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第百七話 サクラの初仕事 ②

そして村についた一行はその様子に目を見開いた。

彼らは通常、木の上で生活しているようだ。

しかし、その木の多くは枯れており支えを失った家々は地面へと落ちている。

そのため人々は廃材をかき集めて即席の家を作って生活しているようだ。

その姿は戦争後の難民を思わせる。

彼らの多くは目に活力が感じられない。

そのほとんどが絶望し、その場に座り込んでいる。


「少し前からここの世界樹がおかしくなってしまってな。森は枯れ始め、住む場所を失い、多くの者は体に力が入らなくなって村はこの有様だ。」


ゼファーは村を眺めながら表情を曇らせる。


「それで何とか動けるものでこの村を護衛していた所にあなた達が来たと言う事だ。」

そして、彼はサトル達を見て苦笑いを浮かべる。


「そうか。しかし、種を渡してくれとは頼まれたがそれで大丈夫なのか?」

「どうだろうな。こんな事は俺は生まれた初めてだ。村長はこの村で一番長生きだからきっと何か知っていると思うが。」


そう言うゼファーの横顔には不安の色が見える。


「何か心配事でもあるのか?」

龍斗はその不安に気づき問いかけた。


「いや、俺の妻と息子も今は動けなくて寝たきりになっていてな。」

それを聞いて龍斗達は渋い顔をする。

もっと早くにいていればという思いが心に渦まく。


「気にするな。ここの世界樹が元に戻ればきっと皆元気になる。」

ゼファーはそう言って笑顔を作る。

しかし、サトル達から見ても彼の笑顔にはぎこちなさが見て取れた。


そして、話している内に一行は村長の家へと到着した。

すると、扉を開けてそこからは年老いたエルフが姿を現し龍斗達を家に招き入れた。


「久しいな龍斗、美雪。」

そのエルフは目を開くことなく二人に告げた。


「ああ久しぶりだな。再び会えて嬉しいぞ。」

「私もよ、もう会う事はないと思っていたから。」

2人は笑顔で老人に話しかける。


「そうか、再び何か大切なものを見つけたのだな。」

老人は少し嬉しそうに二人に告げると本題に入った。


「ワシはこの村の村長をしている。まずこの種をここまで運んでくれたことに深く感謝する。」

村長はそう言って龍斗達に頭を下げて感謝の言葉を口にする。

「しかし、この種を芽吹かせる方法は儂にも見当がつかん。前回は世界樹の精霊様と精霊王様がこちらに訪れて種を芽吹かせてくださった。」


それを聞いてサトル達は世界樹本体の種を植えた時の事を思い出した。


「たしかあの時、弥生は既に世界樹に戻っていて庭にはいなかった。そして、飛鳥は種に息を吹きかけると種から目が出たように見えた。」


その言葉に思い出したメンバーは頷いて肯定を示した。


「私が見た限りだとあの時彼女は種に魔力を送っているように感じたわ。」

「そうだな、あの何気ない仕草に大きな力の動きを感じた。」


そう皆に告げるのは気配に鋭い栞と輝だ。

彼らもその場にいたのでその時に感じた事をみんなに伝えた。


そして、話し合っていると控えめにサクラが手を上げたのを龍斗は気付いた。


「どうしたサクラさん。何か気になる事でもあるのか?」

その声を聞いてみんなの視線はサクラに集まる。

サクラはその視線に少し怯えるが声を絞り出すようにして気付いたことを話し始める。


「あ、あの、私はその種から思いのようなものを感じます。」

その言葉に皆の視線は今度は種に向かう。

村長はそれを聞いてサクラに視線を向けて一つ頷く。

「それで、この種は何を言っているのかね?」


「それがなんだか寝ぼけているような感じがしますが感じから眠いとかお腹がすいたといった思いを感じます。」


すると村長は種を見つめると魔力を込め始めた。


「あ、意識がハッキリしてきました。もっと魔力が欲しいと言っています。」

サクラは種の思いを村長に伝える。

しかし、村長は限界が来たのか少しして魔力を込めるのをやめた。


「儂の魔力をほとんど注いだがまだダメなようじゃな。」

そして種をユナへと渡した。

するとユナも同じように魔力を込め始めた。

「凄いないくら注いでも底が見えない。まるで底の抜けた如雨露に水を入れているようだ。」

そして、ユナも魔力が尽きてしまい今度はゼファーへと種を渡した。

