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緑茶の淹れ方は、前世で大体覚えているし、エヴァーノにも習った為、完璧だ。
「これは何かしら?」
お母様が聞いてきた。
「お饅頭です。」
「お饅頭?」
「お茶にあいますね。」
ダリアが言った。
「でしょう?」
「見た目が、よければお茶会でも使えそうだけど。」
お母様が言った。
まあ、貴婦人たちのお茶会には、向かないかな。
「ねえ、ダリア。片栗粉ってある?」
「始めて聞きました。」
だよねえ。
前世でも片栗粉は、カタクリの粉じゃないのに、そのまま片栗粉って名前使ってたからなあ。
正式名称なんなんだろ?
「でんぷんの粉は?」
「あります。」
「じゃあさ、でんぷん粉と砂糖で、今食べた、お饅頭の皮が作れない?」
「茶色にですか?」
「出来れば透明で。」
「中身はどうすれば?」
「シロップ漬けしたフルーツとかは、どうかしら?」
「なるほど、試してみます。」
「いろんなフルーツが包まれていたら、お茶会に使えそうね。」
お母様が言った。
「出来ましたら、奥様にも報告いたします。」
「頼んだわね。」
水まんじゅうの皮が出来たら、餡子を仕入れてもいいし、饅頭だけは、別で売り込もう。
あのお菓子屋が存続できる程度に、なればいいんだろうし。
という事で、次の日。
午前の勉強・・・。
あれ?おかしいな?毎日になってない?
礼儀作法やダンスの基礎なんて科目あった?
知らないうちに科目が増えているような?
気のせいか・・・。
うん、きっと気のせいだ。
叔父様が本日は、王宮に出向かないという事で、一緒にエヴァーノの所へ行った。
「ありゃ、ぼっちゃんが、珍しい。」
「アウエリアが何か美味しい物を食べさせてくれると言ったんでね。あと、いい加減、ぼっちゃんは止めてくれないか?」
「私にとって、ぼっちゃんは、一生、ぼっちゃんですよ。」
「まいったなあ。」
そう言って、叔父様は頭をかいた。
エヴァーノに3人分のお茶を頼み、テーブルに3つの饅頭を置いた。
1つは、リリアーヌにあげたので、これで手持ちの饅頭は無くなった。
「ほお、懐かしいな。王都饅頭じゃないか。」
叔父様がそんな事を言った。
「懐かしい?」
私は疑問を口にした。
「い、いやあ、そのう、昔、食べたことがあってね。」
「何処で食べたんですか?」
「ん?な、何分、昔の事なんで・・・。」
「昔っていつですか?」
「貴族学院に通っていたころだよ。いやあ懐かしい。」
「なるほど、その頃、寮を抜け出して、平民街に行っていたわけですね?」
「・・・。」
私が突き詰めると、叔父様は無言になった。
「ぼっちゃん、そんな事をしてたのかい?」
「い、いや、私だけじゃあないよ。周りの皆も、行っていたし、兄上だって・・・。」
「ほう、お父様も?」
いい事聞いた。これは使える!
