第百五話 サクラの新生活 2日目 ②
サクラは気分転換に再び庭に出ていた。
ここの庭はとても気持ちよくて庭の中央にある木のかげに入ると、とても気持ちが安らいだ。
それはまるで全てを救うという千手観音に抱かれているようだ。
サクラはその安らぎの中で眠りに付いた。
気が付くとサクラは巨大な木の下に立っていた。
サクラはその木を見上げ、遥か遠くの空まで覆う枝葉に身を震わせる。
「凄く大きな木。でも、庭の木に感じがにてる。」
そして、視線を下げると木に近い所に一軒の家を見つけた。
「あれ、さっきまでなかった気がするけど。」
しかし、他には何も見当たらないためサクラはその家に向かって歩き出した。
サクラは山歩きは実家で慣れているため苦も無く目的の家まで到着した。
そして、扉をノックしようとすると中から声が聞こえ扉は自然と開く。
「早かったね。入っておいで。」
サクラはその声に導かれるように家へと入って行く。
家に入るとテーブルと椅子があり、その上では暖かい日本茶が湯気を立てていた。
そして、椅子には見慣れた少女と老婆が座っており、サクラへと笑顔を向ける。
「飛鳥さん、ここは何処ですか?」
サクラは同居人にして精霊王の飛鳥へと問いかけた。
「まあ、簡単に言えばここは君の夢の中かな。風景はこちらで作った物だけどね。
立ち話も何だから座って話そう。」
そう言って飛鳥はサクラに椅子を勧める。
サクラは椅子に座り飛鳥へと視線を向けた。
「それで、話というのは?」
サクラは一瞬、老婆へと視線を向けるが初対面の相手を見続けるわけにもいかず、すぐに飛鳥へと視線を戻す。
「昨日約束した彼女の紹介をしようと思ってね。」
飛鳥はそう言って先ほどの老婆に視線を向ける。
すると、少し視線を離した隙に、老婆の座っていた椅子には見覚えのある少女が座っていた。
「あれ、先ほどまで座っていた方は?」
サクラは周りを見回し先ほどの老婆を探す。
しかし、見つける事は出来ずここにいるのはサクラと飛鳥。
そして、同居人でまだ紹介を受けていない、精霊の少女だけであった
「ふふ、驚いた?少し前まで私もお婆ちゃんの姿だったのよ。」
少女は悪戯が成功した事が嬉しいのか笑って先ほどの老婆の正体を告げた。
「そう言えばここは夢の中でしたね。と言う事はあなたも若返ったのですか?」
「そうね。あなたの知ってる方法とは違うけど結果は同じね。」
「それじゃあ、彼女について話そうか」
その言葉を聞いてサクラは飛鳥に視線を戻す。
「彼女の正体は家の庭にある木なんだけどね。」
飛鳥はそこで一旦言葉を止めて少女を見る。
「当然、ただの木じゃないって事ですか?」
「そう言う事。今、彼女は弥生と名乗っているけど、実は彼女は世界樹の精霊なんだよ。」
「それは世界の中心にあり世界を支えていると言われる木の事ですか?」
サクラは立ち上がり、少女に視線を向け驚きに目を見開く。
「驚きは分かるけど座りなさい。落ち着いて話ができないわ。」
サクラは言われて座り直すが、未だに驚きは収まらない。
そして、弥生は語りだした。
「あなたも外の木は見たわよね?」
「はい。」
サクラが答えると家の屋根と壁が消え外が見えるようになる。
「これは少し前の私の姿なの。偶然が重なって今はこの姿だけど本体は庭にあるあの木なのよ。」
そう言って弥生は木を見上げて微笑を浮かべた。
「それではこの木があんなに縮んだのですか?」
サクラは弥生の姿が若返った事から軽い気持ちで予想を口にした。
「いいえ、消滅したの。」
「消・・滅・・・。」
しかし、予想は大きく外れ、サクラは驚きに木を見上げたまま動かなくなる。
「そうよ、それで新しく生まれたのがあの世界樹なの。」
「そ、そうですか。凄く驚きました。」
