Ⅹ リディアの奪い合い
わたしたちの前には、三匹のゴブリンがいた。
結局、セレナは仲間になって、第一層の冒険に参加してもらっている。
今はそれほど強くない敵と戦っていた。でも、油断は禁物だ。
わたしの魔法剣が敵のゴブリンを切り裂く。返す刀で別のゴブリンに炎魔法を食らわせた。
これで二体撃破! わたしは一歩下がる。
最後の一匹が、ゴブリンの頭領らしい。少し倒すのに手こずりそうだ。
「セレナ!」
「はい!」
セレナが前へ飛び出して、わたしの代わりに残りのゴブリンの攻撃を受け止める。
そのあいだに、お姉ちゃんがくるりと杖を回した。その赤い魔石が輝く。
「汝に加護を! ブレッシング!」
お姉ちゃんの支援魔法のおかげでわたしにふたたび魔力がみなぎる。
魔法剣をかかげ、わたしは叫ぶ。
「ファイアストーム!」
炎の嵐が巻き起こり、ゴブリンの頭領を飲み込んだ。
跡形もなくそのゴブリンは消え去った。
「やりましたね、先輩!」
「うん!」
嬉しそうなセレナとわたしはハイタッチして、それからはっとする。
ついセレナに気を許してしまった。
セレナは上機嫌だった。
「やっぱり私たちは最強の暗殺者コンビですね! 公爵家にいたときだって、いつでも無敵でした!」
えへんとセレナが胸を張る。嬉しそうなセレナに、わたしは頬が緩む。
けど、お姉ちゃんが咳払いをした。振り返ると、お姉ちゃんがジト目でわたしたちを睨んでいる。
「リディアはわたしと二人で最強の姉妹なんだから!」
「あ、ソフィア様って意外と独占欲強いですよね」
「そ、そういうわけじゃないけれど……」
お姉ちゃんが視線をそらす。セレナはにこにことして、そして、わたしの右手を握る。
わたしはびっくりしてセレナを見ると、セレナはわたしの耳元でささやいた。
「最強二人組暗殺者と最強冒険者姉妹の二つで呼ばれるなら、リディア先輩はどっちが好みですか?」
お姉ちゃんもセレナの言葉が聞こえたのか、とても気になるという様子でわたしを見つめていた。
困ったな……。どっちで答えても角が立つ。
「さ、三人で最強パーティでいいじゃないかな?」
「リディア先輩……逃げましたね?」
セレナは不満そうに言い、お姉ちゃんもむぅと頬を膨らませた。
わたしはえへへと笑う。
「でも、わたしが大事なのはお姉ちゃんだから。お姉ちゃんと最強姉妹って呼ばれる方が嬉しいな」
お姉ちゃんはぱぁっと顔を輝かせ、セレナは大げさに肩を落としてがっかりしてみせる。
ソフィアお姉ちゃんは胸を張り、とても嬉しげな表情を浮かべる。
一方のセレナはわたしの手を握ったまま、小声で言う。
「いつかリディア先輩のこと、わたしが奪っていきますからね?」
「せ、セレナ……そろそろ手を放してくれる?」
「ダメです。先輩の手はわたしのものです」
「セレナのものじゃないってば!」
そんなことを言い合ってたら、ソフィアお姉ちゃんがわたしの左手を握った。右側からはセレナに迫られ、左側からはお姉ちゃんに触れられ……わたしは心臓の音が高くなるのを感じた。
「お、お姉ちゃん……?」
「リディアは私の妹だもの」
わたしの肩越しに、お姉ちゃんとセレナがばちばちと火花を散らす。
ど、どうしよう……?
困っていたら、そのとき、後ろから足音がした。
わたしたちは振り返る。
そこには男の冒険者たちがいた。彼らはにやりと笑う。
直感的に良からぬことを考えているとわかる。だけど、その狙いはわたしたちじゃなかった。
「ここにいたのか……冒険者の、いや、暗殺者のセレナ」
男たちは、はっきりとセレナの名前と正体を口にした。





