21
鉱内には、至る所に明かりがある。
明かりと言っても火ではなく、ほんのりと明るい感じだ。
「真っ暗ってわけじゃあないのね。」
「はい、明光石が、そこら中に配置されていますので。」
「へえ。」
高い入鉱料を取るだけはある。
「入り口付近でも石英系がありますけど、いい物は取られていますので。」
「なるほど。」
暫く行くと拳サイズの石が目に留まった。
緑色のメノウが覗いてる石だ。
メノウとは思うが、縞模様はない。
「ねえ、エンリさん。これメノウよね。」
「はい、そうですね。縞模様はないようですけど。大きさは石の部分を除去してみないとわかりませんね。」
「リリアーヌ、私のリュックに入れてくれる?」
「これ位でしたら、私のに入りますので。」
そう言って、リリアーヌは自分のリュックに仕舞った。
暫く進んだ後、少し休憩をとる事になった。
整備されているとは言え、地面はまっ平ではない。
こういう足元だと、普通に歩くのと比べて、かなり疲れる。
ヘスティナさんは、少し先まで確認する為、エンリさんと二人で、その場を離れた。
「お嬢様、何処かに座って休憩してください。」
リリアーヌにそう言われたので、座れそうな丸い岩を探した。
子供なら、座れそうな手頃な岩を見つけて、腰をおろす。
「はあぁ・・・よっこらせっと。」
まるで年寄りの様だ。
いかん、いかん。
ぽぉっ
ん?なんか岩の周りが光ったような?
ポンッ!
私は突然、光に包まれた。
あまりの出来事に、何が何だかわからないが。
私の視界は、暗闇に包まれた。
「ど、何処?ここ?」
立ち上がり周囲を見ても暗闇しかない。
別段、暗所恐怖症でもないから、いいんだけど。
これで、一面、人の顔とかだったら、トラウマになる事間違いなし。
おそるおそる、周囲を探ってると。
ほわ~ん
と、周囲がほんのりと見え出した。
どうやら細い道に居るようだ。
両サイドには、岩肌がほんのり見える。
よかった・・・人の顔じゃなくて。
きーーーん
静寂の音が耳の奥に鳴り響く。
前世で無響音室に入った事があるが、耳鳴りすら聞こえず、変な感じだった覚えがある。
まあ、そんな事はどうでもいいか。
ここは何処だろう?
一本道なので、進むしかない。
私が最初に立っていた場所の後ろは、岩壁だった。
少し進むと左手の壁側にへこみがあった。
お地蔵さんでも、まつってんのか?
覗き込むと。
そこにあったのは、無色透明のガラス?
いや、これあれだろ。
魔水晶!?
こ、これがテリーの涙っ!
なわけないわよね。
うん、うん・・・。
とりあえず、リュックに入るかやってみると、すっぽりと収まった。
まさにジャストサイズ。
リュックを背負い立ち上がる。
立ち上がる・・・。
立ち上が・・・。
「んがっ!」
なんとか、立ち上がるっ!
重い、子供じゃなかったらGG(ぎっくり腰)になってたぞっ!
一度背負ってしまえば、こっちのもの。
私は再び歩き出した。
暫くすると。
岩壁にぶち当たる。
「行き止まりじゃんっ!」
私が、そう叫ぶと。
足元が、ふわっと光った気がした。
いや気のせいじゃないな、これ。
再び、私は光に包まれると。
今度は、さっきよりは広くて明るい道に出た。
「お嬢様~。」
「アウエリアお嬢様~。」
リリアーヌたちの叫び声が聞こえた。
「ここよ~。」
私は暢気に声を出した。
すると神速の速さで、駆けつけたリリアーヌが、私を抱き・・・。
抱き・・・。
抱きしめると見せかけて、私の腰に迷子紐を巻き付けた。
「ちょっ、嫌よ、これ。」
「問答無用です。」
くっ、10歳にもなって迷子紐?
屈辱だ!
日本では、犬の散歩の様だとか、奴隷のようだと賛否両論の迷子紐だが、中世ヨーロッパでは、手引き紐と呼ばれ、貴族でも使用していた。
が。
がっ!適正年齢ってものがあるっちゅうねん。
前世で、アンゲリカ・カウフマンの絵を見たことがある。
と言っても、写真でだけど。
作品名は、確か、家族の肖像アンナ・イワノフナ・トルストイ。
えっ?何で横文字の名前を覚えてんの?って?