サクラは胸を撫で下ろしながらため息をつき肩の力を抜く。
しかし、飛鳥の言葉が再び彼女に緊張を強いる。
「でも、見て分かる通り、あの木はこれに比べると小さい。今は簡単に切り倒されてしまう。」
それを聞いてサクラは再び緊張する。
「今は私や四大精霊が守っているけど万が一、あの木が切り倒されたらこの惑星が滅んでしまう。」
サクラはそれを聞いて気が遠のくのを感じた。
しかし、前回と違って強制的に意識が覚醒していく。
「この話は重要だから倒れられると困る。だから夢の中で話しているんだよ。」
そう言って飛鳥はサクラを睨むようにして見つめる。
サクラは事実を知って足元が震え出した。
自分が住んでいる場所がいかに重要スポットなのかを知って、今にも逃げ出したい思いでいっぱいになる。
「だから私はあの家を離れられない。」
飛鳥はサクラを見つめて告げる。
「そこで、君の寺の仏像が重要になって来るんだ。」
そう言って飛鳥が手をかざすと机の中央に仏像の映像が浮かぶ。
「なぜうちの仏像が関係するのですか?」
サクラは突然自分の話になり焦って問いかける。
ハッキリ言って一般人のサクラとしては関わりたくない思いでいっぱいである。
「あの仏像の目的は?」
飛鳥はサクラから視線を外すことなく厳しい視線のまま問いかけた。
「それは、この町をあそこから見守るため・・・。」
そこまで言ってサクラは気が付いた。
今でもあの仏像に宿る精霊は山を沈めこの町を初代と共に守り続けている。
「そう、この世界樹があるこの町を守る一つの要として、あの仏像の価値は大きく跳ね上がった。だから、サクラにはもっと覚悟を決めてほしい。」
「覚悟?」
「世界を守る覚悟だよ。おそらく、今あの仏像を彫れるのは君だけだ。あの精霊を説得するのは私なら容易いけど、それだと要としては不十分なものになってしまう。世界樹の成長にはまだ数百年はかかるから、それじゃあダメなんだ。」
「でも、いきなり言われても困ります。」
サクラは何とか反論するがその言葉には力がない。
逃げても結局は何の解決にもならない事をすでに気付いているからだ。
「今のところは急いではいないからあの家でのんびり悩むといい。でも現実は急に変化する。その事は覚えておいてほしい。」
そこまで言って飛鳥は立ち上がった。
「君が死んでしまうと困るから私から君に祝福をあげる。もしあの仏像を完成出来たら加護をあげるから頑張ってね。」
そして、飛鳥は祝福を与えた。
「私からは加護をあげるわ。私の加護は回復、運、縁が強化されるから後でステータスを確認するといいわ。あなたなら回復魔法も使えるはずよ。」
そう言って弥生は加護を与えた。
「そろそろ夕飯の時間だね。そろそろ起きないとご飯に遅れるよ。」
飛鳥がそう言うとサクラの意識は現実へと戻って行った。
目を開ければ、すでに日は沈み始めている。
家の方からは誰かが自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
サクラは立ち上がると返事をして急いで家に向かっていった。
その間にもサクラは思考がぐるぐる回り混乱しかけている。
なんだか蜘蛛の糸に囚われたような気持ち悪さを感じて気持ちが沈む。
(誰かに相談出来たら。)
その時、昨日話をした若葉の事が頭によぎった。
(相談・・・してみようかな。)
サクラはご飯を食べた後で若葉に相談してみる事に決めた。
するとなんだか少しだけ気分が軽くなるのを感じる。
そして彼女は今日も戦場に向かう。
彼女にとっては食べること以外に考えることが出来なくなるこの瞬間は、ある意味ではいいストレス発散に繋がっていた。
サクラは不要なすべてを忘れ、
食に没頭する。
