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「彼ならつい最近、私のクエストを受けに来ましたよ。」
「じゃあその一年は、俺と同じ研究家タイプか、単位不足のどちらかってわけだ?」
「名前を教える気はありませんが、後者であることだけは答えておきましょうか。」
「へえ……そいつは意外。こいつを負かすくらいだから、低魔力値で注目されないけど知識豊富な魔法使いなんだと予測していたんだけど。」
そんなユハスの言葉に、サザーラは苦笑する。
「まっとうな推論だと思いますが、あまりに見当違いなのでもう一つ教えてあげましょう。」
「笑うほど見当違いだと?」
「ええ。彼は実技では一位ですが、筆記は最下位なんです。」
そんなサザーラの言葉に、ユハスもクロードも絶句する。
「だって先生……紋章術ですよ?」
最も難解とされる、才能だけでは使えないとされる魔法の代表格。
天才と持て囃されるクロードですら、ここまで使いこなすにはほかの魔術の何倍もの時間を費やしてきた。
感覚や魔法値だけでどうにかできる魔法ではないはずなのだ。
「……そいつは、読み書きに問題でもあるんじゃないのか?」
知識がないなんて有り得ない――そう結論を出し、知識よりも読み書きの能力を疑う。
学院の生徒の識字率は8割を超える高水準だが、中には字を学べる環境下で育ってこなかった生徒もいる。
その多くはほぼ武闘科に所属しており、そのため授業で問題となることは滅多にないが。
「確かに読み書きが苦手な生徒ではあります。ですが私は特別に、彼の筆記は追試という形で口頭での試験を行いましたから、純粋に知識量で最下位をとったのだと断言しましょう。彼には『一般的な紋章術』の知識はほとんどありません。」
「一般的な……ね。どうやら特殊な使い方らしいな。」
「そうですね。私より技術の高いクロード君ですら、彼のやり方を真似ることは不可能でしょう。」
「自己魔導よりも難しい技術が紋章術にあると?」
紋章術における最高難度の技術とされる自己魔導。
それを使うクロードが、実技で負けるそんな技術。
それも、一流の紋章術使いであるサザーラが、クロードでも真似できないと評する技術。
「自己魔導は、確かに最高難度の技術です。クロード君の技術の高さは私も認めています。技術だけなら、私よりも既に高いと言えるでしょう。ですが、彼の技術には叶わない。」
自己魔導を最高難度と認めつつも、クロードの技術を認めつつもそうサザーラは断言する。
「自己魔導を使えるクロード君と、自己魔導を使いこなす彼の差です。」




