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暗闇

「いいかい?ユリ」

 暗闇の中でレンはいつになく低い声だ。

「これからしばらくしたら非常用電源に切り替わる。それまでどれくらい時間があるのかは分からないけれど、今日外に出ようと思うなら、今からの道中で失敗は許されない。もし途中で失敗したら、管理人さんたちがボクらを意図的に外から隔離していると仮定するならだけれど……」

「分かってる。そのつもりでここまで来たんだから」

 低い声は暗闇の中で不安げだった。いつもはむしろレンの方が冷静なのに。そう考えると少しだけ可笑しい。立場が逆でしょう?でも、むしろ冷静だからこそ不安なのかもしれない。

「ねえ、ユリ。始めたらもう後戻りなんかできない。本当に、やるの?」

「もちろんだよ。もう私たちはシャーリーも巻き込んでいるし、あの三人の名前も考えて、つけてしまった。その時点で、私たちはあの三人の考えに乗ったんだ。これはもう私たちだけではどうにもならない、最初から後戻りなんて考えることはできないようになってるの」

 自分で言っていて変な感じだ。レンはむしろ、冷静だからこそ不安げなんだ。

 あのホタテの髪留めの子、あさりちゃんの計画は一見うまくいきそう。だけどそれはあくまで推測したことが全てあっていたなら、の話。あさりちゃんは賢いし、計画を立てるときに手伝ってくれた二人だって私なんかよりもずっと勉強してる。それでも見たことのないものをすべてわかるはずがない。

「ある程度考えていなかったことがおこっちゃうのは仕方がないんだよ」

「でも……もしそれが大失敗につながるようなことだとしたら」

「それでも」

 レンの言葉を遮る。

 私はとっても意地悪だ。

 よく考えもせずに、都合の悪いことをわざと無視しているのを自覚しているのに、よく考えて、すべてを見渡してくれているレンの心配を無視しようとしているんだから。

「それでも私は、外の世界が見てみたい」

 少し強めに、レンを説得するつもりで言った。それでもレンは戸惑っているようだった。

 戸惑ってはいるが、もう決めたようだった。

「分かったよ、ユリ。もう余計なことは考えない。案ずるより産むがやすし、だ」

「策士策に溺れる、ともいうかな?」

「それは使い方が間違っている」

「へへっ、そうだっけ。でも私たちは、その産むってことが本当は何なのかも分からないんだよね」

「……ああ」

「それも外で確かめなくっちゃね。まだまだ分からないことばっかりなんだから」

 隠されていることばっかりなんだから。

「ユリ、そろそろ行こうか。あまり時間をかけちゃいけない。ボクらの成功が、まず第一条件なんだから」

「うん、そうだね。行こうか」

 目も慣れてきた。先に動き出したレンの手にそっとさわる。

「どうしたの?なにか確認しておくことが残っていたかな」

 その手は小刻みに震えていた。もちろん、私だって。

 レンの手をにぎる。

「レン、ありがとう。レンがいなかったら私……」

「ユリ。まだお礼を言うときじゃないよ」

 レンの手がにぎり返す。

「これからもよろしく、だよね?」

「……よろしく、レン」

「うん。頼りにしてくれると嬉しいよ」

 さあ、急がなきゃ。ほかの三人も待っている。


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