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欠けているもの  作者: たき


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20/22

20

 お見合い当日なのに両家が揃い、うちは両祖父母も遼太さんも加わってるが、まぁ何となくな流れで夕食などを食べ、食後にお茶をいただいていた。


 なんだろ、まったり、もうすっかり結婚式の日取りが決定した感じってこんな感じなのかなって思うような慣れた雰囲気は。


 祖母たちは更に先のひ孫の名前まで考え始めている始末で、さすがに気が早いですよーと五橋の父上と母上に笑われていたが、僕はこれなんかいいんじゃないかな、などと代案を出すあたり本気で否定していないことが明確だ。


 やめてぇ。

 気の早いあの人達を()めてと、五橋にアイコンタクトを試みた。


 「ん? 何? 子どもは何人でもいいぞ」


 「違うからっ」


 五橋にも祖母たちの話はちゃんと聞こえているらしいが、本当にもうやめて。身の置き所がないんですけど。ってか悪ノリしすぎじゃね。ちょっとあざとい五橋を憎らしくもねめつける。


 そこへ遼太さんが「んなー」と鳴きながら百合乃おばあちゃまの膝をちょんちょんとつつき始めた。爪を絶対に立てない自己主張はかなり好意的に捉えられていて、すぐさま百合乃おばあちゃまが反応している。


 「遼太さん、どうしたの?」


 遼太さんは自分の体を百合乃おばあちゃまにすりすりと擦り付けて撫でてと言っているようだ。百合乃おばあちゃまはまんざらでもない表情で、遼太さんの曲線の体を優しく撫でてあげている。

 ふと、ちらりと遼太さんがこちらを見た。

 あたかも、どうだ?と言わんばかりの表情だ。


 遼太さん、遼太郎より役に立つわ!!

 身を呈して話を逸らしてくれたのね。ありがとう。


 今度は遼太さんを中心に話が展開されていっている。


 「なー、あいつ、今、こっち見て勝ち誇った顔したように見えたんだが」


 「そうね、その印象は当たっていると思うわ」


 五橋は「なぜ猫に」と不思議そうだ。

 遼太さんの賢さをこれから嫌という程、知っていけばいいさ。ふふん。伊達に21歳ではないのだよ。


 その時、ブルリとかすかな音が聞こえた。五橋が自分のスマホを手にしているから奴のが着信したんだろう。

 同時に五橋の父上もスマホチェックしてるなー。でもあの手の動きはちょっと違うな。


 ご高齢のアイドルと化している遼太さんに感謝の念を送りながらお茶をひと口含んだ。


 五橋の父上が祖父母にご自分のスマホを見せている。子どもの頃の五橋の写真だろうか。そういえば私はそういうものを見たことがないな。付き合いも短いから仕方ないけど。

 祖父母がどよめいているが、それほど子どもの頃の五橋が可愛いのだろうか。いまだにスマホを見ている隣の顔をちらっと横目で見ながら、子どもの頃を想像してみたが、まぁ、可愛かっただろうって想像が容易についてしまった。


 あ、母もジョインしたぞ。そして自分のスマホを取り出してなにやら操作している。まさか、今度は私の写真じゃないだろうな。やばい。早く阻止しなければ。


 立ち上がろうとしたができなかった。正確には横から押さえつけられてしまったので立ち上がれなかったのだ。


 「なにをする」


 「これ見て」


 五橋がそっとスマホを差し出した。そこには見たことある景色が写っている。どこかで見たことあるなぁ。そしてこの人物は、、、


 「五橋じゃん」


 画面の人物と同一人物である隣の男に説明を求めた。


 「日中のやつ、写真に撮られてたみたいだねー」


 あざとい棒読みの説明かよ。スマホを奪い取り、スクロールをしてみると何やら色々文字が書いてある。


 【RYOがモデル復帰したのかな。超嬉しいんだけど。ってか超かっこいい。絶対かっこいい】

 【これガチの・・・プロポーズ?】

 【引退して、リーマンやってんじゃ?】

 【りょ、りょう様、美しい。尊い】

 【えー、結婚するの遼!? 嘘だと言って】

 【相手の女の顔見えない、誰なんだろ。妄想するしか、、俺の嫁決定】

 【遼のこの顔、めっちゃ惚れるやろ】


 モデル? 復帰?