そして満腹になるとサトルに頼んで若葉を子犬形態で貸してもらい自室へと戻って行った。
「若葉、悩みを聞いてほしんだけどいい?」
サクラはベットの上に若葉と寝転がって恐る恐る尋ねた。
「いいわよ、でも私もついこの間までただの剣だったから期待しないでね。」
「それでもお願い。」
サクラはそう言いながらもふもふの若葉を撫でる。
(ああ、これだけでも癒される。)
(思念が駄々洩れなのは言わない方がいいわね。)
「それでどうしたの?」
「実は色々言われて頭が混乱してるの。」
サクラは目を伏せて暗い顔になる。
「それなら私と話しながら整理しましょ。家の人たちと獣人たちは問題ないの?」
若葉はまず当たり障りのない事から確認していった。
「ええ、問題は精霊の方々ね。彼らの存在が私には大きすぎて。」
サクラは素直に自分の気持ちを伝えた。
「そうねあの方々は大きな存在だけど今はとても人間的よ。」
そう言って若葉は四大精霊の現状を話した。
「なんだかサラマンダー以外はとても俗物的ね。」
「そうね。でも、だからこそ彼女たちの思いが続く限りそう簡単には大きな災害は起きないわ。もし起こしてしまったら自分で自分の首を絞めてしまうもの。」
若葉はそう言いながらお腹を上にして仰向けになる。
サクラは若葉のお腹や胸を撫でてあげる。
「あ~そこそこ。この姿だとそのあたりが掻けなくてもどかしいの。」
飛鳥は少し婆臭い若葉に笑いが出る。
サクラは気付かないうちに笑えるくらいまでは気分が楽になっていた。
次にサクラは世界樹の件を話した。
「それなら心配ないと思うわ。」
若葉は自信があるように答えた。
「あの5人の精霊は一人で惑星規模で災害を起こせる方達なの。彼らが守る世界樹を切る事はまず不可能ね。それにあの方達はあくまで最終防衛ライン。その前にはあなたがこの家で出会った人たちがいるわ。それだけでもここまでたどり着け者はいないでしょうね。」
それを聞いてサクラは更に安心する。
「それに、この間ここに他国の工作員が60人ほど攻めて来たらしいわ。」
それを聞いてサクラは撫でる手を止めて若葉の目を見る。
「その時はどうしたの?」
「その時はまだ世界樹の飛鳥さんもいなかったけど、敷地に入った人間は碌な抵抗も出来ないまま数分で始末されたらしいわ。」
「始末って、殺したの?」
それを聞いてサクラは寒気を感じて顔を青くする。
「そうよ、ここを守護する力は敵に容赦しないの。だからもし、あなたが身の危険を感じた時はここに帰るのよ。必ず守ってくれるわ」
若葉は立ち上がってサクラを見つめる。
「私も友達が危ないならこの体を血に染める事を厭わないわ。」
それを聞いてサクラは先ほどの寒さを忘れ心から温かくなった。
「ありがとう。」
そう言ってサクラは若葉の頭を撫でた。
「それに結婚も以前と違って前向きにはなれているのでしょ。誰かに言われなくても結果は変わらないのだから気にしなくてもいいのよ。こればかりは縁なのだから。」
「そうね。ありがとう、かなり気分が楽になったわ。」
そしてサクラもベットから起き上がった。
「それじゃあ、そろそろサトルさんの所に戻るわね。」
「場所は分かるの?」
姿が子犬の為、サクラは若葉を心配する。
「ええ、私と彼には繋がりがあるから場所は大丈夫よ。」
そして若葉は犬用出口から外へ出て行った。
サクラは軽くなった心で今日の事を思い出す。
まだ完全に悩みが晴れたわけではないがこれならここでの生活もやって行けそうだ。
サクラは若葉の温もりを思い出しながらベットに潜り込んで眠りへついた。
次の日彼女は社会人として初めて仕事場に向かう。
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