ゼファーも同じ様に魔力を限界まで注ぎ次のエルフがいないため種を机の上へと置いた。

彼らの姿を見て龍斗は溜息を吐き種を見つめる。


「精霊王は一息で芽吹かせたと言う事はそれだけで今以上の魔力を種に込めたのだろうな。」

そして龍斗はサクラへと確認を取ることにした。


「サクラさん。種は何か言ってるかな?」

「まだ足りないようです。ただ何か不満も感じます。」

そして、サクラは種に近づいて種を手に取る。

その時、サクラの脳裏に種からのビジョンを感じ取った。

その強いイメージにサクラは足をフラつかせてその場に座り込む。

「サクラさん大丈夫か。」

サトルは素早く駆け寄りサクラが倒れないように支える。


「今種からイメージを感じ取りました。」

その言葉に皆の視線はサクラに集まりエルフたちは驚愕する。


「それはホントか。教えてくれ何が足りないのだ。」

その声を聞いてユナはサクラに駆け寄りサクラに視線を合わせて問いかける。


「今受けたイメージは我が子を抱く母親の姿を見ました。」

「それはいったい?」

「もしかしたらこの場所がイケないのかもしれません。」

そう言って窓から見える世界樹の子株にサクラは視線を向ける。

「もしかしたら、あそこなら何か変化があるかもしれません。」

ユナはサクラの視線を追って同じく世界樹の子株を見上げ頷いた。


「今から行ってみよう。我々には分からないがサクラなら何かわかるかもしれない。」

ユナはそう言うとサクラに手を貸して立たせ皆に視線を向ける。


全員頷いて肯定を示し、村長の家を出て木へと向かった。


そして、木の根元に来た時、種が光り始める。


「種から喜びの思いを感じます。きっと場所はここでいいはずです。」

サクラは種の望みの場所を特定する為に付近を歩き回る。

そして、その場所は世界樹の子株のすぐそばだった。

サクラはその場所に種を置き種から離れ、村長たちの所まで戻る。


すると種と同じように世界樹の子株が光はじめ種へと自らの残った力を注ぎ始めた。

それと同時に木は葉を落としどんどん枯れていく。

そして、端から光の粒子となり消え始めた。

それでも更に力を注いでいくと、とうとう種は芽吹き大地へ根を張った。

それと同時に種へと注がれている力は森へと広がり森は生気を取り戻していく。

そして、世界樹の子株が完全に消えた時、森は完全に生気を取り戻した。


子株の木は完全に消えたがここに新しく生まれた子株は新たな世界樹から力を受け取り、次第にその姿を大きくしていく。

新たな子株はその大きさが1メートルを超えた時、成長は止まった。

その後、世界樹から流れてくる力で子株はこの空間を満たし、この場所に再び活力を与えた。

エルフ達もその影響を受けて寝たきりであった者達さえも起き上がり始める。


そしてその光景を見ていた村長たち3人はその新たな子株を前に涙を流していた。


「おおおーーー、これで我らは救われた。龍斗よこの度の事は誠に感謝する。」

そう言って村長は龍斗の手を取り感謝の意を示した。


龍斗はここに来た目的の一つが完遂された事を確認するともう一つの目的を告げる。

「ところで村長。俺たちは武器の浄化に来たのだが頼んでもいいか?」


しかし、村長はその言葉を聞いて表情を曇らせた。

その表情を読み取り、龍斗は村長へ問いかける。


「どうしたのだ。もしかして何か不都合があるのか。」

その問いかけに村長は頷きで答え理由を話し出した。


「実は浄化の際に使われる聖水は世界樹の葉に付いた朝露を集めた物を使うのだが、これではしばらくは十分な量は集められんだろう。」


そう言って村長は子株を見る。

たしかに1メートルほどしかないこの子株では少ない朝露を集めるだけでも大変だ。


「出来ればあの1メートル大きければ枝が広がり葉も多くなるのじゃが。」


その言葉を聞いてサトル達は家にある世界樹を思い出す。


「それなら、家の世界樹ならかなり大きくなっているから大丈夫じゃないかな。」


ちなみにサトルの家の世界樹は寅の料理の影響もあり今は4メートルまで成長している。


その声にエルフの3人は凄い勢いで顔を向け詰め寄ってきた。

「あなたの所に世界樹があるじゃと。どういう事じゃ?」

村長はサトルへと掴みかからんばかりに詰め寄る。


「村長落ち着いてください。それでは彼が答えられませんよ。」

そう言ってユナは村長を引きはがす。しかし彼女の耳は天へと突きあがり、分かる者には本心が筒抜けだ。


