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93.死体ボックス!

 翌朝。

 私達は宿をチェックアウトすると、東側ゲートを抜けて、アカントーデス平野に向けて出発した。


 大体、一時間で四キロとして、百キロ先だから二十五時間?

 丸一日歩き続ければ、何とか到達できるかも知れないけど、さすがにそれは現実的な話ではない。

 途中で休憩も必要だし、睡眠時間だって必要だもんね。



 一先ず、私達は五日間かけて、ようやく平野部の都市エルギニアに到着した。

 エルギニアは分厚い壁で覆われていて、何と言うか、要塞都市って感じがしたよ。


 ここから東方、約十キロ先に位置するグロッソプテリス樹海が、魔獣発生源になっているからね。

 厳重な魔獣対応を取っているってことだ。



 エルギニアは、都市と言うだけあって、かつては人口が多かったんだけど、最近は、樹海での魔獣大量発生が原因で人口が激減しているらしい。


 厳密には、エルギニアだけではなく、アカントーデス平野そのものから人口が激減していると言うのが正しいだろう。

 魔獣大量発生は、グロッソプテリス樹海だけじゃなくて、その先に広がるアレオスケリス草原でも起こっているからね。



 でも、アカントーデス平野の中で、激しく地場が歪んでいるのが、グロッソプテリス樹海とアレオスケリス草原だけで済んでいるのは、まだ救いかも知れない。

 今のところ、この辺では、その二か所にしか魔獣は大量発生していないらしいからね。


 どっちも面積としては結構広いけど、アカントーデス平野全域になっていないだけマシだと思う。



 実は、チャットボット機能からの回答によれば、超大陸の中でも、このアカントーデス平野が最大の魔獣大量発生区域になっているらしい。


 この区域は、かつてのドワーフ大陸と人間大陸、猫人族大陸、犬人族大陸の四大陸がぶつかり合っているところで、それで最も磁場が狂っているようだ。

 当然、自然界の魔力の流れも一番歪んでいる区域と言うことになる。



 ただ、それだけ激しく大陸がぶつかっていて高い山になっていないのは、やっぱり私の常識では不自然な気がするけどね……。


 まあ平野にしたのは女神様の都合ってとこかな?

 四大陸の人種が交流しやすい平野を作りたかったとかね。



 二番目に魔獣大量発生を起こしているところが、アカントーデス平野から七千キロほど東に進んだところにあるコルダイテス高原。

 人間大陸と犬人族大陸、ダークエルフ大陸の三大陸がぶつかっているところだ。



 そして、三番目の魔獣大量発生区域は、アカントーデス平野から北に二千キロほど離れたところにあるディプロカウルス大森林とのこと。

 ディプロカウルス大森林は、コエラカントゥス山脈の麓に位置していて、しかも、コエラカントゥス山脈は、この世界で最も高いパレイア山があるところだ。


 その辺りでは、ドワーフ大陸と人間大陸が激しくぶつかり合っていて、二つの大陸だけでぶつかり合う場所の中では、最も磁場が狂っているとのこと。

 世界一高い山を形成するほど地面が盛り上がっていることからも、その衝突エネルギーの大きさが理解できると思う。



 私が魔獣根絶のために取るルートは、アカントーデス平野、ディプロカウルス大森林、コルダイテス高原の順になるんだけど、徒歩だとマジでキツイな……。

 二千キロだと、一日に二十キロ歩いたとしても百日かかる計算だし、ディプロカウルス大森林からコルダイテス高原に移動するには、超大陸中心の砂漠地帯を迂回して行くことになるから、一万キロ以上もの道のりになるだろう。