「ま、待ちなさい、アウエリア。男と女では、事情が変わってくるし、何より、アウエリアはまだ10歳じゃないか。」
「叔父様、何を待てと?」
「わ、私たちのように平民街に気軽に行く事は、待ちなさいと言ってるんだ。」
「ほう、気軽に行ってたんですね?」
「・・・。」
なんて事だ、私にはあれこれ制限を付ける癖に、自分たちは好き勝手していたなんて。
「安心してください。私は一人で行く事は、もうしませんので。」
それを聞いて、叔父様は一息ついた。
「ふむ、こりゃあ、お茶にあうね。」
エヴァーノが言った。
「でしょ?」
「うむ・・・、これは・・・。」
「貴婦人のお茶会には不向きでしょうけど、ちょっとした休憩とかに、どうですか?書類仕事をした後なんかだと殿方も甘いものが欲しくなるんでは?」
「確かにその通りだ。しかも、ちょっと小腹が空いた時に、王都饅頭は、いいかもしれない。」
「お茶にあいますし。」
私は駄目押しした。
「なるほど、いい案だな。今度、知り合いの貴族にも薦めてみよう。しかし、アウエリアは、どうして王都饅頭を?」
「知り合いの冒険者に頼まれました。売り上げが芳しくないようですよ。」
「なんと・・・、私の貴族学院時代は、大人気だったんだが・・・。」
「アーマードの緑茶と合わせれば、また人気になるかもしれませんね。」
「姉上から、お茶会で、緑茶は厳しいと聞いているからな。アウエリア、助かったよ。」
飴屋の様な大成功には程遠いけど。
やっていける程度には、足しになるんじゃないかなと皮算用してみる。
使用人の館を出ると、外で遊んでいたクロヒメが纏わりつく。
はいはい。
頬を撫でる。
「叔父様、私はクロヒメを厩舎に連れて行きますので。」
「ああ、しかし、本当に慣れてるんだなあ。」
「纏わりつかれています。」
うん、慣れているどころじゃないんだよ、これが。
厩舎にクロヒメを連れて行くと、クロヒメが気のすむまでブラッシングしてあげた。
◇◇◇
朝の(以下ry
今日も午後は、予定なし。
ダリアもリリアーヌも居ない為、部屋でボーっとしていた。
それにしても何だな。
私の部屋というか貴族の部屋は広すぎだ。
多分、広さにして80畳くらいある。
前世で恐らく6畳で、暮らしていた身としては、広すぎるとしか思えない。
ベッドもキングサイズ以上で、詰めれば大人7、8人は寝られる大きさだ。
普通の貴族は、衣装をたくさん持ってるので、広くても困らないのだろうが。
私の部屋は、結構空間があいている。
リビングっぽい場所や、勉強机、5,6人で食事が出来そうな場所があってなお、隙間がある。
何か置けないかなあ・・・。
「あっ!」
閃いた。
私は閃いてしまった!
という事で、設計図を紙におこす。
カリカリカリ・・・。
カリカリカリ・・・。
・
・
・
貴重な時間が失われた。
がっ、後悔はしていないっ。
私は設計図を家令のコットンに渡した。
コットンからの接触は禁止されているが、私からなら問題ない。
・・・はず。
「これは一体なんでしょう?」
「コースよ。」
「コース?」
「そう、パターゴルフのコースよ。」
「パターゴルフ?」
コットンは首を傾げた。
この世界にゴルフなんてものはない。
ゴルフがないのだから、パターゴルフも、もちろんない。
「詳細は書いてあるから、設計図通りに作ってもらって。」
芝や人工芝なんてものはないので、設計図には、ボールが滑りやすいものとか、そういう感じでザックリ書いてある。
「アーマード商会に頼んでいいでしょうか?」
領地持ち領主は、大概、商会を抱えていて、叔父様も例外ではない。
「ええ、宜しくね。」
ボールのサイズも詳しく解らないので適当だ。ようはパターゴルフが楽しめれば何でもいいのだ。
パネルを何枚も繋げてコースを作るように設計しているので、パネルを組み替えたら、コースが変更できる。
・・・はず。
何せ、ざっくりと書いているので、後は職人任せだ。
朝の・・・。
キン、カン、キンっ!
脳筋の攻めを剣で受け流す。
力の差がありすぎて、完全に受ける事は出来ない。
ならば、流すしかない。
てか、この脳筋。
10歳の幼女に、本気で打ち込むって、頭大丈夫か?
なんとか攻撃を受け流し終えた後、脳筋が言ってきた。
「今日は、お嬢様にプレゼントがあります。」
はっ?
こいつ、私に惚れてんのか?
ロ、ロリ?
犯罪だ、犯罪者がここにいる。
しかし、異世界に淫行条例は、存在していない。
「こちらになります。」
何か大きな木箱に入ってんな。
細長いし、誰がどう見ても剣だろ。
木箱から出された、それは剣ではなかった。
剣ではないが、剣の格好をしてる。
刀身の部分が円柱だ。
「何これ?」
「練習用の剣です。」
剣なのか?一応?
「どうぞ、持ってみてください。」
私は、手渡された剣を手に取った。
「か、軽っ!なにこれ?」
円柱の中身は、空じゃないの?この軽さは。
「チョウフ貝の殻を使った、練習用の剣になります。」
何、超、不快って・・・。
誰だ、そんな名前を付けたのは。




