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レントン商会から、ブローチが完成したとの連絡があったので、レントン商会へ行くことになった。
屋敷を出ると私の側には、リリアーヌ。
逆側には、屋敷を出た後に即、凸ってきたクロヒメだ。
門を出る時に引き離される運命では、あるのだけど。
とりあえず、頬を優しく撫でといた。
少し離れた所に6名の精鋭が。
私が庶民っぽいコーデをしているのに台無しだ。
さて、屋敷の正門で時間をとられた後は、特に問題もなくレントン商会へと到着した。
「ようこそレントン商会へ。お嬢様、パーシヴァルから伝言があります。」
「へえ、何だろ?」
「『お菓子屋の件、ありがとうございました。』と。」
「えっ?まだ何もしてないけど・・・。」
「既に当家から餡子の注文をしております。」
リリアーヌが教えてくれた。
「そうなんだ。でも、それだけでしょ?」
「アーマード伯も、ご友人がた含めて注文をしたと聞いております。」
「なるほど、叔父様も動いてくれたんだ。」
「お嬢様には、影響力がありますね。」
レントン商会の会頭が、そう言った。
「私というより、侯爵令嬢に影響力があるのよ。」
「同じことでは?」
「まあ、今の私はその地位にあるから、同じことだけど。」
個人の力と地位の力は、全然違う。
地位はいずれ失うものだ。
それを理解しない者は、前世でも多かった。
エンリの部屋に案内されると、満面の笑顔で出迎えられた。
はいはい、今日も昼食は豪華なのね。
「お嬢様、素晴らしいものが出来ました。」
エンリがそう言って、ブローチを出した。
何故か今日は、兄である会頭も部屋に残っている。
私は、出来上がったブローチを覗き込んだ。
すばらしい。
その一言につきる。
煌びやかに光り輝く銀細工に、落ち着いた緑のメノウがしっくりときている。
さすがエンリだ。
ドワーフの弟子は伊達じゃない。
「凄いわね。エンリ。」
「私は磨いただけですが・・・。」
そうだけど、銀細工は磨きが命とも言われてるんだから、もう少し誇ってもいいのでは?
「そんな事よりも、これはどうするんですか?」
「へ?」
どうするとは?
「どなたかへのプレゼントですか?」
「特に考えてないわ。」
「じゃあ、売りましょう!」
エンリの目がお金になってる・・・。
「でもほら、メノウだし。貴族が使うには、ちょっと地味じゃない?」
「確かに貴族なら、そうでしょう。ただ、平民の富裕層には、十分ですよ。ねえ、兄さん。」
「売り物にはなりますが、お嬢様は、売る気があるのですか?」
「いやあ、特には・・・。でも、まあ初めて作ったものだし、売るのは、ちょっと。」
「お嬢様が初めて作ったのですか?」
リリアーヌが、ブローチをジッと見つめながら、私に言ってきた。
「そりゃあそうよ。リリアーヌだって見てきたでしょ?」
「当家に来る前のお嬢様は知りませんので。」
「前の家でも作った事はないわよ。」
前世では作ってるけど。
「初めてで、この出来は、素晴らしいですね。」
会頭が絶賛してくれた。
「じーーーっ。」
食い入るように見つめるリリアーヌ。
じーーーって、声に出す人おったんや・・・。
「何?欲しいの?」
「はい。」
即答かっ!あまりの潔よさっぷりに、呆れるを通り越すわっ!
「ちょっと付けてみる?」
私がそう言うと、リリアーヌが、屈んで私に付けろアピールをしてきた。
仕方なく、取り付ける私。
メイド服に、このブローチはどうだろ?
そう思ったが、落ち着いた緑色のメノウが、メイド服にしっくりときた。
「どうでしょう?」
「似合ってるわね。」
「王宮のメイドのようです。」
エンリが言った。
「王宮のメイドを見たことがあるの?」
「ありませんが・・・。」
ないんかいっ!
「宰相家の側仕えとして、申し分ないんじゃないでしょうか?」
レントン商会の会頭がそう言った。
「まあ、いいか。リリアーヌにあげるわ。」
いし拾いも、一緒だったし、別にいいか。
「お嬢様の初めてを頂きました。」
そう言って胸を張るリリアーヌ。
言い方っ!
