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3章14 転移門

 冒険者ギルドの出張所を出ると、コンソールのミニマップに映ってはいけない物が映った。

 他の何物でもない、それはベルナリアのマーカーだった。

 スケルトンの護衛が付いているとは言え、いやだからこそ早く回収しないとトラブルに発展しそうな気がする。

 そうこうしている内にマーカーはゆっくりとだが、街から離れる方向に移動を始めた。

 どうやら厄介な方向に事態は推移しているようだ。

 マーカーの移動速度が上がっている。

 やれやれだ。

 どうやらトラブルは避けて通れないようだ。


 名探偵ある所に殺人事件あり。

 勇者の所には何があるんだろうか?

 少なくても平穏じゃあ無さそうだ。


 昔はヒーローに憧れた物だが、今では何であんなものになりたかったのか……

 一般市民……なんて素敵な響きだ。

 目線は遠く、満天の星空が見える。

 我ながら見事に枯れたねぇ。


 そんな益体も無い事を考えながら暫くベルナリアを追っていたら、遠くの方から喧騒が聞こえてきた。

「待ちやがれ、スケルトン!」

 まぁ、追われているのは勿論スケルトンだろう。

 だがスケルトンはベルナリアの護衛を務めている。

 当然ベルナリアの傍から離れるわけにはいかない。

 しかしベルナリアもスケルトンが意味も無く攻撃を受けるのを見過ごす事は出来なかった。

 だが、冒険者を説得する事は出来なかった。

 で、街から離れる方向へ逃げてきた。


 なんという分かり易い展開だ。

 工夫も捻りも入り込む隙間さえありゃしない。


 俺は溜息を一つ大きく吐いて、どう考えても茶番としか思えない寸劇を演じる人々に近づいていった。

「はいはい、ちょっとごめんなさいよ」

 茶番を演じる冒険者たちのかき分けるようにしてその場に割り込むと、そのままスケルトン達に近づき倉庫に収納していった。

「おい!何しやがる!何者だ!!」

 誰何(すいか)の声が冒険者から上がる。

「何者だって、冒険者だよ」

 至って普通に応対する。


「スケルトン達は回収させてもらっただけだよ」

「回収?」

 疑問符を浮かべた冒険者たちに答える。

「俺は死霊術師(ネクロマンサー)なんだ」

 俺の答えを聞いて顔を顰める者数名。

 まあ冒険者の中でも嫌われる職種(クラス)ナンバー1なのでしょうがない。

「そんなに嫌うなよ。あんまり嫌うと、俺っち拗ねて……呪っちゃうぞWWW」

 ちょっと怯んで一歩後ずさる冒険者たち。

「ちっ、行くぞ!」

 後ろの方で様子を見ていた冒険者からそう声が掛かる。

 どうやらそいつがリーダーみたいだな。

「何だよ、もう行っちゃうのか?もっと話そうぜ」

 リーダーらしき戦士風の冒険者はこちらを一瞥しただけで、冒険者全部を引き連れて立ち去ってしまった。


「ふぅ」

 冒険者たちの姿が見えなくなるまで俺の後ろに隠れていたベルナリアが、俺の横にこそこそと出てくる。

「どうしてお前がここに居る?」

 俺は少し厳しい声でベルナリアに問いかける。

 それはベルナリアが判断を誤ったからだ。

 そして俺も……

「……」

 俺が説教モードに入っていることが分かったのか、口を噤んでしまったようだ。

「どうやらお前さんは長生きできそうにないな」

 ベルナリアは表情が豊かだ。少なくとも今はポーカーフェイスや腹芸なんて事が出来そうも無い。

 長生きできないと言われて無視するわけにもいかなかったようだ。

「好奇心は猫を殺す」

「えっ?!」

「俺のいた国に伝わる言い回しだ。警戒心が強くて素早く動ける猫でも好奇心に駆られて行動を起こして死んでしまう事がある。ベルナリアは猫より素早く動けるか?」

 ベルナリアは俺の横でふるふると首を振ってみせた。

「じゃあベルナリアはどうすれば死なずに生きて行ける?」

 ベルナリアの頭に片手を乗せてわしゃわしゃとかき混ぜる。

 それが嫌だったのか俺の手を撥ね退けようと抵抗する。

 俺はベルナリアの前に回り込んでベルナリアの顔を覗き込む。

 ベルナリアは俺から顔を背けてしまう。

 う~ん、嫌われてしまったかな。

 人間にもテリトリーがある。

 その人との関係によって不快に感じる距離感に気を付ける必要がある。

「考えるんだ、行動する前にね。動く時、動いた後の安全を動く前に出来るだけ確保するために」

 少し歩いて『ゲート』の前に立つ。

「君にとって『ゲート』はまるっきり未知の物だったはずだ。もしかしたら君が首を突っ込んだ瞬間に首を切り落とされていたかもしれない。さてどうやって防ぐ?」

