然それとわかるわけで――教えられることもなくその正体を見抜いたバーデルは、落胆する。
「紹介するってこいつ、学院一の落ちこぼれじゃん!」
「安心しろ。学院一の落ちこぼれというのは正確ではない。少なくとも学武会の参加資格である必要単位はクリアしているわけだからな。」
いくら授業においてガルディウスより優秀な成績を出していても、必要単位を満たせずにいる一年生は少なくない。そして、そうした一年生は現時点で、今期の進級は望めないことが確定しているのだ。
例え授業で赤点だらけで学院一の落ちこぼれと噂されていても、サザーラやユハスの院内クエストによって必要単位を満たしているガルディウスにはまだ今期の進級の可能性が残されている。
そういった意味では、ガルディウスは学院内において最下位ではないのだ。
「噂はあくまで噂ってことか?けど、魔法科のくせに初級の精霊魔術一発で魔力切れ起こすって聞いたぞ?」
「それは事実だな。ちなみに学院史上最低の魔力値50も事実だ。」
「ダメじゃん!俺がペアを組めない理由知ってるだろ!?絶対こいつ魔力酔いするじゃん!」
一年の魔法科生徒に筆記の試験が多いのに対し、一年武闘科にはペアやチームによる実戦訓練が多い。
とはいえそれらは基本同じ科の人間同士であり、それがバーデルが引き起こす魔力酔いの確率を高める一因でもあった。
魔力値の高い人間の方が、魔力に対する耐性も高く、魔力酔いは魔力値が低い人間の方がなりやすいからだ。
「魔法科の生徒の方が魔力値高いから何とかなるかと思ってたのに!こいつ武闘科生徒以下じゃん!」
おろおろするガルディウスを指さし憤慨するバーデルを、ユハスは鼻で笑う。
「おまえの無駄に高い魔力値を思えば、楽観視しすぎもいいところだな。」
制御されていない高濃度の魔力の放出に対し素の状態で耐えるには、一般的に魔力放出者の魔力値の半分以上の魔力値が必要と言われている。
「お前の魔力値の半分と言ったら、44,000だぞ?魔法科の生徒の平均魔力値はその半分どころか、その5分の1が精々といったところだ。」
「べ、別にあくまで平均であってそれ以上の魔力値の奴だっているだろ!」
「そんな優秀な奴は、とっくにペアなんて決まってるはずだな。」
学武会において、優れたペアを望むことは必然の流れであり、優秀な生徒ほどペアが決まるのは早い。
魔力値は、魔法使いの有能さを示す最もわかりやすい指標と呼ばれるものだ。
平均の5倍以上もの魔力値の生徒は当然人気も高く、ペアが決まるのも早い。
「で、でも!魔法科なら魔力値が多少低くても対処法くらい心得ている奴もいるだろ!」
魔力値の半分と言うのは、あくまで素の状態での話。
結界を張るなど、低魔力値の魔法使いにも対処法はあるのだ。
「低魔力値が高魔力値と戦うこともある学部会で、味方からの魔力酔い対策に魔力を割けと要求するわけか?」
「うっ……そ、それは……」




