78話 コスタル待ちの隙間に
翌日も朝から縮地チームが出かけている。今朝はタガセンが戻っていた。
魔法移動スキル持ちも、クラスの間にスタンバイだ。用務員の高田さんも居る。
ウッドランドの時は、タガセンの代わりに高田さんが残っていた。僕らがいるブリンクランドも全ての人が善人とは限らないから、生徒だけで残すのは心配なんだろうって、日向君が言ってた。
でも今回の行き先はコスタル。高田さんもそろそろめぎ中の人達に会いたいんじゃないかな? コスタルに戻りたいかも。
「高田さん、すみませんが今回も生徒の事、よろしくお願いします」
「はい。私では大した事は出来ないと思いますがお任せください」
タガセンと高田さんの会話で、また高田さんが僕らと残ってくれる事がわかった。
今回タガセンは、高田さんと一緒に来たコスタルの使者さんのひとりを連れて、コスタル入りをするんだって。
「めぎ中は教師がおふたり来ている。どちらかに、多分2組の担任になるでしょうね、その人を連れて来たら代わりに高田さんを向こうへお送りします」
「いやいや、どうぞおかまいなく。私はただの用務員なので向こうでもほぼ部外者でしたので、私が戻らなくともあっちは困らないでしょう」
そうなの? めぎ中で高田さんが要らないならうちにずっと居てくれていいのに。
高田さんはいつも見守ってくれていて、すごく安心する。中庭でうっかり太郎君を見失ってキョロキョロしていると、いつも高田さんが声をかけてくれる
「太郎坊ならあっちの太い木の方へ行ったぞ?」
「太郎坊はすぐ戻ると走って行った。きっとトイレじゃろう」
「太郎坊は……」
うん? 僕を見守ると言うか太郎君を把握している???
でもまぁ、優しくて好き。うちの喜一郎さん(祖父)は何かいつもシャキンとしていて話しかけづらい。
あ、やばい。また、別の事考えて話聞いてなかった。
時々戻ってくる縮地チーム、城之内君の話によると、ウッドランドと違ってコスタル方面は進みやすいんだって。
商人ロードも直進の道が多いから、目で見て飛ぶのがやりやすいって。それでスイスイと進んでいるみたい。
コスタル……海の街。魚介類やお醤油。楽しみだなぁ。僕、高田さんと一緒にコスタルの街めぐり、したいかも。
あ、でも今は高田さんに近寄れない。何故ならみんなが高田さんを取り囲んで、街のお店で売ってる物の事を聞いている。
「ねぇねぇ、太郎君。僕ら、まだお小遣いないよね?」
「そうなんだよ。ギルドも出来たばかりだし、登録はしたけどまだ依頼がそんなにねえ」
「そうそう。それに俺らはスキル検証とかで忙しかったしな。どうする。コスタルでの買い物」
赤城君達も近くに来た。
「魚醤は絶対欲しいよな。あと、帆立とわかめ。ワカメの味噌汁飲みてえ。味噌が無いならワカメのスープでもいい」
「わかる! 俺は小魚の煮たやつが食いたい。身体が求めてるんだよおお」
「しらす丼が食べたいわね。コスタルってお米あるかしら」
やないさんもこっちに来た。
「ねぇ、ポチャコンビ。 あの後、罠見た?」
「あの後? どの後?」
「罠って?」
僕と太郎君の声が被った。
「ほら、アンタ達が仕掛けた罠。本郷中の2人をゲットしたとこ」
「ああ、蒼井がかかってたとこだろ?」
「そう。あそこに罠を幾つか仕掛けたじゃない?」
ああ、そう言えばあれから見に行ってない。もしも罠に何かかかっていたら、その獣はもう死んじゃってる気がする。
「どうだろな。あの後は放置してたぜ」
「もしも何かかかってたら、それ売ってお小遣いに出来ない?」
「やないぃ、お前、頭良いな!」
「どこで売るんだよ」
「ギルドだよ。ギルドで買い取ってもらう」
「日向ぁ」
こっちを向いた日向君をやないさんが指でちょいちょいと呼んだ。
「日向、タガセンに許可取ってくれない?」
「何を」
「ファリちゃんを借りて魔法移動でちょっと行きたいとこある」
「今、魔法移動スキル持ちは待機中だから無理だろ?」
「でも、5人全員がMPマックスでなくても平気よね?」
「そうだけど。どこに行くんだ? ちゃんとした目的がないと許可は出ないぞ」
「そっかぁ。どうする?」
「正直に言ってみる?」
「だな」
「待て待て待て。あれを見ろ。タガセンは今マックス張り詰めている、気がするぞ? 今、お小遣いが欲しい話なんかしたら……」
「確実にタガセンビンタね」
太郎君、赤城君、やないさんが俯いて落ち込んだ。日向君は鼻からため息。
僕もため息。このタイミングでなくてもいいんじゃないって思う。みんなほど、ワカメや帆立を欲していないからかな。ワカメよりお肉が食べたい。
コスタルへは千谷君達がブックマークすればいつでも行けるよ?
