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未来視の月華は選べない  作者: もんちょ
第三章 悲恋の花
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第四十七話 賭け事

えー


 薄闇が落ちた大広場には、沈香の香りと息を吸うだけで酔ってしまう程に、酒のツンとする香りが漂っていた。座の一角には繊細な薄絹の帳の奥に、人影が淡く浮き出ている。


「星蘭、あれって……」


 僕が目線でちらりと薄絹の帳を見れば、星蘭は理解したよう

に顎を上げる。


「あぁ。あれは多分、名妓だな」

「名妓って一流の妓女なんだよね、確か」


 大広場の影漂う隅で、僕達は観察するように見渡した。広がっている景色は、妓女と役人などの男たちとのやり取りばかりであった。名妓の仕草は影でも分かるほど、何処か親近感を持たせるような柔らかな動き。品やかで細かい。


「っていうか、僕たちは遊んでいる場合じゃないのに……」

「だが、情報はある程度分かっただろ? 聞く事はもう無いと思うが……」

「とある商人が誰なのか分からないよ。その商人が分かるまで、徹底的に調べないと―――」


 袖が引っ張られる感じと衣擦る音が耳をやんわりと包んでいた。


「お二人さん、遊ばないの?」


 僕は肩が跳ねる。振り返れば、一人の女性が顔を覗いていた。


「……っ。いや、その遠慮するよ」


きめ細かな肌に艶やかな長い彼女の髪が、緩やかな川のように肩から流れていた。


「勿体ないわね~。私、これでも一応、紅牌(ホンパイ)なのよ?」


 頬に片手だけ添えて、首を傾げながら、くすりと微笑んでいた。他の客である男たちがこそこそ愚痴を吐いている。巻き込まれるのは御免だと後ずさっても、紅牌である彼女は知っていても尚近づいてくる。


「あら。結構、初心なのね」


隣で見ているはずの星蘭は、僕を見て意地悪そうに腕を組んで口角が上がっている。思わず、僕は呆れた目で星蘭に目配せした。


「紅牌である貴方様の相手は、もっと学のある他の男性の方が……」

「貴方、身なりはかなり整っているのだから、位が高いのはお見通しよ?」


 僕は口を結ぶ。僕の揺れる紅いタッセルピアスは、頬をくすぐっていた。彼女の喉からまだ言葉を奏でている。


「という事は、科挙は受けたのかしら」


 思わず後ずさる僕を庇うように、星蘭は組んだ腕を降ろし、平坦な声で言葉を吐く。


「高い位を持つ方に雇われたんだ。科挙は受けていないが、教養は受けている」


 星蘭の言葉で、彼女は斜め上に目を逸らしたのかと思ったら、深く微笑んでいた。


「今の時代だと推薦式ができるのは、かなりの高い位を持つ方しかできないわね。三槐や三師、それとも次期皇帝様だとか……」


 僕はびくっと肩が上がる。その仕草を見逃さないとでも言うように彼女は口を開いた。


「いずれにしても、お二人とも学のある方たちなのでしょ?」


 跡形もなく僕たちの言葉を砕いた。言い返す言葉が思い浮かばず、息をする生命の音しか聞こえない。


「では、私と勝負できますよね?」


 くすくす笑う彼女に、僕は息を吐いた。


(言葉の駆け引きが上手い気がする……)


 一番の看板である妓女だからできる芸当なのだろう。僕は無意識に足元ばかり見る事しかできない。


「……僕は星蘭の次に貴方様と勝負するよ」


 星蘭は目を伏せ、顎を小さく引いてくれた。もしかすると、彼は僕が何を考えているのか分かったのかもしれない。


(……相手の観察をしないと勝てづらいからね)


 彼女は嬉しそうに盤を持ってきた。机にコト、と置き、彼女は椅子にふわりと座る。続いて、星蘭が向かい側に座った。周りの客がざわつきながらも、しっかりと此方に目を向けていた。


「では、私が二回負けたら名妓に会わせてあげましょう。まぁ、二人とも私に勝ったら、の話だけれど……」


 星蘭は眉を顰める。彼の紅い髪から、簡単には消えない炎の色が浮かんでいた。


「……逆に私が一回でも勝ったら―――」


 彼女の持っている扇子がバッ、と音を立てて開かれる。


「次期皇帝様の弱点を、一つ教えてもらいましょうか」

んー

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