第21部 決意の試練
目を開くとそこは真っ白な空間。
何もない。何もないのだが、不思議と来たことがあるように感じた。
一瞬、ここに何をしに来たのかということを思い出したはいいものの、何をすればいいかわからない。
「神器が課す試練ってなんだろう…」
そう呟くものの、現状どこが上か下かも分からない空間だから歩くこともできない。
「ペルセウス…じゃないみたいだな。髪色を見るにローランでもないな。アンタ、ナニモンだ?」
突然、男の声が響く。
どこからだ、と警戒しようにも方向感覚がつかめない。
とりあえず、ローラン様を知っているようだから、とりあえず返事することにした。
「僕はユキムラサツキ!サンダールーンブレイドの力を借りに来たんだ」
「ほう?この俺にか?」
すると逆立った金髪と顔に稲妻のタトゥをした青年が逆さになって僕の目の前に現れた。
「俺がそのブレイド様だ。今は人の姿だが、お前が見たピカピカの剣と同一人物で間違いないぜ」
一瞬消えたと思ったら、スパーク音ともに少し距離を離した。
彼の手にはバチバチと音を鳴らす電撃の塊のようなものが浮いていた。
塊ではないものの音や光の強さなんかは魔王城の地下で見た剣のものとよく似ている。
「なら、話が早い。僕に」
「断る」
「…え」
この即答には焦ったが、よく考えてみれば当然の返答だ。
しかしこの後、思いもよらない返事が返ってくる。
「お前、俺に力を貸せと言ったよな?アレが気に入らねえ」
「…えっと」
「大体、契約だの試練だのかったりぃ。多分、ローランの奴に試練がどうこう言われてきたんだろ?」
「あ、はい」
「シャキッとしろユキムラ!追い返すつもりはねえよ」
また一瞬消えたと思ったら肩を組まされる。
「いでで!つ、つまりそれって…」
「お前の剣になってやる。どうせなら貸し借りじゃなくてフルで使い切って見せろ」
「そ、そんなあっさりでいいんですか…?」
「俺は人間が好きだ。ペルセウスやローランはそうじゃなくなっちまったけどよ…」
「ローラン様を知ってるんですか?」
「ああ、勿論だ。まあ、ペルセウスも含めてもう顔も見たくないけどな」
この人、いや剣とローラン様や英雄ペルセウスはどんな関係性だったんだろう。という考えは彼の話によって遮られてしまう。
よほど誰とも話していなくて暇だったのだろうか。
「んでユキムラ。これから俺の信念を話そうと思うんだが、お前は人間とそれ以外の種族、この違いがわかるか?」
「…えっと、天使とか悪魔とか、エルフみたいなものとの違いですよね…」
いきなりの質問に僕は少し慌てて考えて答えを出す。
「技術力?が高い?」
「違うな。でもまあ、あながち間違いではないな」
肩を組んだ腕を解き、宙返る。
「人間は常軌を逸した発想ができる。ってのが俺の答え。魔法も力も、何もなくて弱いから人間は考える。弱いからこそ見える世界がある。弱いからこそ、生き残るための術を編み出した」
「でもそれって他の種族でもできるんじゃ…」
神器の青年は舌を鳴らして指を振る。
「最初から何かしらの特徴のある種族とは違って人間は無個性だ。だがカタチはどうあれコツコツ努力している。俺はそんな人間たちを支えたいんだ」
パチンと指を鳴らしてニッと笑う。
「……」
「どうした?」
「……君ってすごいよね。剣なのに自分ってものを持ってて…」
僕はいつの間にか愚痴をこぼしていた。
これから二人三脚していく仲になる相手なのに、こんなことしてしまえば嫌われてしまうんじゃないか。
そんなことは考えられなかった。
情けなくて、惨めで、羨ましかった。
自我やエゴを表に出せずにもう一人の人格に怯えて生きていること。
この世界で起こっていることと自分の立場。
思いつくだけ全部吐き出した。
共感できる相手ではないだろうし、こんなこと分かってくれるはずもない。僕は自棄になっていたのかもしれない。
「お前、ほんと頭固えな。マジメすぎんだろ」
彼は微笑みながらそう言った。
「……?」
「人間ってのはわがままでいいんだよ。秩序とかそういうのは大事かもしれないけど他人迷惑かけない程度にはしゃぐくらい問題ねえだろ?」
僕が今まで閉じ込めていたことも話していたのにヘラヘラと笑っている彼に苛立ったのか僕は彼を睨んでいた。
「…僕のこと何も知らないのに勝手に自分だけ喋ってさ…。もうなんなの!わけわからないよ!異世界に大陸ごと飛ばされたと思ったら悪魔に誘拐されて、変な使命託されて…。体は勝手に動くし、みんなから変に期待されるし…。命を狙われたことだってあるんだ!」
気づけば彼の胸ぐらを掴んでいた。
強く握りしめていたが、彼は抵抗しなかった。
「…ちゃんと言えたじゃねえか」
「…!」
僕の中で何かが動いた。
残虐で恐ろしいものではなく、希望ある輝かしく燃えるようななにかが…。
「で、お前はどうしたいんだ。人格とやら抜きで、お前自身のやりたいことを言ってみろ。億万長者でも美女のハーレムでも構わないぜ。全力で叶えるのを手伝ってやる」
僕はいつの間にか手を放していた。そして、誰にも言えなかった本音とこれからの本音を話した。
「僕は…正直逃げたいと思ってる。でも逃げたら何も知らないまま、後悔を残して死んでいくと思うんだ。僕は勝ち負け以前に後悔したくない。これ以上、僕が愛した卓球で傷つく人たちを、死んでいく人たちを見たくないんだ!」
「つまり?どうしたいんだ、具体的に言ってみろ」
「だから…魔王杯で優勝してこの世界を争いのない世界に変える!」
「フッ、そういうところ。人間のそういうところ好きだ。逃げ道が見えていても己が行きたい道を貫き通す、その魂の輝きがな」
僕は決意した。
今までのものとは比べ物にならないほどの固い決意。
僕を認めたこの剣の契約とともに、この世界を必ず変えてやると誓った。