ふふふ、覚え方があるのだよ、覚え方がねっ!
あんな岩のフナ取るすといない。
うん、苦肉の策です。御免なさい。
って、私は誰に謝ってんだ・・・。
とにかく、その絵でも迷子紐を付けられた子供は、私よりも小さい。4、5歳だろ。
ぐぬぬぬ・・・。
「大丈夫ですか?お嬢様。」
ヘスティナさんが声を掛けてきた。
「ええ、大丈夫よ。」
「私が目を離した隙に、お嬢様は消えてしまいました。でも、もう大丈夫です。」
そう言って、リリアーヌは持ってる迷子紐を掲げて見せた。
「恐らく、転移の罠でしょう。誰かの悪戯だとは思いますが。」
「悪戯ですか?」
リリアーヌが聞き返した。
「鉱道に罠なんてありません。ダンジョンではないので。」
「確かに。」
「だ、大丈夫ですか?お嬢様っ!」
少し遅れて、エンリさんが駆けつけた。
「ええ、御免なさい。心配かけて。」
「エンリさん、私とお嬢様は、宿に帰ろうと思います。」
「えっ?」
何言ってくれてんのリリアーヌ!
「それがいいですね。ヘスティナさんもお願いします。」
「わかりました。」
「えっ?エンリさんは一人で残るの?」
私が言うと。
「普段は、私は一人ですから。それに成果がないと兄さんに怒られます。」
うん・・・エンリさんは切実だった。
こうして、私の宝石拾いは幕を閉じた。
いやっ!まだ明日があるっ!
なんだろ、何かの映画のラストシーンのセリフみたいだなあ。
宿に戻るとリュックをリリアーヌにおろしてもらった。
「随分と重いですけど。」
「聞いて驚きなさい。テリーの涙が入ってるのよ。」
「そうですか。」
そう言って、リュックは、隅の方に置かれた。
これ、あれじゃね?所謂スルーって奴?
「これも外して頂戴。」
私は、迷子紐を指し示した。
「後で夕食にも行きますし。」
「嫌に決まってんでしょっ!」
何で夕食に行く時まで、迷子紐させられないといかんねんっ!
怒りの余り関西風になってまう。
リリアーヌは渋々、迷子紐を外してくれた。
夕食の時間。
私は再びリュックを背負う。
「こんな重い物が必要ですか?」
「ドワーフ達に、テリーの涙を見せるのよ。」
テリーの涙じゃないにしても、結構、高価な物だと思ってる私。
「そうですか。時にテリーさんって、どなたなんでしょう?」
「・・・。」
なんか違うと思ってたんだよねぇ。
うーん、どうしよ・・・。
「昔いた伝説の大工よ。」
「そうですか、大工さんですか。」
咄嗟に出たのが、大工って・・・。
我ながらセンスがなさ過ぎた。
もういいや、どうでも。
4人で、夕食をとるお店に行くと、既にドワーフ達は酒を飲んでいた。
うん、この飲んだくれこそドワーフだ。
「随分と変わった格好をしてるんだな。」
ディグレットさんが私に言ってきた。
「探検家の服よ。」
「ほー。」
ちなみにリリアーヌも、探検家の服のままだ。
私と違って、リュックは背負ってないが。
「リュックに何か入ってんのか?」
「ええ、テリーの涙が入ってるわ。」
「へえ、テリーさんの涙ねえ。」
「聞いた事ねえや。」
「うちにテリーって居たっけ?」
揶揄う様な声があちこちからあがる。
正解なんだっけ・・・。
「まあ、いいわ。見て驚きなさいっ!」
自分では重くておろせないので、リュックはリリアーヌに持ってもらい、中からテリーの涙を取り出し、ディグレットの前に置いた。
おおー、やっぱり無色透明だ。
私は、暗い場所でしか見てないので、改めて感動した。
「我が内に眠るマナよ、我の呼びかけに答えよ。我が深淵の奥に在する次元の扉を開け放て。いま、この物を仕舞いたまえ。」
ディグレットが呪文を唱えた。
うわっ!魔法だ。魔法だ、これっ!
始めてみた魔法に、私のテンションが上がったのだが。
忽然とテリーの涙が消えた。
はっ?
私のテンションも、同時に消失した。




