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開かれた箱を差し出され、ユハスは唖然とした。
一体何をしたのか。そもそも魔法を使ったのかさえ、ユハスにはわからなかった。
「おまえ一体何を……」
思わず漏れた声にはっとする。
「いや、失言だ。答える必要はない。」
秘匿しないというガルディウスなら、問えば答えてしまう。
一体どうやって厳重に魔法で封印された箱を開いたのかを。
ガルディウスはあくまで自然体で箱を手に取り眺めると、人差し指で軽く数回その箱を叩いた。
そして、次の瞬間――何もないただの箱であるかのように箱を開けて見せたのだ。
たったそれだけ。
呪文の詠唱はおろか、道具の使用もなく――何らかの魔術を使った様子もなく。
何重にも魔法でロックのかかったこの箱を、これほどあっさりと――しかも、これほど短時間で開ける魔術の存在をユハスは知らない。
まるで魔法など使わなかったような――そう考えて、一つの考えに思い至る。
技術ではない生まれ持った特殊な能力――特科以外でそれを持つ者は稀であるが、いないわけではない。
「まさかと思うが、おまえ異能持ちか?」
異能持ちの中には魔法を無効化する力を持つものもある。
魔法を無効化する魔術もあり――しかし、それには十分対策をしてある箱だが、異能による無効化には必ずしも有効ではない。
そんなユハスの問いに、ガルディウスは答えていいのか迷うようにアルティナを見る。
アルティナとユハスのやりとりで魔術を教えず暴くという話になったため、どこまで話していいのか判断しかねたためだ。
「ええと……、はい。」
アルティナが止める様子がないのを確認して肯定したガルディウスに、ユハスは重ねて問う。
「今開けるのに異能を使ったな?」
「開けるのに?……使ったといえば使ったのかな?」
どちらとも取れるガルディウスの答えに、ユハスは眉を寄せる。
「どっちだ。」
「ええと、箱を開けるために使ったって意識はないけど、意識しなくてもいつも使ってるから。これって使ったと言うべき……?」
首を捻るガルディウスを、事情を知るアルティナが補足する。
「ガルの異能は『神眼』よ。常時発動型の異能だから平時であっても常に使ってはいるの。」
「なるほど。『神眼』か。要は異能の力で箱にかかっていた魔法は見えていたが、異能の力で箱を開けたわけではないということだな?」
再度問いかけたユハスに、今度はガルディウスもすぐに頷いて肯定した。
神眼持ちなら、難関と思われた解析能力に優れた魔法使い向けのクエストに真っ先に手を出しても不思議はない。
たとえ箱に掛けられた数十もの魔法のロックが見えていたとしても、どうやってあれだけ短時間に開けられたのかは謎のままだが。
しかしまだチャンスはある。
ガルディウスは、用意した全てのクエストをやるつもりなのだから。
むしろまだ2つを残す以上、1度で見抜けてしまう程度の魔術などユハスとしても望むところではない。
「おめでとう。このクエストは達成だ。――さて、次はどちらをやる?」
残る二つは戦闘系クエスト。
(何をやったか知らないが、次はこんなに短時間で終わりはしない。じっくりと拝ませてもらおうじゃないか。)




