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途中休憩を挟み、鉱山に着いたのは夕暮れ前だった。
私たちは、宿に荷を卸すと夕食をとる為の店へと向かった。
そこで、ついにドワーフ達と対面する事になる。
ちなみに宿の部屋は二人部屋で、私とリリアーヌが同部屋となった。
「ぐはははっ。」
「おい、酒を持ってこい。」
「こっちもだ。」
うんうん。
ドワーフだ。
あれだね、全世界共通だなこれ。
酒をこよなく愛するドワーフって奴?
空もようやく暗くなり始めたばかりなのに、もはや新橋の居酒屋と変わらぬ様相だ。
「おお、エンリ。よく来たな。」
ドワーフの一人が、エンリさんに声を掛けてきた。
「どうも師匠。」
どうやら声を掛けてきたのが、エンリさんの師匠のようだ。
「エンリ、そんな細腕で、武器が作れるのか?」
他のドワーフが言った。
「私は武器職人じゃないです。アクセサリー職人です。」
「不器用なのにな。」
「「「ぐわはははは。」」」
「ぐぬぬぬ・・・。」
さすがドワーフ。
笑い方も豪快だ。
というか、エンリさん。
アクセサリー職人なのに不器用って、致命的なんじゃ・・・。
「まあ、こっちに座れ。」
エンリさんの師匠に言われたので、私たちはそっちに向かった。
「久しいなヘスティナ。」
「うん、そっちもね。」
「しかし、エンリ。A級冒険者を連れてるとは、職人は諦めて、商会の後でも継いだか?」
「継いでませんし、私は今も職人ですからっ!ヘスティナさんは、こちらのアウエリアお嬢様の護衛です。」
「どうも、アウエリア・ピザートです。」
私はペコリと頭を下げた。
「ピザート?何処かで聞いたような?」
「ディグレット。この国の宰相の家じゃないのか?」
他のドワーフが、エンリの師匠にそう言った。
どうやら、名前はディグレットと言うらしい。
「ああ・・・、って何で、そんなお貴族様を連れてるんじゃっ?」
「宝石拾いにご一緒にとお誘いました。」
エンリは、胸を張って答えた。
「はあ・・・。」
エンリの師匠は深いため息をついた。
「誘う方も誘う方だが、それに乗っかる方もどうかと思うぞ。」
そう言って呆れられた。
「一応、エンリの師匠となっておるが、ディグレットだ。宜しくな。」
「宜しくお願いします。」
「ちょっ、一応って何ですか?」
エンリが抗議した。
「お前の様に出来が悪いと、わしの腕まで、疑われてしまうからのう。」
ディグレットがそう言うと、ドワーフの一団が笑った。
ああ、私は本当に異世界に居るんだな。
感慨深い思いに胸を躍らせた。
それから、ドワーフの一団と一緒に夕食をとる事になった。
酒も食事も豪快で、さすがドワーフといった感じだ。
「で、貴族のお嬢ちゃんは、幻想の宝でも探しにきたのか?」
ティグレッとがそう言うと、ドワーフ達が笑い始めた。
「ドナルドの涙って、存在しないんでしょ?」
「誰だ、そりゃあ?」
「お嬢様、テセウスの涙です。」
リリアーヌが訂正してくれた。
「存在しないならドナルドでもテセウスでも、どっちでもいいんじゃない?」
「ふむ、確かにな。だがなテセウスが居た時代には、失われた王国の財宝ってのがあってな。その中には、無色透明の魔水晶があったって話だ。」
「何処の与太話?」
「ドワーフの与太話さ。」
他のドワーフが笑いながら答えた。
「酒の席で、語り継がれてきた与太話だ。その辺の噂話よりは、信憑性があると思わんか?」
「確かに。」
ドワーフが語り継いできた話なら、その辺の噂話よりも信憑性はある。
「あるなら見てみたいわね。ドナルドの涙。」
「お嬢様・・・。」
「ああ、ごめんなさいテリーの涙だったわね。」
「テセウスです。」
横文字覚えにくっ!