 ベルナリアは首を捻って考えているように見える。

 考えてくれていると思って良いだろう。

「君がこっちに来る時に何をした?」

 俺が聞くとベルナリアはいきなり右腕を突っ込んだ。

「大胆だな。もしかしたら右腕を失っていたかもしれないぞ?」

 俺の右腕が抗議するように少し痛む。

 右腕を不自由にしたお前が言うなって所だろうか。

 まさか自分の体に『おまいう』されるとはね。


「こうするとどうなるかな?」

 足元に落ちている石ころを掴んでゲートに向かって軽く放ってみる。

 ゲートの向こう側でカラカラと音がした。

「ベルナリア、『こいつ』の横で見ててくれ」

 ベルナリアを横に立たせてどうなるかを観察させる。

 もう一回石を放ってみる。

「どうなった?」

 ベルナリアは結果が予想と違ったのか少し戸惑っているようだ。

「……向こう側に出てきて落ちた」

 じゃあ次はと木の枝を拾ってゲートに突き出して前後に動かしてみる。

「これは?どうなってる?」

 さっきの石の時の結果と違っている事で頭が混乱しているようだ。

「……向こう側には何も出てない」


「さて、最後の実験だ」

 俺はベルナリアの前に移動すると、ベルナリアに抵抗する隙を与えることなく右肩に担ぎ上げると落とさないようにベルトをガッチリ掴むとゲートを潜った。

 ベルナリアは肩の上で暴れていたが小娘一人の抵抗でどうかなってしまうほど弱くはないつもりだ。

 向こう側では皆がゲートの周りで心配そうに待っていた。

「悪い、予定外に遅くなった」

 この場に馭者のマルケスが居ない事を確かめるとタチアナとベルナリアを一旦パーティから外す。

「さてベルナリア、あまり人を心配させるもんじゃない」

 そして人さらいスタイルのまま、ベルナリアのスカートをまくり上げると鼓を打つようにピシャリとやった。


「っxcvhgff!!」

 痛みをこらえるベルナリアを地面に下ろして顔を上げると予想通りの攻撃が予想外の方向から顔面目掛けてやってきた。

 タチアナさんの平手打ち。ベルナリアから来ると思ったのに。

 でもこれこそがベルナリアを危険に巻き込んだ俺が受けるべき罰だ。

「お嬢様に何をなさるんですか?!」

 すぐに二人をパーティに戻しながらタチアナさんに『回復(ヒール)』を掛ける。

 タチアナさんは悪い事してないからね。

「う~ん、おしおき?」

 これがタチアナさんに火を点けてしまった。

「どうして疑問符なんですか?!」

 美人に下から責められると弱いな。

 だが負けん。

「いや~、今一つ確信が持てなくってさ。ほら人間って確信があって動くことって実はあまりないよね。でも動かないといけない時ってあるんだよね」

 軽い調子で独自理論を披露する。

 うん、こんな奴が居たらうざいよね。

「そんな時でも安全って大切だからさ、動く前に安全だけでも確保して欲しいなって思って……で、痛みはすぐ消えるけど、恥ずかしい思いをしたことって長い間記憶に残るから。一緒に覚えて欲しいなって」

 ベルナリアは顔を真っ赤にして俺からお尻を隠すように立っている。

「あの魔法は俺だけの魔法だ。そして非常に便利で尚且つとても危険だ。俺が一度行った場所でここに出口を設定したいと思えばいつでもそこに行くことが出来る。一瞬でね。この魔法の事がみんなに知れ渡ったら、良い事に使いたいと考える人もいるだろうが、その何百、何千倍もの人が悪巧みを企むだろう。だから人に知られていい魔法じゃない。だから何も言わずに使ったんだが、結果的に危険に巻き込んでしまった。すまなかった」

 俺はベルナリアに頭を下げた。

 顔を上げると俺はベルナリアに問いかけた。

「ベルナリア、『転移門(ゲート)』は便利な魔法だ。王都からの帰りは一瞬でノーラタンまで帰る事も可能だ。俺が仲間と認めた物を7人までなら一緒に転移する事ができる。でも一回行った事がある場所なら王城の謁見の間だろうと、国王の執務室だろうと一瞬で7人までなら連れていくことが出来てしまう。誰でも知っていていい魔法じゃない。それは理解して欲しい」

 それだけ言うと俺に限界が訪れた。

(く~っ)

 お腹が空腹を主張した。

 自分で言うのも何だが、意外とかわいく鳴いたもんだ。

「プッ」

 噴き出したのは誰だったのか。

「……ふうっ、食事にしましょう」

 タチアナさんの宣誓によって解放された俺は、倉庫からパンを取り出してバスケットに入れ食卓に加えた。

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