「そ、それならばそこで武器のメンテナンスもできるかもしれん。危険だが俺が直接行ってやってもいいぞ。」


ゼファーは村長たちから目をそらしてサトルへと告げる。


その時、彼の首元へと鋭い手刀が飛ぶ。

そのあまりに突然な行動に皆、反応できずにその場で制止する。

動いているのはそれを行た者と倒れ行くゼファーだけであった。


「どうしたゼファー。大丈夫か?」

手刀を放った者。

すなわちユナは白々しくゼファーを受け止め近くの木へと背を預けさせて座らせる。

当然気を失っている彼に答える術はない。


そして彼女は立ち上がり笑顔でサトルの元まで向かう。


「ゴホン。と言う事で私があなた達の家まで言って武器の手入れをすることになりました。」


周りのメンバーは「え、いつ決まったの?」という顔でユナを見る。


しかし彼女はそれを気にすることなく自分の売り込みを始めた。


「私はこの村で一番の腕利き職人です。」

「!!!、狡いぞお主。腕なら儂も負けて・・・」


しかし、村長が何かをサトルへ言おうとした時、ユナは鋭い視線を向け手刀の素振りを始めた。

そのあまりにも鋭い素振りと視線に負けて村長は黙ってしまった。

恐らく今回の手刀を受ければ村長は気絶では済まないだろ。


「ということで、皆さん。他の人にバレない・・・迷惑が掛からないうちに行きましょう。」

彼女は本音を漏れしながらサトル達の背を押して出口へと向かおうとする。

サトルは困った顔で龍斗に視線を向けた。


「たしかに彼女は30年前から優秀な職人だ。彼女の腕に疑いの余地はない。」

「そうね。前回、私の杖を見てくれたのも彼女よ。」


そう言って二人は反対意見を言わなかった。

しかし、龍斗は彼女へ注意を一つだけ告げる。


「ユナよ。付いて来るのも構わん。しかし、数十年は帰れないと覚悟をしてもらおう。」

それを聞いてユナは龍斗を見て頷く。


「よし、それではここに用はなくなった。帰るとしよう。」


龍斗がそう言うと家主の意見は聞かれずユナは龍斗達と共に村へと帰り始めた。

それを見て村長はサトルの肩を叩き声をかける。


「すまんな。外は儂らには危険な所と聞く。ユナの事を頼んだぞ。」

その言葉にサトルは苦笑して頷く。

しかし、彼女のあの華麗な手刀を見て、勝てる者があちらの世界に何人いるのかとサトルは疑問に思った。


「ところで、エルフは長命だと聞きますが彼女は何歳・・・」

そこまでサトルが言葉を発した時。目の前に串のような物が通り過ぎ、その先の木に深々と突き刺さる。

そして、サトルが飛んできた方角を見れば、ユナが投擲後の構えでサトルを見つめてニコリと笑う。

どうやらエルフでも女性の年は秘密らしい。

サトルは冷や汗をかきながら心のメモ帳に書き記しておいた。


「彼女は弓も得意だが投擲術も得意なのだ、儂らにはシルフ様の加護があるからな。それとエルフは皆、地獄耳でのあれくらいの距離でもこちらの声が聞こえるのじゃ。お主も気を付けてくれ。」


そう言って村長はサトルの肩から手を放し村へと歩いて行く。

しかし、すぐに足を止めて振り返る。


「おお、忘れておった。ゼファーの事も頼んだぞ。さすがにそのままでは危なかろう。すぐに警備の者を来させるのでな。」


そう言って再び村長は歩き出した。


そしてサトル達が警備の者と交代し村に向かうと先ほどとは違い村は活気に満ちていた。

壊れた家などは変わらないがエルフたちの顔には生気が戻り村の再建がすでに始まっている。

そして、反対側の村の出口には、既に出発の準備を終えたユナと龍斗達がサトル達が来るのを待っていた。

サトル達は龍斗の元へと向かい声をかける。


「もう出発ですか?」

それを聞いた龍斗はユナへと視線を向けた後にサトルへと答える。

「こいつに急かされてな。話が漏れると大変だからと急いでいるのだ。」

それを聞いてサトルはユナにジト目を向ける。

彼女はその視線を受けると自分の視線を逸らし、とても綺麗な口笛を吹き始めた。

こんな時でなければ聞き入ってしまいそうだがその時のサトル達にその気はない。


「まあ、いいですけどね。」

サトルは結局諦めて彼女の訪問を認めた。


そして、一行はサトルの家へと向かい帰路についた。


読んでいただきありがとうございます。

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