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シェリルの泣きが入り、延長で練習していると、お母様が帰宅した。
「何かしら、それは?」
「パターゴルフです。」
私がお母様に説明していると、お父様も帰宅したので、そっちは、ビルに説明を任せた。
お母様の第一打は、ビルと同じストレート軌道だったが、カップの上を見事にオーバーしていった。
うーん、まさにお母様らしい。
「穴が小さいんじゃない?」
「いえ、力が強すぎるんです。」
私は、そう言って、お手本を見せた。
「ふむ、力加減が必要なのね。」
「はい。」
最初から真っ直ぐ打てる人は、力加減だけなので、直ぐに入るようになる。
お母様がカップインしたところで、初心者用コースをお父様に渡した。
さて、片側が山になっているコースだが。
まずは、私が挑戦する。
1回目、ラインの読みが甘く、カップよりだいぶ手前で落ちていった。
「ふむ。」
ラインを修正して、第二打。
かこっ
ごろごろごろ
いい感じで、カップに向かっていくボール。
そして。
カランコロン。
「おっし!」
見事カップイン。
女中頭とリリアーヌが拍手してくれた。
シェリルは対抗心を燃やしているのか、すごい形相で睨んでくる。
「私もやってみるわ。」
お母様が言った。
「軌道は、私が打った通りにしてください。」
「分かったわ。後は、力加減よね?」
「はい。何度か練習すれば、判ってきますので。」
その後、何度か練習したお母様は、見事、カップインさせた。
「ボールが入ると気持ちいいわね。」
どうやら、気に入ってくれたようだ。
片側が山なりのコースは、今、シェリルが練習中だ。あんたにとっては、今、仕事中じゃないのか?
「ねえ、シェリルは今、仕事中じゃないの?」
「既に、業務時間は過ぎておりますので、違います。」
「・・・。」
泣きが入って、延長に次ぐ延長で、業務時間外になったのは己のせいじゃなかろうか?
「アウエリア、このパターゴルフというものは、どうするの?」
お母様が聞いてきた。
「これは、試作品なので、とりあえずは、このまま大広間に置いておきますが、正式に完成したら、私の部屋にいくつか設置します。」
「なるほど。私の部屋にも置こうかしら。」
「でしたら、シェリルに言っておきます。いくつにします?」
「アウエリアはどうするの?」
「私は、基本のストレートコースと、あと2つは難しいコースの計3つにします。」
「真っ直ぐのコースって必要なのかしら?」
「はい、基本なので。」
「そう、じゃあ私は基本を含めて2コースにしておくわ。」
「わかりました。」
「ねえ、シェリル。」
私は、猛烈、練習中のシェリルに声を掛けた。
「今は、集中していますので、話しかけないでください。」
こ、こいつ・・・。
貴族の屋敷でやりたい放題だな。
「あっ、何を・・・。」
リリアーヌが、シェリルからパターを取り上げた。
「あなたは、商会の人間でしょ?仕事をしなさい。」
「今は業務時間外です。」
「・・・。」
リリアーヌが絶句した。
しかし、パターを持っていない、今がチャンスだ。
「シェリル。コースを追加で頼むわ。」
「えっ、ええーっ!今も3コースを作成中なんですが・・・。」
「あと2つお願いね。」
「そ、それは時間が・・・。」
「ちなみに追加分は、お母様の部屋用なので。」
「うぐっ・・・。」
宰相婦人用だ。
死ぬ気で頑張るといい。
「じ、時間も時間なので一度、商会に帰ります。」
シェリルは、焦って商会へと戻っていった。
ふむ、あの感じだと、お母様の注文がなかったら、直帰するつもりだったのだろう。
夕食までのひと時、私は部屋でのんびりしていた。
リリアーヌは屋敷には戻って来ているが、今日の私の側には女中頭が控えており、部屋にリリアーヌは居ない。
こうやって、のんびりするのもいいものだ。
そんな、のほほんとした時間が、大きな音で、終わりを告げた。
バンッ!