 「意味不明ってな顔してるなー」


 その通りですが。詳しく説明せよ。

 




 五橋の弟君がタイムラインで流れてたのを見つけて知らせてくれたらしい。

 弟いるんだね。


 「ということは、アレか。今日のお見合いは、宣伝用かなにかの写真撮影のタイミングを見計らっていたわけか。復帰するのかモデル」


 「んな訳ないだろー。無理やり悪意を込めた解釈をしなくてもよろしい。そういう嫉妬も可愛いけどな」


 ぽんぽんと私の頭に手を置き、器用に片眉を上げながら苦笑いを浮かべている五橋は、こちらの意図なんてお見通しのようだ。渾身の嫌味を込めてみたたんだがな、もっと言葉を練り込めない自分の語彙力の無さにちょっとばかりイラついた。要するに八つ当たりなんだが、華麗に躱された。


 「俺はお前の存在を隠しておきたくないし、正々堂々と一人の男としてお前にプロポーズした。まぁ場所がああいう開けた場所だし、撮影したくなったんだろう」


 画像は五橋がメインで、私は後ろ斜めからになっていて顔は見えていない。それにしても


 「綺麗な着物だなー」


 百合乃おばあちゃまの着物は本当に美しく緑の多い背景にそこだけ艶やかな花たちが咲き誇っているように見えるから、是非ともこの一枚をいただきたいと思ってしまう。


 「この画像、欲しんだが」


 「お前も物好きだな。まぁ構図も良いし良く撮れてるからわからなくもないが。でも若干ボケてるかも」


 「そうなの?」


 「スマホで撮ったんだろうけど、輪郭が少々甘い、ソフトで加工できるかな」


 思わず唸ってしまう。元プロの意見はさすがだ。被写体だったはずだが、その辺りの知識はあるらしい。


 「ところでSNS(これ)はどうなるの? どうするの?って聞いた方がいいのか」


 「どうしようか」


 今は一般人とはいえ何年か前まで顔出しのモデルだったわけで、会社の女子たちの反応やこの書き込みの様子から見るにまだ人気はあるらしい。下手に論破するにしても角が立つだけだし。印象悪いしなー。


 「とりあえず放置でいいんじゃないかな。そのうち、みんなも忘れるでしょ」


 そういうことになった。



 今度は母のスマホに着信だ。電話の。


 「あら、まぁ、そうですの? まぁまぁ、それは、もう、ええ、わかりましたわ。見ておきますわ。では明日・・・」


 どうやら誰かと明日会うらしい。途端に電話を切った母の元に速攻で父が突撃していた。


 「相手は誰? どこで会うんだ? 何の用なんだ?」


 全く余裕のない大人ほど見苦しいものはないわねぇと百合乃おばあちゃまの辛辣な言葉が聞こえてきた。おじいちゃまもウンウンと激しく同意しているし。完全にあなた方の血を引く息子ですけどね、お忘れのようですが。


 「咲夜、遼太郎さん、ああ、遼太さんではないのよ、あなたはお母様のところへ」


 すかさず返事をした賢い遼太さんを百合乃おばあちゃまにお任せし、母は私たちのところへとやってきた。


 「ねぇ、あなたがたのことなんですけどどうやらお写真が出回っているようね」


 ああ、さっきのSNSのことか。私の表情を見て母はなぜか諦めに似たため息をついた。


 「知っているのなら話は早いわ。先ほどお電話があったのは仲人さんからで、今日お見合いをした料亭のおかみさんが、至急連絡をとりたいとのことだったの。それがお写真の件でね明日お会いすることにしたわ。あなたがたも同席してね」


 そういうことになった。

 加えて、興味津々な両祖父母と五橋の父上母上、まぁ当然のことながら父も母を見ている。数々の視線をわかっていると思うが母の采配やいかに。

 くるりと体の向きを変えた母が口を開く。その前に深くため息をついたのは私は見逃さなかったけど。


 「皆様、明日(あす)は・・・」


 母が何か言う前に、全員一斉に“諾”の意味のおおいなる頷きを返している。母は何度目かのため息をついた。


 改めて母がざっと女将の来訪の内容を説明し、明日は田尾の家に集合とのことを確認しあい、おひらきになった。




 そもそもここに集まってしまったのは、父が迂闊にもお見合いの話を父方の祖父母に話をしておらず、母方の祖母(づて)に伝わってしまい、父が報告を怠った謝罪の場だったところに、父がまた暴挙を起こし五橋家を呼び出したためだ。


 しかし田尾の家と一口に言っても、今は2軒あるのさ。当然明日は我が家で行われるものだと思っていたが、そうは問屋は卸さないとばかりに田尾の本家である祖父母が挙手し名乗り出た。母の眉間のシワが一瞬刻まれたのも見逃してないぞ。ゼロコンマ秒だったが。

 当主である吉夜おばあちゃまが「今は別に暮らしてるけれど、いずれは移ってくるのだから当然でしょ。それに五橋家の皆様にも結婚前に我が家を見ていただいく必要はあるはずよ」と強権発動バリに言うものだから、母もまた折れることになった。

 名前でわかる通り田尾家は代々「夜」の一文字を名前に入れて女子が家を継ぐ。祖母の次は母だ。で、その次は私となる。なので先の吉夜おばあちゃまの言い分となるわけだ。

 五橋の皆様にはご足労ですがと断りつつも、迎えの車をやるからそれに乗って来てくださいと、良心的サービスを追加していた。

 五橋の父上が「助かります」と素直に了承していた。下手に遠慮されるより気分が良い。恐らく、父上もそれをわかっていらっしゃる。さすがだ。




 五橋とも、また明日と挨拶を交わし、ようやく長い1日が終わった。

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