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「とりあえず試してみましょう。」
そう言って、再び修練が始まった。
キン、キン・・・ガッ、ゴッ・・・。
途中から剣戟の音がおかしい。
脳筋が持っている練習用の剣は、普通の剣で刃引きしてある。
終わった後に、脳筋が、剣の刃を見せてくる。
ボコボコになっていた。
す、すげぇ・・・。
「このように、チョウフ貝の殻は、強度が鋼を超えます。」
「これで普通の剣を作ったら?」
「刃は出来ないようです。そもそも、このように円柱に加工するのもドワーフにしか出来ません。」
「へぇ・・・、これ貴重なんじゃないの?」
「試しに2本作られたうちの一剣になります。」
「私が貰っていいの?」
「はい、使うものがおりませんので。」
「せっかく作ったのに?」
「軽すぎて、練習にならないんですよ。」
「中に何か重石でも、付ければいいんじゃない?」
「チョウフ貝は、中側の強度がなく、重石を入れると壊れました。」
「そ、そうなんだ・・・。」
って、2本のうちの一本が壊れたら、これ、ラス1なんじゃない?
「本当に、私が貰っても?」
「はい。」
しかし、なんで誰も使わないんだろ?
刃があったとしても相手の剣は、ボコボコになるんじゃなかろうか?
そして、ふと気が付いた。
「これって鞘がないのよね?」
「はい。」
遠目に円柱の剣を見る。
あれだ、おもちゃにしか見えない・・・。
「貰っておいて何だけど、おもちゃにしか・・・。」
「ええ、王宮騎士では、それが理由で誰も使いたがりません。そもそも、相手の剣は、ボコボコに出来ても、相手が切れませんから。それ故、お嬢様には最適かと。聞きましたよ。平民街を闊歩しているとか。」
闊歩はしてない。
平民の中にいてもおかしくない様にしているだけだ。
「お嬢様の腕なら、その辺の悪党やC級程度の冒険者であれば、問題ないと思います。」
「え?私、C級冒険者に勝てるの?」
「勝てませんよ?」
おちょくってんのか、脳筋・・・。
「あくまで、自衛が出来るというだけです。まあ剣がボコボコになりますから、泣いて逃げるか、衛兵が駆けつけるまでの、時間稼ぎは出来ます。」
私は、佩剣してリリアーヌの方を見る。
「どう?」
「子供がおもちゃを下げているようにしか見えません。」
「・・・。」
私は気を取り直して、ビルの方を見る。
「ビル、どう見える。」
「おもちゃにしか見えないよ、姉さん。」
「・・・。」
「なるべく、出かける時は、佩剣してくださいね。」
脳筋が言う。
プラスチックの剣を貰った子供が、持ち歩くのは前世で見たことはあるが、確か3、4歳くらいじゃね?
えっ、10歳で、私、これ持つの?
恥ずかしくない?
まあ、いいや、ここは素直に頷いておいた。
持ち歩かなければいい。
うんっ!
午後、クロヒメに乗馬。
あれ?乗馬の時間って、午前じゃなかった?
なんで、午後になってんの?
私が思考にふける時間すら与えず、クロヒメが駆ける。
くっ。
「落ち着きなさい、クロヒメ。」
「ふふふん?」
落ち着いてるよ?
落ち着いてねえよっ!
クロヒメの気がすむまで乗馬した後に、ブラッシングしてあげたので、クロヒメは上機嫌だった。
時は来た、いざ決戦の時!
紅茶の香りに目が覚めたものの・・・。
ああ、怠い。
風邪だろうか?今日は一日、寝ていたい。
しかし、そういう訳にもいかず。
朝、お父様とお母様、そしてダリアと共に王宮へ向かう。
前日に、ダリアが共に行く事が決まったのだが。
「展示室には、貴族しか入れないし、リリアーヌでも問題ないんじゃないですか?」
私が聞いた。
「物事には常に表と裏があるのですよ。」
そう、お母様が言われた。
「ダリア、二人分の軽食をお願いね。」
お母様が、ダリアに言った。
「畏まりました。」
私は、ダリアの後を追って聞いてみた。
「ダリアは貴族なの?」
「いえ、違いますよ。」
「どうやって、展示室に?」
「裏技を使います。」
なんとっ!裏技が存在したのか。
まあいい、それよりも。
「軽食を用意って、何処で食べる?」
「展示室には、休憩スペースがありますので、そちらで。」
そう言えば、王妃様が紅茶を飲んでたなあ・・・。
「ダリア、軽食は3人分用意できるかしら?」
「私の分は、不要ですよ?」
「無駄になってしまうかもだけど、念の為に。」
私の言葉に、ダリアは首を傾げたが。
「畏まりました。」
そう、応じてくれた。
ここまでが前日の出来事である。
今、私は、お父様とお母様の3人で馬車に乗っている。
家令のコットンとダリアは別の馬車だ。
さて、裏技とは何なのだろうか?