「見るだけでいいのか?」
「失われた王国の財宝なんでしょ?国宝級の宝を手に入れたいとは思わないわ。」
「欲がねえんだな。」
「そんなに言うんだったら、ドワーフで探せばいいんじゃない?」
「俺たちも手に入れたいとは思わない。ただ・・・。」
「ただ?」
「職人としては、加工してみたいっていう欲はあるな。」
「ふーん、じゃあ私が見つけたら加工してくれる?」
「ああ、いいぜ。とびっきりのアクセサリーを作ってやらぁ。」
ディグレットがそう言った後、ドワーフの一団は大笑いした。
まあ、今まで見つからなかったんだから、存在しないと見た方がいいだろう。
その日の夜、もぞもぞと宿屋のベッドに入り込むと私は、即寝た。
うん、子供は寝つきがいいのだよ。
翌朝、いつも通りに紅茶の香りで目が覚めた。
あまりにも、いつも通りだったので、ここが宿屋と気付くまでに、暫くの時間を要した。
「どうしたの、この紅茶セットは?」
「宿屋でお借りしました。茶葉は、持ってきた物です。」
「そ、そう。」
いつもの朝の様に、紅茶を飲んだ。
私は、探検家風服に身を包み、探検家風リュックを背負った。メルディに頼んで作って貰ったもので、大きさはランドセルくらいだ。
リリアーヌも、ちゃっかりと作って貰っており、大きさは私の物よりも一回り大きい。
リリアーヌのリュックには何か色々と入ってるようだ。
私とリリアーヌがペアルックで登場すると、エンリさんが大はしゃぎした。
「えっ、なんですか、その服?なんか本職っぽいです。」
「お嬢様がデザインいたしました。」
胸を張ってリリアーヌが答える。
「えっ、すごっ!アウエリアお嬢様は、おいくつでしたっけ?」
「10歳よ。」
「うわっ!神童ですよ、神童!」
中身は、あなたよりは上だと思うけどね。
「こう言ったら、リリアーヌさんに失礼ですけど、親子に見えますよ。」
確かに若いリリアーヌには失礼だ。
「私の言う事を聞かない。困った娘です。」
乗っかった!乗っかりやがった!!
いいのかリリアーヌ?
まあ15、6歳で私を産んだとなれば、そこまで違和感はないのかもしれないが。
「私もその衣装が欲しいです。」
自称ハーフエルフが、物欲しそうな顔で言ってきた。
欲しいって言われても無いから!
オーダーメイドですからっ!
そんなこんなで私たちは、鉱山へと向かった。
まずは、街の鉱山管理事務所で、入鉱料を支払う。
4人分支払ったのは、リリアーヌだ。
「すみません。支払って頂いて。」
エンリさんが言った。
「いえ、護衛代も馬車代も商会持ちなので、これ位は当家に出させてください。」
リリアーヌが大人の対応をしてる。
「助かります。」
「ねえ、エンリさん。4人分の元を取ろうと思ったら、どの程度の物を拾わないといけないの?」
「そうですねえ。良し悪しもありますが、お嬢様のリュック一杯になれば、元は取れると思いますよ。」
「なるほどね。」
「でも、お嬢様は、目が利きますので、本当に良いと思った物だけを拾った方がいいですよ。」
「量より質って事ね。」
「はい。」
よっし、元を取るぞぉ~。
いざ、入鉱!
と私が息巻いていると、リリアーヌが私を抱きしめようとしてきた。
な、何?何事?
腰回りに手を回し・・・。
迷子紐を巻き付けようとしやがった。
「ちょっと、何するのっ!」
「迷子紐です。」
「見ればわかるわ。」
私は、迷子紐を取り付けられる前に避けた。
「そんな物、いつ用意したの?」
「メルディさんに作って貰いました。」
メルディ、余計なものをっ。
「絶対、嫌だからね。」
私はリリアーヌに念を押した。
「では、私の視界から決して、居なくならないように。」
「わかってるわよ。」
まったくリリアーヌは、リリアーヌはっ!
そうしてようやく、入鉱。
ダンジョンに突入する気分だが、鉱山内は整備されていて、観光地の鍾乳洞に入るのと変わらない。
もちろん、最奥にエレベーター何て、興醒めな物なんて存在しない。
先頭は、何度もここへ来ているエンリさん。
次が護衛のヘスティナさんで、3番目が私だ。
殿は、リリアーヌが務めている。