私の部屋の扉が大きく開かれた。
「何ですか!リリアーヌ。行儀が悪いっ!」
珍しく女中頭が、リリアーヌを叱った。
「今は、それどころではありません。お嬢様助けてください。」
そう言って、私の後ろに隠れるリリアーヌ。
何だ、何だ?
「待ちなさい、リリアーヌ。」
リリアーヌを追いかけてきたのは、お母様だった。
「あんた何やらかしたの?」
「何もしていません。パワハラです。」
なんとこの世界にもパワハラって言葉があったのか。
実際は別の言葉なのだが、私的には、同じ意味で感じられた。
「パワハラでは、ありません。ちゃんとお金を払うと言っているでは、ありませんか?」
何の話だ・・・。
「何の話ですか?」
私は、お母様に聞いた。
「何てことは、ないわ。リリアーヌのブローチを買い取ろうとしているだけよ。」
パワハラだっ!
身分が上の者が、それを言ったら、完全にパワハラだ。
金を払えばいいものではない。
そもそも買い取るという文言の中に取るという言葉が入ってる。
「ねえ、リリアーヌ。お母様に自慢でもしたの?」
私の後ろに隠れているリリアーヌに聞いた。
子供の私の後ろに隠れきれる訳なんてないから、私の後ろに居るのはバレバレだが。
「そのような愚かなことはしません。」
「じゃあ、ダリアやエルミナに?」
「そんな事をしたら、奥様にバレてしまいます。」
「あれ?じゃあ何でバレたの?」
「今日のお茶会で他家のメイド仲間に自慢したのが、奥様の耳に入ったようで・・・。」
「・・・。」
愚かなりリリアーヌ。
「お母様、このブローチは、メノウを使ってますし、貴族には相応しくありませんよ?」
「そんな事は、どうでもいいのよ?アウエリアが初めて作ったブローチでしょ?部屋に飾っておくわ。」
「・・・。」
どうすりゃいいんだ、これ。
「奥様、差し出がましい事は重々承知していますが、貴族たるもの使用人の物を取り上げるのは、どうかと思われます。」
女中頭が、諫言した。
「サリー、何も私は取り上げようとしているわけではないのよ?」
「買い取るも、取り上げると変わりありません。」
うんうん。
女中頭の言うとおりだ。
というか、サリーって名前だったんだ。
( ..)φメモメモ
「お母様、今、私は自分のアクセサリーのデザインで時間が取れませんが、終わったら、お母様用のアクセサリーを作成しますので、それで、ご容赦ください。」
妥協案だ。
私が、苦労すればいいだけだ。
「なんだか、私だけが悪者みたいね。まあ、いいわ。楽しみにしておくわ。」
何とかお母様が引き下がってくれた。
お母様が私の部屋を後にして、リリアーヌは私の部屋に残った。
「いいですか、リリアーヌ。他家のメイド仲間なら問題ないと思ったようですが、メイド仲間の話は、広まるものだという事は知っているでしょう?」
サリーが、リリアーヌを叱る。
珍しい状況だ。
この家のパワーバランスは、少し他家とは違う。
通常、家人のトップは人事を持っているお母様だ。
次は家令になるわけだが、当家の家令は、宰相であるお父様を補佐している為、家の事には極力関わらない様にしている。
で次点は、一応、令嬢である私だ。
ここまでは、そう変わったことではない。
問題は、その次だ。
何故か、鉄仮面三姉妹がそこに当てはまる。
本来なら執事長がその位置にあるべきだと思うのだが、執事長は物静かな中老の男性で、一歩引いた位置にいる。
その為、リリアーヌ達が叱られる事はないのだが。
「少々浮かれていたようです。次からは気を付けます。」
「奥様は、お嬢様の事になると、見境がなくなりますので、あなた達、側仕えが気を付けるように。」
「はい。了解しました。」
「まあ、使えるべき主から、手作りのブローチを貰った、あなたの気持ちもわかりますけどね。」
そう女中頭は締めくくった。