「ねぇ、もう少し待てば?」
4人が勢いよく顔を上げて僕を見た。
「ポチャ次郎! ナイスだ!」
「そうよ、ポチャ次郎の言うとおり」
「今じゃない、今じゃないんだっ! もう少し、待てば……」
「ああ。そうだな。もう少し待って、タガセンが縮地チームとコスタルへの移動を開始したら、そのタイミングで罠を見に行く!!」
えっ? 違うから!
もう少しって、その少しじゃなくて、もっと少しって言うかなんて言うか、もっと少し……違うな、もっと後の事だよ!
「ファリタ呼んでくる」
あ、やないさんが、魔法移動チームの方へそそそっと移動してファリタさんに声をかけた。
ファリタさんが一緒にこっちに来たぁぁぁ。
タガセンに気づかれないためにも、イチクミの中でも少数で行動をするんだって。
日向君、赤城君、太郎君、やないさん、ファリタさん。それとこっそりと百目木君が呼ばれた。
「この5人で行く。梁井とポチャ次郎は留守番だ。ファリタに飛んでもらう。罠の場所は太郎がわかる。百目木は罠にかかった魔物が生きていたらトドメをさしてくれ。赤城は周りを警戒、危険があれば魔法をぶっ放せ」
あ、僕、留守番なんだ。足を引っ張っちゃう気がしてたから良かった。それとタガセンに嘘をつくのが出来る気がしなかった。絶対、挙動不審になっちゃう。
「獲れた物は俺か太郎の亜空間に保管する」
「ギルドにはいつ売りに行く?」
「そんなに時間あるか?」
「売らなきゃ金は手に入らないぞ」
「ギルドってすぐに買い取ってくれるのかな?」
「どうだろな。でも、時間がかかったらこの作戦は失敗だぞ?」
ちょっと揉めていた。そんなに時間があるとは思えない。今回のコスタル行きはウッドランドの時よりスムーズな気がする。
タガセンが行き来している時、イチクミの生徒が5人も居なかったらバレると思う。
「ファリタや日向が長く抜けたらタガセンにバレるな。俺と赤城……か、梁井なら、ちょっとくらいクラスの間から抜けても目立たないよな」
「3人抜けたら目立つぞ。太郎と梁井のふたりでギルドに行ってもらうか」
「うーん、俺たちあんまギルド行ってないからなぁ」
「だよねぇ。屋敷内か城庭がほとんどだったし。でも行くしかない。お金のために」
「あの……。あのさ、売らなくてもよくない?」
6人に、何を言ってるんだ?という目で見られた。
「あ、あの、ごめん。よくわからないけど、獲物はとりあえず太郎君か日向君の倉庫に入れておいて、あっちで売るか、ブツブツ交換とか出来ないかな」
突然、視界が暗くなった。正面から赤城君に抱きつかれたからだ。正面だけでなく、なんかみんなに揉みくちゃにされた。太郎君とか日向君も、百目木君にもぎゅうぎゅうされている。やないさんやファリタさんも抱きついていた。女子なのに。
てか、何で?
「声を潜めろ、タガセンに聞こえる」
『すまん。ポチャお前、天才だな』
『その手があったかー』
「押しくらまんじゅうー、押しくらまんじゅうー」
『そうだよ、コスタルで売っていいし、こっちの世界、ブツブツ交換あるよな』
『あるある。この国の市場でも交換見た事あるわ』
「押しくらまんじゅう〜」
何かみんながまんじゅうまんじゅう言いながら僕を揉みくちゃにしている。揉みくちゃにしながら小声で会話を続けている。
ちょっと会話の内容もよくわからない、けど、僕をぎゅむぎゅむするのは続いてる。…………もしかして、新手のイジメ?
『じゃあ、その手筈で。ブツはあっちで売り捌くか交換だ』
『おっけー』「押しくらまんじゅうう!」
『わかった』「押しくらまんじゅう」
『押しくら、まんじゅう!』
『いや、それは小声でなくても』
『まんじゅう、解散ー』
ふわっ、解放された。僕が本当にお饅頭だったら餡子が出てるとこだよ!