そして、展示室へ向かうルートにある検閲所。
ダリアは、飲食物を全て、相手に手渡した。
どうやら、魔法で、検査を行うらしい。
そういう魔法もあるのか、ふむふむ。
そして検閲が終わると、兵士たちに小さな袋を差し出した。
えっ?袖の下?
いやいやいや、ないわーっ!
仮にも王宮で検閲を務める兵士の皆さんだよ?
そんな簡単に買収されないだろ?
「どうぞ。」
あっさりと、抜ける。
ふぁっ?
大丈夫か王宮?えっ?
金なの?
「だ、ダリア、裏技って、賄賂なの?」
「はい?」
「お金渡していたよね?」
「いえ、お菓子です。休憩中にどうぞとお渡ししました。所謂、差し入れでしょうか?」
差し入れって・・・。
確か、語源が罪人に渡すものだったような。
そんな事より、お菓子で、簡単に通していいのか?
駄目だろっ!
「ダリアのお菓子は人気あるから。」
お母様が、そんな事を言った。
「だからと言って、誰でも通れるわけではないのよ?ダリアは宰相家の側仕えだから、特例よ。」
「な、なるほど。」
何となく納得する私。
私達は、展示室に入った。
「まずは、お茶にしましょう。」
お母様が、言われたので、私たちは休憩スペースに向かった。
ダリアが、紅茶を用意していると、さも当然かのように、王妃様が訪れた。
「これは王妃様、この様な場所で、お会いするとは思いませんでした。」
お母様が丁寧に挨拶はするが、何となく言葉には棘が含まれていた。
「エカテリーナ様こそ、如何なされたのですか?」
「娘がこちらに来たいと我が儘を申しまして、その付き添いです。」
「あら、そうでしたの。前回、アウエリアは、一人で来ていましたが?」
「一応、侯爵令嬢ですし、何かあっては困りますもの。」
「王宮の展示室は、基本、貴族しか入れませんし、無用な心配では?」
「血縁関係者が、ちょっかいを出してくる恐れもありますし。」
「まあ、怖い。アウエリアに、ちょっかいを出すような血縁関係者が?」
「ええ、居るかもしれませんしねえ。」
そう言って、王妃様を見るお母様。
いや、帰りたい。マジ帰りたい。
鉄仮面三姉妹のイザコザが、仲の良い姉妹喧嘩に見えてしまう程、今の状況は酷い。
こんなギスギスした中であっても、ダリアと王妃様の側仕えのクロエは、淡々と仕事をこなしてる。
すごいわ・・・、あんたら側仕えの鏡やで・・・。
「お嬢様、そろそろデッサンを始められては?」
ダリアが、そう言ってくれたので、私はその場を離れる事が出来た。
ダリアが椅子を持って私についてくる。
「何処でデッサンされますか?」
「えっと・・・。」
私は、目的のアクセサリーがある場所を目指す。
「お嬢様が、もう一人分と申されたのは王妃様の分だったのですか?」
ダリアが小さい声で聞いてくる。
「うん、そうよ。」
「お嬢様とどういうご関係でしょうか?」
「私の生母が、従妹らしいわ。」
「・・・。」
無言でビックリするダリア。
そりゃあ、ビックリするよね。
「それでは、お嬢様、ごゆっくり。」
目的の場所で、ダリアは折り畳みの椅子をセットしてくれた。
よし、没頭しよう。
あのギスギスした空間が気にならないくらいに。
カリカリカリ・・・。
カリカリカリ・・・。




