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3章16 告白

どんなに遅すぎても……古いでしょうか?

 朝起きるといつものルーティンの鍛錬に精を出していた。

 そしたらダンジョン隊から『これからボス部屋に突入する』と連絡が入った。

 ギルドからの情報によれば1階に出るモンスターはゴブリンが多く、ボスはホブゴブリンが数体出てくるらしい。

 うん、何の問題も無い。

 俺はスケルトン達にGOサインを出した。

 スケルトンがボス部屋に突入して10秒程待ったら……スケルトンから『反応なし』との連絡が入った。

 スケルトンでは敵と見做されなかったのだろうか?

 まぁボスが現れないのならそのまま2階に行けばいい。

 スケルトン達は開いたままの通路を通って、2階へと消えていった。



 さて、先程ステータスを確認していたところ、タチアナさんのレベルが上がってレベル9になっていた。

 タチアナさんは竈の傍で朝食の準備をしている所だ。

 朝から独楽鼠のように忙しく動き回っている。

 周りに他の人の影は無い。

 スキルの取得には多分にプライバシーに関わる事がある。

 他の人のいない今が良いタイミングだろう。


「タチアナさん、おはようございます」

「ユウキさん、おはようございます。鍛錬はもういいのですか?」

 俺は倉庫に入っていた食材を取り出しながら話しかける。

「そうですね、鍛錬よりも大切なことがありましたので切り上げてしまいました」

 タチアナさんは小首を傾げながら疑問の問いかけを上げてくる。

「鍛錬よりも大切な事?まぁ何かしら?危ない事ですか?」

 不安そうに見上げてくるタチアナさんの両肩を掴んで正面に立つ。

「いえ、そうではありません。あなたの事です、タチアナさん。こういう事は早い方がいい。ちょうどお一人だったので思い切って声を掛けさせていただきました」

 危ない事では無いと否定されたことに安心するより、自分の事だと言われて更に不安になるタチアナさん。

 タチアナさんが見上げてくる。頬がほんのりと紅く染まっている。

 お玉がそんなタチアナさんの動揺を表すように胸の前でユラユラと揺れていた。

 そんなタチアナさんがかわいいと思う俺はどSなんだろうか。


 俺は周りを見廻して再度誰もいない事を確認するとタチアナさんに告白した。

「タチアナさん、貴女も一般魔法を、取得できるようになりました。取得を希望しますか?」

「ごめんなさい。私、貴方をそんな風に考えたことが無かったのでそんなことを言われても……へっ?一般魔法?」

 ぐふっ、タチアナさんを揶揄(からか)っていた俺が悪いんだろうが、まさかダメージを負う事になるとは……

 食い気味で振られるとは。タチアナ、恐ろしい娘。


「ええ、一般魔法です。ハウスメイドとしての仕事にも役に立つと思います。浄化と水作成はおすすめですよ」

 タチアナさんは俺の言葉を聞くと暫く考えるようにしていたが、意を決したようにまた何かを吹っ切るように質問をしてきた。

 それに俺は少なからず驚かされることになる。

「あのう、私は回復魔法を使えるようにはならないでしょうか?」

「えっ?回復魔法……ですか?」

「……はい。無理でしょうか?」


 その時、バサッと音がしてテントからテレーゼが顔を出してきた。

「おはよ~。ん?どうしたの?」

「おはよう。どうもしてないよテレーゼ。早く顔を洗って来いよ。もうすぐ朝食の準備も終わる」


 桶に向かって歩いて行くテレーゼを見送ってタチアナさんに耳打ちする。

「詳しい話は今夜また話しましょう」

 タチアナさんが軽く頷くのを確認して朝食の準備を手伝う事にする。



 今日の旅程は途中でイノシシを1頭仕留めた事の他には問題もなく野営地に到着したが、タチアナさんは完全に上の空で女性陣は顔を見合わせてどうしたんだろう?と首を傾げていた。

 俺もどこかボーッとしたタチアナさんを気にしていたんだが、それでも問題を起こす事なく(こな)してしまうあたりがタチアナさんらしいと言っていいのだろうか?



