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忌避された破壊魔法使いの私、嫁ぎ先の辺境公爵さまにかけられた呪いは、なぜか私にだけ発動しませんでした  作者: 秋名はる


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第13話 公爵の呪いについて

また別の日、いつものように夕食を終えると、私は突然ユリウス様に呼び出された。


今まで彼に私用で部屋に呼び出されることはなかった私は、少し緊張した面持ちで彼の部屋の戸を叩いた。


***


ユリウス様の私室は、客間の書斎や寝室が連なった2部屋構造になっている。

広い室内は主人の私室らしく豪華な作りになているものの、意外にも質素でものが少なく、整然としている印象を受けた。


ユリウス様は奥の長椅子ソファに腰掛け、何か書類を読んでいたようだが、私が入ると静かに視線を上げた。


「約束した通り、私も君に打ち明けようと思うんだ。――私の身にかかっている“呪い”のことについて」


私が彼の向かいの長椅子に腰掛けると、ユリウス様は切り出した。


"呪い"と言う言葉を聞いた瞬間、背筋がぴんと張り詰める。たしかに、今までユリウス様の呪いの詳細については聞かされていなかった。町で約束してくれた時のことを覚えていてくれたのだろう。


私は緊張しながら椅子に腰を下ろし、ユリウスの様の言葉を待った。彼は少しの沈黙のあと、彼はまず自身の出自について静かに語り始めた。


「私は由緒ある公爵家の嫡子として生まれた。

 しかし、私がまだ幼いうちに、父である先代の公爵が病で命を落としてしまった。それで急遽私が家督を継ぐことになり、父が任されていたこの北の地の統治を、そのまま引き継ぐことになったんだ」


私は頷いた。この国で崇高なるハイデルベルク家を知らない者はいない。


ユリウスさまの家は、国の成り立ちから連なる由緒ある公爵家だ。国王陛下の親族にも当たる大貴族で、代々この北方の大領主を任されている


「もともとこのあたりには多くの場所で魔物がはびこっていた。北の厳しい気候のせいで土地は痩せ、民は厳しい生活を強いられていた。

 歴代の公爵達は兵を率いて魔物を討ち、やせ細った土地を蘇らせるために尽力した。彼らの働きの甲斐あって人々の暮らしは次第に豊かになっていった。

 私が父の跡をついでこの地を引き継いでからも、しばらくは平和な日々を享受していたんだ」


「そうだったのですね」


若い頃から当主としての頭角を表していたと、執事のアルバートも言っていた。

私が感心している横で、しかしユリウス様は腕を組み、わずかに顔を曇らせた。


 「だが、三年ほど経った頃、ある異変が起こった。北の山奥――深い霧に包まれた閉ざされた谷に、“魔物”が現れたのだ」


「魔物、ですか?」


 ”魔物”はよくいう”魔獣”とは異なる。魔獣は、所詮は一般的な野生動物の上位種であり、国内にも広く分布していて、エドワードのようにときに飼いならす事のできる魔獣も多くいる。


でも”魔物”はそれとは別次元のものだ。巨大で強力な魔力を秘めており、軍を率いたり、優秀な狩人(ハンター)によってしか討伐することはできない。


「でも、魔物はすでにこの国では絶滅したはずでは?」


国内では、魔物はすでにその大部分が討伐されているはずだった。私もまた、彼にこの話をされるまでは伝説に過ぎないと思っていた。


「それは王都周辺だけの事だ。辺境の地では、いまだに古くからの魔物が潜んでいる。

この地も同様だ、私はすぐさま仲間を率いて魔物を討伐しに向かった」


ユリウス様は、苦悶に満ちた表情を濃くする。


「しかし、かの魔物は私が想像していたよりも強大だった……なんとか追い詰めて、トドメを刺そうとした時、その魔物は我々に向けてある呪いを放ったんだ」


「まさか……それが?」


私が思わず口を挟むと、ユリウス様も頷く。


「魔物を追い詰め、その息の根を止めたかけたとき――周囲にはびこっていた魔物の呪いが解き放たれた。

それはこの地に疫病や災害をもたらし、人々の命を奪うほどの恐ろしいものだった」


ユリウスさまはそう言うと、おもむろに懐から何かを取り出した。


手のひらに乗っていたのは、古びて濁った水晶のような石の塊に見える。


「これは?」


私が首をかしげると、彼は続けた。


「これは、私が魔物の発した呪いを封じ込めた石だよ。石には魔力がこめられており、触れるものの命を奪う。

 私は呪いの拡散を防ぐために、他の魔術師と協力して呪いをこの石に封じ込めたが、この石とそこに宿った呪いそのものは、打ち消すことができなかった」


ユリウスは石を掌の上で転がしながら、訝しげに見つめる。


「この石には悪しき力が宿っている。常人が手にすれば、再びこの地に災厄が降り注ぐだろう。

 私はこの石の力を封じ込めるため、絶えず魔力を注ぎ込んで呪いの拡散をふせいでいるんだ。

 その代償として……自らの身に、その呪いを受けてしまう。」


「それで、使用人たちが怯えていたのですね」


私は、初日の晩餐の席でメイドの身に起こったことを思い出していた。


「ああ。私に触れた者、あるいは長くそばにいる者は、皆この石の影響を受け、怪我をしたり身体を蝕まれてしまう。皆が私を恐れ、忌避するのはそのせいだ」


彼の言葉を聞きながら、私は息をのんだ。

彼の背負っている重圧や責務の大きさは、私の想像を遥かに超えていた。


彼は命と引き換えに、この地を守ってきたのだ。


私が言葉を失って立ち尽くしているのを見て、彼は思い出したように呟いた。


「しかし意外だったのは、君だけがこの石の呪いを受けない例外だったことだ。

 君が私に触れても平気なのは、君の“破壊の力”が、この呪いを無意識に打ち消しているからだろう。

 だが、それでも危険であることに変わりはない」


「……なにか、私にお力になれることはないのでしょうか。

 もしかしたら、私の力でその石を破壊できるかもしれません。試させてください。」


私はおもむろにそう言って、彼の持つ石のペンダントに手を伸ばした。


しかし、ユリウス様はこれを拒んだ。


「――いや、だめだ

 私も、あれから何度も調べた。

 石を壊しても、呪いそのものは消えない。なぜなら呪いの根源は魔物の本体にあるからだ。

呪いを解くには、“魔物”を倒すほかない。

 しかし、魔物はあの日以来行方をくらまして潜んでいる」


「そんな……」


「また、この呪いは治癒や回復の力では癒せない。

 私も自分の魔力で試したんだ。呪いは傷や病気とは性質が異なる。怪我は直せても根本的な解決にはならないということなのだろう」


ユリウス様は、静かに視線を落とした。


私もまた、その可能性について考えていた。

ーー妹のような“治癒”の力があれば、と。


しかし、治癒の力は既にユリウスさまも持っている、できるものならとっくにやっていただろう。


わたしは、再び肩を落とした。



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