 だとすると、そのペースで行ったら五百日以上かかることになる。

 まあ、不可能じゃないけど、もうちょっと楽をしたいな。

 転移魔法が貰えていないって、結構不便だよ。



 西側ゲートを通って中に入ると、結構、街中には怪我人が多かった。

 至るところに包帯だらけの人達……人間達、犬人族達、猫人族達、ドワーフ達、エルフ達、ダークエルフ達……がいて、本当に痛々しかった。


 四肢の一部を欠損している者も少なくなかったよ。

 魔獣との戦いに駆り出されて、死には至らなかったけど、代わりに身体の一部を失ったってことだ。


 アデラもエルマも、本当に他人事じゃないって感じで、辛そうな表情をしていた。

 一昨日まで、彼女達も腕や足を失った状態だったからね。


「ラヤ様……」

 アデラが私に何か言いたげだ。


 エルマも、

「ご主人様……」

 そう言いながら私の裾を引っ張っていた。



 彼女達が言いたいことは分かっている。

 今すぐ、みんなを治してあげて欲しいってことだろう。


 私も、急いで怪我人達を治してあげたいって気持ちはある。

 でも、私の魔力にだって限りがある。余り無駄遣いしたくない。

 それに、治しても、その傍から魔獣に戦いに挑みに行かれては無意味だからね。


「順番からして、グロッソプテリス樹海に生息する魔獣根絶が先だね。この街の人達の治療は、その後だよ」

「分かりました」

「絶対に何とかするから安心して。それより、宿を取って、ゆっくり休もう。明日からは、樹海の中での生活になるかもだからさ」

「はい……」


 一先ず、私達は、都市の中を一時間以上歩いて、東ゲート近くの宿に入った。

 さすがに魔獣頻出状態だからね。

 宿はスカスカだったよ。



 部屋には結界を張った。

 でも、アデラもエルマも不安な表情のままだった。

 いくら私達が安全でも、この都市の人達が魔獣に襲われるのではないかとの不安が拭い切れないからだろう。

 仕方が無い。


「巨大結界!」

 私は、都市エルギニア全体に結界魔法を張った。


 一応、人と家畜の出入りは可能な形にしてね。

 マジで都合のイイ結界だけどさ。



 実を言うと、これって住血吸虫の村に張った結界と似たようなものなんだ。

 出入り不可能なのが貝か魔獣かの差だけだからね。


「これで、この都市の人達は安全だから」

「感謝申し上げます、ラヤ様」

「ありがとうございます、ご主人様」


 どうやら、これで二人とも安心したみたいだ。


 …

 …

 …


 翌朝、私達は宿をチェックアウトして樹海に向けて出発した。

 宿のチェックアウトから現地到着まで、約二時間半かかったけど、何とかグロッソプテリス樹海に到着。時刻は、既にお昼前になっていた。

 魔獣達も、お腹を空かせている頃かも……。



 ダンジョン内の魔物達と違って、魔獣達は食欲旺盛だからね。

 草食魔獣が生息する樹海や草原が、まだ維持されているのが不思議なくらいだ。


 ついでに言うと、肉食魔獣がガンガン草食魔獣を食い散らかすのに、草食魔獣の数が逆に繁殖して増えているってのも凄いことだよね?

 いったい、どんな生態系をしているんだろうと不思議に思う。



 ただ、今の状態が続けば、そう遠くないうちに樹海も草原も植物が無くなるし、エサを失った草食魔獣や草食動物達も、ついでに言うと肉食動物も、全て肉食魔獣共の餌食になるだろう。

 勿論、人間達や亜人達も例外ではない。


 魔獣共からエルギニアを守るために先ずすべきことは、魔獣達を樹海から出られないようにすることだ。



 と言う訳で、

「結界!」

 私はグロッソプテリス樹海全体に結界を張った。

 実際には、外枠を囲っただけだけどね。


 出入り出来ないのは魔獣だけ。

 この結界が破られない限り、樹海から魔獣が外に出ることは出来なくなったはず。



 ただ、この樹海は面積が半端じゃないんだよ。

 総面積は青木ヶ原樹海の四十倍くらいあるらしい。

 大体、千四百平方キロメートルってところ。


 仮に円形だとすると、半径が二十キロメートルちょっとになる。

 それ全体に結界を張ったわけだからね。ハルにパワーアップしてもらっていたから出来たようなものだけど、お陰で、かなりの魔力量を消失したよ。

 さすがに私もお腹が空いた。



 それにしても、この面積内を探索するのも結構大変だなぁ。

 どうやって、魔獣共を倒して行こうか?


 すると、アデラが、

「結界面積を徐々に小さくすることって出来ますか?」

 と私に聞いて来た。

 たしかに、それはアリだね。


 もっとも、それをやる場合は、結界の外縁部から内側に向けて不快な音でも出せると効率的でイイんだけどね。

 魔獣共を中心方向に追いやることができるから。


 でも、そんな魔法は授かっていない。

 だったら、一先ず、魔獣の身体に触れる直前まで結界を縮小しよう。



 でも、その前に腹ごしらえ。

「出ろ!」

 私の趣味で、今日のお昼はおにぎりと卵焼き、それからタコさんウインナーにした。こう言ったお弁当が、たまには食べたかったんだもん!


 …

 …

 …


 お弁当を美味しくいただいた後、三十分くらいの休憩を挟んで、いよいよ結界の縮小を開始した。

 魔力、完全復活!