 夜、夕食が終わってから俺はタチアナさんを連れ出した。

 皆には昼間に仕留めたイノシシを捌く為に、離れた所で作業すると告げた。

 実際に野営している所で血の匂いが充満すると、モンスターや野生の肉食獣が寄ってくるかもしれないからね。

 同じく昼間にタチアナさんの回復魔法のスキルレベルを上げれる事を確かめておいた。


 フランに呼び止められて私も後で話が有りますと耳元で言われた時にはドキッとした。

 バレてーら。

 下生をかき分けながら少し離れた所の木にイノシシを吊るしてタチアナさんに話しかける。

 ロマンチックとは程遠い。

「どうして回復魔法を使えるようになりたいのですか?」

 タチアナさんの話は長かった。

 要約すると父親が狼に噛まれた傷が原因で、20日間程苦しんで亡くなったらしい。

 タチアナさんも看病したのだがどうにもならなかったと。

 自分の大切な人がそうなるのはこれ以上耐えられない。

 治せる力が欲しいって事だった。

 話を聞いて浮かんだのは破傷風という病気の名前だった。

 そうなると問題はいくつかある事が分かる。

 破傷風を『回復(ヒール)』で防ぐことが出来るか?

 防げない場合、『浄化(クレンズ)』を使って消毒除菌させることが出来るか?


 こういう事こそサーナリアさんに聞きたいんだが……

『サーナリアさん……』

『……』

 これだよ。どうなっているんだ?

 う~ん、自分たちで結論を出せって事なんだろうか?

 いつまで経っても電話に出てくれないサポートセンターなんて、現実世界だけで充分だよ。

『ただいま電話が込み合っています……』

 無言よりはましだったんだな。幻聴まで聞こえるわ。


 回復を使えるようにするなら浄化もセットにした方がいいな。

 だがまだだ。まだ終わらんよ。思考しないといけない事は残っている。

 回復を使えるようになることでタチアナさんが幸せになれるだろうか?

 これが一番厄介な問題だ。


 俺のイメージだと回復魔法=プリースト、クレリックという印象がある。

 この世界ではどうだろう?

 グー〇ル先生で調べたら、やはり教会で回復魔法による治療を行っている。寄進と引き換えに。

 もし俺が回復魔法を使えることを知ったら、教会勢力は俺の事を排除しようとするかもしれないな。

 回復魔法を使うネクロマンサーなんて存在を認めたくないだろうしな。


 タチアナさんのことは教会組織に取り込もうとするかもしれない。

「回復魔法を使えるようになってタチアナさんはどうするつもりですか?」

 イノシシの腹から不要な内臓を取り出しながら尋ねる。

 我ながら逞しくなってると思うよ。

「……どういうことでしょう?」

「教会に所属するつもりでしょうか?」

 タチアナさんはさも意外な事を聞かれたという顔をしている。

「回復魔法による治療は教会にとっては既得権益なんです。もし教会に所属しない者が治療を行えば教会にとって面白いはずがありません。教会に所属する事を強く勧めてくるでしょう。それでも所属しなければ妨害行為をしてくるかもしれません」

 タチアナさんは少し考えるような素振りを見せる。

「教会に所属しないつもりならもう一つの方法は、冒険者として活動して収入から教会に寄進する方法です。しかしタチアナさんはハウスメイドです。今から冒険者としての活動をするのは困難でしょう」

 タチアナさんは聞いてはいないが20代半ばに見える。成人の年齢の低いこちらの世界では充分……

 フランの様に選択を奪われたのではないのなら、これから冒険者になるのには遅い年齢だ。

「回復させるのが目的ならばポーションを使うという方法もあります。ポーションならスキルが無くても治療ができます。但し、治療したい場所まで持ち歩かなくてはいけませんが……。ポーションについては俺よりもフランの方が詳しいでしょう。フランは薬草を育ててポーションを作っていたそうですから……」

 タチアナさんは木の根に座ったまま、何もない空間を見下ろして考え込んでいた。

 俺はタチアナさんと話をしながらも手を休めず皮を剥いでいく。

「どちらの方法にもメリットとデメリットがあるのでよく考えて結論を出されるのがいいでしょう」


 その後も四半時程話をしていたが、結論は持ち越しになって野営地に戻る事になった。

 イノシシは枝肉にまで無事に解体された。



 俺はその後野営地で待っていたフランから衝撃の一言を受ける事になった。

「貴方を支えるのは私一人では無理です。なるべく早急に他の相手を探してください」


 ガーン!!

20/04/06 設定変更によって修正。

     スケルトンにはボス部屋は反応せず、スルーします。

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