私は、内心で突っ込んだ。
帰り道にお饅頭屋に寄って、お土産として買って帰った。飴屋の方は行列が出来ていたので、スルーしといた。
アーマード商会の人間が私を訪ねてきた。
「初めまして。王都支店のシェリルと申します。今後、お嬢様の担当となりますので、以後、宜しくお願い致します。」
アーマード商会というだけあって、王都は支店なんだ。
しかし、私担当ってなんだ?
眼鏡美人で、できる女って感じの人だけど。
「えーと、宜しくね。シェリルさん。」
「どうぞ、シェリルとお呼びください。」
「ああ、はい。」
「本日は、お嬢様がご依頼になっていたパターゴルフと言われるものの試作品が出来ましたので、お持ち致しました。」
「おおー。」
すっかり忘れてたわっ。
今日は、リリアーヌもおらず、私の側には女中頭の女性がついている。
50代くらいの人で、とても優しい人だ。
私に何かを言う事もない。
そして、父母も居ない中、何故か叔父様だけは居た。
「ふむ、これが、アウエリアが、うちの商会に頼んだものかい?」
商会の人が、パネルを並べているのを興味津々に眺めている。
「設置完了しました。」
「ボールとパターを取ってくれる?」
「これですか?」
そう言って、シェリルがボールとパターを持ってきてくれた。
ゴルフは別段、得意でもなかったし、そんなにコースを回ったわけではない。
ただ、パターゴルフは、それなりにこなしてきた。
今人生初のパターゴルフ。
試作品のコースは2つ。
この初心者用のストレートコースを外すわけにはいかない。
いざっ!
かこっ。
軽快に走るボール。
おお、いい感じ。
そして。
カランコラン。
おおーっ!爽快な音がっ!
「なるほど、音に細かい仕様が書かれていましたが、こういう事だったんですね。」
シェリルが言った。
「ふむ。簡単そうだが?」
叔父様が言った。
これの何が面白いんだ?と言いたげに。
「叔父様もやってみてください。」
私はそう言って、パターとボールを渡した。
「ふむ。」
見よう見真似でパットした。
かこっ。
斜めに走ってコースアウト。
うん、お手本の様な失敗だ。
「なぜ、まっすぐ進まない・・・。」
「叔父様、ボールに当てる時に、この様に面を真っ直ぐにして当てないと、真っ直ぐは進みませんよ。」
私は、パターの面を叔父様に示して、説明した。
「理屈は、わかるんだが、見るとやるでは大違いだな。」
「ご領主様、私が試しても、よろしいでしょうか?」
「ああ。」
叔父様はパターをシェリルに渡した。
シェリルもお手本の様なコースアウトを見せてくれた。
「これの何が面白いんですか?」
眼鏡をキリっと持ち上げて、シェリルが言った。
「そうゆうことは、カップインしてから言ってくれる?」
「くっ・・・。」
「姉さん、何してるの?」
叔父様とシェリルが練習していると可愛い弟のビルが寄ってきた。
「パターゴルフよ。ビルもやってみる?」
「どうやるの?」
簡単にビルに説明して、パターとボールを渡した。
「ビル様は、まだお若いですし、難しいのでは?」
未だ、真っ直ぐに転がらないシェリルが言った。
カコンっ。
ごろごろごろ。
真っ直ぐに転がるボール。
しかし、カップインすることは無かった。
所謂、ショートという奴だ。
「ビル、惜しいわ。次はもうちょっと強く。」
「ちょっと待ってください。順番です。順番っ!」
な、なんだかなあ。
出来る女風だったのに・・・、私の中のシェリルの株が急下落していく。
その後、真っ先にカップインしたのはビルだった。
最初から真っ直ぐ転がせるんだから、それはそうだろう。
辛うじて叔父様が次点で、最後がシェリルだった。
「くっ!」
いや、あんた何本気で悔しがってんの?
シェリルからしたら、叔父様は領主であり、ビルは宰相子息でしょうに・・・。




