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学武会におけるパートナーは事前の申請が必要である。
そして、その締切まであと三日――そんな時に、パートナーが見つからず困っていたバーデルは、思いもよらない相手から声をかけられた。
「おまえに学武会のパートナーを紹介してやろう。」
そんな第一声。
パートナーを求めてやまないバーデルにとって、ありがたい内容の言葉ではある。
しかしその声の主が問題だった。
「ユ、ユハス!?」
魔法科2年の、あまり良くない意味で有名人であるユハス。
そして、バーデルにとっては学院内の評判以前に、目の前の人物とは不本意ながら関わりがあった。
ここ数年、面と向かって話すことこそなかったが、魔法具の製造で有名なユハスとは、家ぐるみのつきあいがある。
「久しぶりだな。あと、学院では先輩と呼べ。下級生。」
「ぐっ……ゆ、ユハス先輩。」
「それでいい。」
不敵に笑うユハスに、バーデルは表情をひきつらせる。
物心つくころからの付き合いであるが、断じて気心の知れた相手ではない。
むしろ、全身全霊で警戒すべき相手――ユハスはバーデルにとっての天敵なのだ。
嫌悪すべきというよりも、小さいころから骨身にしみた絶対的な強者と弱者。
身体的にはバーデルの方が強いのだが、小さいころからありとあらゆる方法で苛められてきたバーデルにとって、ユハスは恐怖の象徴なのだ。
とはいえ、ユハスが学院に入学してから、二人に接点はなかった。
(もう、縁が切れたと思って清々してたのに!)
突然の恐怖の象徴との再会に、バーデルは戦慄する。
「い、いきなり何の用だ!」
「そう毛を逆立てるな。言ったろう。パートナーを紹介してやるって。」
パートナーのあてもないまま、締め切りまであと三日。
それが事実であれば、ありがたい言葉ではあるが――その言葉を信じられるほど、バーデルのトラウマは小さくない。
「そんなことを言って何を企んでるんだ!もう騙されないぞ!!」
警戒心もあらわに睨むバーデルに、ユハスは肩をすくめる。
「別に今回は騙す意図はないんだが……」
「嘘つけ!」
「……そこまで期待されると、企まないわけにはいかないか?」
そう言ってにやりと笑うユハスに、バーデルは震えあがる。
企みがあるかないかは、すでに問題じゃない。
仮にあったとしてもこのままだと、さらにひどい企みになってしまう。
「う、嘘です嘘です!ごめんなさい企まないで!!信じる!信じるから!!」
土下座する勢いで全面降伏するバーデルに、ユハスは鼻をならす。
「フン。はじめからそう言え。面倒くさい奴め。」
「…………っ!」
(あ、相変わらずムカつく!)
ふるふると怒りに震える拳を握りしめながら、バーデルは耐える。
そんなバーデルにユハスは言った。
「まあ、安心しろ。今回はおまえで遊ぶつもりはないからな。」
ユハスの遊び相手というのは、いじめの対象のことだ。
嘘など平気でつくユハスだが、その言葉には嘘はなさそうだとバーデルは悟り、少しだけ安心する。少しだけだ。
何故なら――
(今回の犠牲者が誰だかはしらないけど……ユハスの奴、いつも以上に悪い顔してやがる。絶対碌なことにならないぞ、コレ……)
こうして不安も抱えながらも、バーデルはユハスからパートナーの紹介を受けることになったのである。




