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ガルディウスが次のクエストに選んだのは、ゴーレムとの戦闘――それは、ユハスも予想していた答えだった。
ゴーレムの機能停止、あるいは行動不能を以て達成とするクエスト――基本的に守りが堅く再生能力にも優れたゴーレムを倒すには、その堅い守りを超える威力の魔法で再生能力が追い付かないレベルの破壊を行うか、動力源である核を破壊するかの二通りしかない。
必要とされる魔法の威力を考えれば後者が圧倒的に楽だが、ゴーレムの生命線とも言える核の位置はそう簡単に割り出せるものではない。そのため前者の手段が一般的だ。
(だけど、こいつは神眼持ちだしな。)
魔力を見ることができる神眼の持ち主であれば、魔力を帯びた核の位置の割り出しは容易。
迷いなく前者の手段でクエストを達成しようとするはずだ。
そうなれば、ゴーレムとの戦闘に難易度は格段に落ちる。
(ただし、普通のゴーレムなら……な。)
ユハスが用意したクエストは相手の魔術を見破るためのものであり――結果よりも達成までの手段に重きがある。クエストの達成不達成は、正直なところどうでもいいのだ。
否――より正確には人の不幸を喜ぶ性質があるユハスにとっては、報酬を惜しむ気持ちはないが不達成の方が望ましい。
(当初の予定とは変わるが――神眼持ちとわかっていれば、それ用のゴーレムを使えばいい話だ。)
あらゆる魔法道具の制作をするユハスが所有するゴーレムは、一体ではない。
(複数のゴーレムとの戦闘を課すつもりはないが――より相手に有効なゴーレムを選ぶくらいのことはさせてもらおう。)
報酬とする自分の単位などどうでもいいくせに、嫌がらせのためだけにそんなことを考えるあたりが、ユハスのユハスたる所以だった。
「でも、どこで戦うんですか?」
ユハスの研究室はガルディウスの部屋の倍以上の広さがあるが、それでも戦闘をするには手狭だし、室内のあらゆる機材に損害を与えかねない。
「研究室の地下には模擬戦闘用の訓練室もあるから、そっちに移動する。」
「も、模擬戦闘用の訓練室まで、一個人に与えられているんですか?」
仮面越しでもわかるくらいに驚いた様子のガルディウスに、ユハスは頷く。
「俺は優秀だからな。」
きっぱりと迷いなくされた肯定には、謙遜の欠片もない。
「まあ、研究家として優秀なのは事実よ。その分差し引いてもマイナスになるくらい人間性には問題あると思うけど。」
含みを持たせつつも、アルティナもまた優秀さについては肯定する。
実力主義の学院において、ユハスの待遇は確かに優秀であるという証明に他ならないのだ。
(……やっぱりユハスさんって、ご主人様に似てるかも。)
そんなことを思って、ガルディウスはユハスへの好感度を上げていた。