 ただ、単純に結界の輪を全体的に小さくするのではなく、結界の面積だけを可能な限り小さくすることにした。


 例えば、魔獣が三つのグループに分かれていたとする。

 それから、結界の形は、最初に張った段階では円形だったとする。

 結界面積を狭めて行く際に、円形のまま狭めるんだと、魔獣の集団を、強制的に円の中心の方に動かさなくてはならない。


 しかし、魔獣がそう簡単に動いてくれるとは思えない。

 それで、それらグループで集まっている場所を頂点とした三角形になるように結界面積を狭めて行く。


 三角形が出来上がった後は、各辺を三角形の内部に向けて押し込んで行く。

 最終的に、各辺はピッタリくっついて、三つの頂点付近だけが面積として残る。

 こう言ったやり方で、魔獣達の行動範囲を狭めて行く。

 それから、ここでは、この残った面積部分を覆う結界を『部分結界』と呼ぶことにする。



 探査魔法で確認したところ、魔獣共は三十一のグループに分かれているっぽい。

 中には、単独で動いているのもいるけど、一先ず、この樹海内の全ての魔獣共に対して半径数百メートルくらいの円形の部分結界を設定して行動範囲を限定させよう。


 この作業をしている間、私は、結界の方ばかりに集中していた。

 当然、樹海の外部にいる魔獣に気付けない状態にあった。

 なので、この間は、アデラとエルマに私のガードをしっかりやってもらうことにした。


 幸運にも、今日のところは、そう言った輩は出てこなかったけどね。

 でも、二人共、気を張っていて精神的には結構疲れたみたいだ。



 それなりに時間がかかったけど、一応、魔獣共の結界範囲の縮小が完了した。

 全三十一のグループに対して直径数百メートルの範囲内に行動区域を限定できたよ。

 ちなみに団体行動している魔獣が多数派で、単独行動している魔獣は少数派だった。

 単独行動派は巨大でヤバそうな奴ばかりだけど、全部で五頭のみ。


 もし、コイツ等をダンジョン内でドロップアイテム化させたら、とんでもないモノが出てきそうだな。



 一先ず、ここで小休止。

 おやつタイムにすることにした。


 ここでも私の趣味で、

「出ろ!」

 チョコ乗せで、中にバニラクリームとカスタードクリームの入ったフレンチクルーラーを出した。


 これって、シルリア世界にいた時にも出したけど、私は、これが大好物なんだ!

 勿論、アデラとエルマの分も出したよ。


 それから、

「こっちも出ろ!」

 続いて私はフライドポテトを出した。


 甘いものを食べたら、急にフライドポテトが食べたくなってさ。

 勿論、アデラとエルマの分も出してあげたよ!



 ただ、二人共、フライドポテトを食べるのは初めてだったらしくて、

「これって、もの凄く美味しいです!」

 私が思っていた以上に感激していたよ。


 …

 …

 …


 おやつを食べた後、私達は樹海の中心部に向かって歩き始めた。

 ここから一番近い魔獣達の群れは、直線距離で三キロ程度先のところだった。

 意外と近いところにいたんだ!


 獣道を通って、一時間ちょっとかけて、その群れを閉じ込めた部分結界に到着した。

 ただ、部分結界と言っても、直径数百メートルの範囲だからね。

 面積としては結構大きい。



 でも、最凶魔法は、多少離れていても発動する。

 シルリアの世界では、空を飛んでいるワイバーンを地上から撃ち落としたもんね。

 なので、この場所から、この部分結界内の魔獣共の息の根を一気に止める。


 と言う訳で、私は、

「アデラもエルマも、私の後に来て! 絶対に、この結界に触れないようにしてね」

 こう言って、二人に部分結界から距離を取らせた。

 万が一にも、この二人に最凶魔法の余波が飛んでは困るからだ。


 そして、私は部分結界に触れると、

「この中の魔獣共よ。死ね!」

 その内側に向けて最凶魔法を思い切り放った。



 すぐさま、探査魔法を発動!

 取り敢えず、この部分結界内からは魔獣の生体反応が完全に消えていた。


 部分結界で範囲を限定が出来たからって言うのもあるんだろうけど、最凶魔法は間違いなく成功した。



 さらに私は、部分結界内に入ると、女神ロリダ様から与えられた新しいアイテムボックスを開いた。

 そして、

「吸引!」

 と私が唱えると、魔獣共の死体がドンドン飛んできて、新アイテムボックスの中に入って行ったよ。


 まるで、超吸引力の掃除機ってところだ。

 新アイテムボックスのことを、今後は、死体ボックスと呼ぶことにしよう!



 今回、死体ボックスの中に飛び込んできた死体は、狼型魔獣のみだった。

 まあ、群れでいたわけだからね。

 一つの種族が集まっていたと考えるべきだろう。


 チャットボット機能に問い合わせてみたところ、樹海内の魔獣は、殆どが猿型、犬型、狼型、熊型、鹿型、猪型、リス型、猫型、ウサギ型ってことになっていた。

 熊型魔獣とかは、結構大きいんだろうな。

 ちょっと期待してしまうよ。

 犬型と狼型は、私には区別がつかないような気もするけど……。



 ここから、次に近い部分結界は、五キロ先だ。

 ただ、もう日も傾いているし、今日は、ここで野宿するのが無難だろう。


 私は、

「小結界!」

 私を中心に半径五メートルくらいのドーム型結界を作った。虫とか動物とかが入って来られないようにってことで。


 ただ、酸素の出入りは出来るようにしたよ。

 勿論、私達三人の出入りも可能だよ。



 それから、

「出ろ!」

 私は、生活必需品と言うことで、物質創製魔法を使ってルームライトを出した。

 勿論、電気で光るんじゃなくて魔石で光るタイプね。

 これを、私は結界の中央に置いた。



 さらに私は、

「出ろ!」

 新しい服と下着、それから寝袋を三人分出した。


 これで寝るのも着替えるのも問題無いだろう。

 お風呂は……今日のところは我慢だね。

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