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4 聖域


「こんなに? 一番小さいので?」

「そうだよ。それくらいが相場」


 建築士のおっちゃんに見積もりを出してもらった結果、目玉が飛び出そうになった。

 神殿を建てるからにはと相応の金額を予想してはいたものの、考えが甘かったらしい。


「マジか……こんなに」

「犬小屋建てようってんじゃないんだ。神獣を奉る神殿だぜ? 石材一つとっても聖化が必要だし、手間が掛かるんだ。修復するにしろ、建て直すにしろそれくらいは掛かっちまう」

「なるほど……」


 聖化は文字通り、物に神聖を付与することを指す。

 神獣の恩寵を得た者が執り行う儀式によってそれは成立する。

 契約者なら誰でもという訳ではなく、聖化は専門職になるのだとか。


「聖化した石材、聖石とそうでないのってやっぱり違う?」

「そりゃそうさ。品質、強度、耐久年数、その他諸々。するとしないのとじゃ雲泥の差だ。なにより神獣の神殿として相応しい。神殿を建てるなら聖石は必須だ」

「聖化か……」


 とりあえず、見積書だけを受け取って建築士の事務所を後にする。


「色々と手を打ったとして……それでもまだ結構金が掛かる。こりゃ一人だと何年も掛かるかもな」


 見積書と睨めっこをしていると軽い衝撃が加わり見積書を落としてしまう。

 歩きながらだったから誰かとぶつかってしまった。


「悪い。前見てなかった」


 散らばった見積書を集めると、目の前に一枚差し出される。


「ありがと」

「気をつけなさいよ、アキト」


 名前を呼ばれて見上げると、シーナがそこに立っていた。


「あぁ、気をつける」


 受け取ったものも合わせて見積書を束ねて立ち上がる。

 金糸のように艶やかな金髪のツインテール。

 勝ち気でさっぱりとした性格は、かつて自分と馬が合っていた。

 それなりに仲がよかった相手だ。


「神殿建てるの? あんた」

「まぁ、追々な。やっと恩寵を貰えたんだ。今後はそこで頑張るつもり」

「そう、よかったじゃない。それにしたって建て直しが必要なくらい年季の入った神殿に属したわけ?」

「年期の入ったっていうか、そもそも屋根もないというか」

「屋根が、ない?」


 物凄く怪訝な顔をされる。


「あー……その、なんだ。ぶっ壊れてるんだよ、神殿」

「はぁ!? 神殿が壊れてるってどういうことよ! ほかの契約者はなにやってんの?」

「いない」

「いなッ――」


 開いた口が塞がらないと言った様子で、実際に口があんぐりと空いている。

 それくらい俺が置かれている状況はありえないということ。

 シーナの反応のお陰で現状を再認識できた。


「大丈夫なの? あんた」

「少なくともこの前よりはずっとマシな状況だよ」


 恩寵が貰えた分、プラスだ。


「その前向きさは見習いたいくらいだわ。まったく」

「褒めてもなにも出ないぞ」

「呆れてんのよ、前向きバカ」


 ため息が漏れる。


「いいわ。なにか力になれることがあれば言いなさい。気分次第で引き受けてあげる」

「気分次第なのね」

「そうよ。あたしだって忙しいんだから」

「ありがと」

「いいわよ、べつに。なんかほっとけないだけだし」


 まぁ、かつての同期が落ちぶれてたらそんな気にもなるか。


「じゃ、あたし行くけど。頑張りなさいよ」

「またな」


 去って行くシーナを見送ると背を向けて一歩を刻む。


「さて、頑張るか」


 まだ何も思い浮かんでいないけれど、とにかく頑張ろう。


§


「捧げ物だ。安い肉だけど」

「構わん」


 肉屋で買ってきた安い肉塊を放りなげると神狼はそれに食らい付く。

 前脚で押さえ、簡単に引き千切っては呑んでいく。


「久々の肉の味は?」

「悪くない。長い年月がそう感じさせる」

「昔はいいもの喰ってたんだな」


 思えば食事自体が久しぶりなのか。

 そりゃなんでも美味く感じるよな。


「捧げ物をして、環境を整えて、すこしでもレベルを上げないとな」

「レベル?」

「あぁ、そうか。知らないんだ」


 長い間寝ていたから。


「恩寵の段階のことだよ。それを地球育ちの俺みたいなのにわかりやすく例えるための方法なんだ」

「数値化か。では、今は10と言ったところか」

「10? 1か2くらいだと思ってたけど。その肉、そんなに美味いのか?」

「肉で上がった訳ではない。この環境がそうさせるのだ」

「たしかに浄化して綺麗にはなったけど」

「それだけではない。お前の神聖が大地を駆け巡り、今や聖域と化している」

「聖域!? 聖域ってかなりレアな場所じゃないのか?」

「悪魔共が穢して回ったからな。だが、この土地は穢れが祓われ神聖を帯びておる。間違いなく聖域だ」

「俺、聖域を作れるのか……」

「あらゆる条件が重なれば、な」

「そりゃそうか、そうだよな」


 でも、ともかく、ここは聖域になったらしい。


「じゃあ何か? 捧げ物なんかなくてもここに居れば勝手にレベルが上がるのか?」

「捧げ物はしろ。だが、その通りだ。問題は」

「レベルキャップか」


 恩寵レベルはある程度までいくと頭打ちになってしまう。


「上限突破するには神殿を建てないとか」

「神殿により我が力が高まればレベルキャップとやらを突破できるだろう」

「まず何よりも先に金か。世知辛いな、この世界でも」


 とりあえず金だ。金がいる。

 まずは仕事を見付けないと。

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