3章17 魔法少女?
これってアレの事だよな。
まさかフランにそんなことを言われるとは……
確かに2回とも気を失わせてしまっている。
何がいけないんだろう?
調子に乗って性交渉スキルレベルを20まで上げている事がいけないんだろうか?
確かスキルレベルは1で初心者、5で一人前、10でベテラン、15で達人、20で伝説級って言われているらしい。
俺はチートでいきなり伝説級の力を使ってしまっていたのか。
キャラクター年齢1865歳でDTという事に耐えられなかった俺のちっぽけなプライド。
その所為でフランに負担を掛けていたのだろうか?
反省すべき所業だろう。
戦闘に係わるスキル以外はそんなにレベルを上げる必要は無いのかもしれない。
特に性交渉なんてスキルは相手あっての物だし、俺だけ高レベルになって無双しても楽しい物でもない。
そう言えば俺は「絶倫2レベル」も持っていたっけ。
何事も過ぎたるは及ばざるが如しって事だな。
しかしこいつは困った。
転移門の関係で今はスキルリセットをする訳にはいかない。
次のレベルアップまで待つしかなさそうだ。
そしてダンジョン隊は2階のボス部屋を素通りして、3階へと降りて行った。
夜半から降り始めた雨はいつしか激しい雨音を立てる程になり、朝が来ても止む気配すら無かった。
異世界にだって雨は降る。もう一回言う。異世界にだって雨は降るのである。
何度も目覚めながら開けた朝、雨の様子を見て早々に調理を諦めた。
竈を乾燥させて倉庫に仕舞うとタチアナさん他に告げに行った。
「この雨では調理は無理ですので以前作った物で朝は済ませてしまいましょう。皆些か寝不足でしょうから馬車内で休憩を取りながら移動しましょう」
勿論、他の意見など出ようはずがない。
多分一番疲れが取れていないのはマルケスだろう。夜中に何度も馬の様子を見に出て行ってたからな。
場合によっては馭者のスキルを取ってでも馭者を代わってやって、マルケスを休ませてやらないといけないな。
この日の移動も『乾燥』の呪文を使って道を乾燥させながらの行程となった。
何気に乾燥を使って蒸気が道の上に漂っている中を馬車でかき分けていくのが面白かった。
途中、やはりマルケスに代わって馭者をやった。
5レベルもあれば充分だろうと取った馭者スキルだが、次のリセットの時には0にしてしまうだろう。
馬車で移動している途中でもう一つ起こった事、それは……マルケスさんの身に起こった。
そうマルケスさんまでレベルが上がってしまったのである。
こういった厄介事は早くに処理してしまうに限る。
俺は自身のそう長くは無い人生に於いてさえ、そう学ぶ機会は少なくなかった。
その事に自分の運は決して良くない事も悟っていた。
今回もその方が良いと理解できていた。
「実はマルクスさんも魔法を取得できるようになったのですがどうしますか?」
馭者台に座ったマルケスさんの首が、からくり仕掛けの様にゆっくり90度曲がってこっちを見上げる。
ふと俺の頭に浮かんだ疑問は(あれ?人間の首ってこんな風に曲がるんだっけ?)だった。
降りしきる雨の中、急に気温が下がった気がした。
マルケスはやおら顔の向きを前方に戻すと一言「そうか」と呟いた。
正直、俺は「おやっ?」と思った。
もっと食いついてくると思っていたから、肩透かしを喰らったようだった。
「あなたはもっと魔法取得に積極的だと思ったんですが……」
マルケスさんはその姿勢を崩さずに、
「わしはこれでも積極的だよ。それじゃぁ何の魔法を取ろうかのぅ。水作成、浄化、乾燥は外せないとして、あと一つは……」
何かがおかしい。貼り付けたような無機質な笑顔が怖い。
マルケスさんはこんな風にしっかりした口調でしゃべる人だっただろうか?
ジグソーパズルの最後のピースの形が合わない。そんな違和感がある。
何か企んでいるのだろうか?
「発光……いや、望遠かのぅ?」
それか?!
心の審議ランプが灯る。
「望遠?何に使うんだ?」
俺の問いかけに遅滞なく返答があった。
「遠くからでも異常に気付ければ、危険に近づかないようにできるじゃろ?」
非の打ち所の無い回答だ。
予め用意されていたのだろう。
あとで皆に取得した事が伝わるようにしておけば良いだろう。
「それでいいのか?決めてしまうぞ?」
「おう、やってくれ!」
俺はコンソールを操作して、マルケスさんの一般魔法レベルを4まで上げて水作成、浄化、乾燥、望遠を使えるようにした。
「これで使えるようになったよ」
俺の言葉が終わらない内に横から声が……
「わしもついに魔法少女に……」
「そうそう魔法が使えるように……って、何処が少女やねん。おっさん」
まさか異世界でノリツッコミのスキルを試されるとは……
親父にはよく試されたなぁ……
感慨に耽っていると横から声が降ってきた。
『水作成!』
マルケスの目の前1m位の所に水が現れ、マルケスの膝に降り注ぐ。
……何故?
この降りしきる雨の中、まだ水を浴びるような真似をしたがる?
ここは『乾燥』だろう?
何故よりにもよって『水作成』なのか問いたい。問い詰めたい。
反射でツッコミそうになるのをグッと堪える。
そう簡単には突っ込んではやらない。
『乾燥』
俺は多くを語らず、呪文でもって抗議の声とした。対応もドライだぜ。
マルケスは暫く沈黙を守ったあと、
「それにしてもよく振るな。止む気配もねぇ」
「今日は移動中に止む事は無いだろう。偶にはこんな日もあるさ」
チラッと空を見つめて返答する。
俺からの返答にホッとしたような表情でマルケスが会話を続ける。
「しかし本当に魔法を使えるようになるとはな……あんた大丈夫なのかい?こんな事しちまって」
「えっ?」
「こんな事、普通の人間にはできやしない。そんな事はわしでも分る」
そう言うと横目でチラッと見上げてくる。
「そういう事は魔法を取得する前に言うものです」
俺はぽつりぽつりと語り始める。
「マルケスさん、あなたが魔法を使う事を他の人に知られてはいけません」
マルケスはそう言われた事が予想を超えていたのかビックリした顔で俺を見上げてきた。
「そこまでか?」
俺は小さく頷くとちょっとすまなそうな顔をした。
「これは前持って言っておくべきでした。無料で魔法を授ける事はあなた方で最後になるでしょう。次からは例えば一人当たり20万Gとかを貰って請け負う事になるでしょう。そうなるとどうなるか……あなた方は嫉妬の対象になってしまうかも知れません」
俺は一拍おいて続ける。
「人が最も不満を抱くのは不平等を感じた時です。『どうしてお前は魔法が使えるようになったのに俺は駄目なんだ』それがどんなに自分勝手で理不尽な主張でも彼らの頭の中では筋の通った正当な主張なんですよ」
俺は呆れているという態度を隠さずに話をする。
「マルケスさん、隠れずに魔法を使おうと思ったら働く場所を変わらなくてはいけないと思います。それが無理ならば隠し通すことをお勧めします」
マルケスは先程までの楽しそうな態度を消して、憂鬱な様子を隠さずに呟いた。
「それこそ魔法を取得する前に言って欲しかったよ」
その声は雨音にかき消されて誰の耳にも届かなかった。
久しぶりの投稿になってしまいました。
この過酷な状況に負けずに皆で頑張りましょう。
ウイルスに負けるな。




