81.スライム見つけた!
私がカルボニフェラス世界に単身出張した翌日のことだった。
今は午前の診療中。
少し慌てた顔で診察室に受付嬢のフルフラールが入ってきた。
「済みません。ギルドの方と、あと御身分が高そうな方がいらしてます。魔獣大量発生について相談したいことがあるとかで」
「じゃあ、この患者さんの治療が終わったら診察室に通してください」
「分かりました」
今、診ている患者さんは勇者殿の紹介で来院した男性で、依頼内容は毎度の如く余剰部位の切除とのことだ。
この手の患者さんを六十人診ればフルフラールの給料がキチンと出せるからね。
なんだかんだ言って有難い存在だよ。
その男性の治療が終わり、診察室にギルド長が入ってきた。
そう言えば、ギルド長って余り会ったことが無いな。
それから、妙にキラキラした感じのイケメン男性が一緒にいたんだけど、この人って誰?
多分、この方が、さっきフルフラールが言っていた御身分の高そうな御方なんだと思うけど……。
すると、その男性が、
「初めてお目にかかる。私が、このイアペトゥス町や北の森を含む、この一帯を治めるバルティカ公爵だ。君が噂のラヤ君か?」
と自己紹介して来たけど、まさか領主様が直々にいらしたとは。
イケメン領主か。
ちょっと緊張するな。
それに、今までの魔獣討伐の賞金も、この人が出してくれていたってことだよね。
感謝しないと。
「はい。ラヤと申します」
「まさか、こんなカワイイ娘が巨大魔獣の首を刎ねていたとはね。恐れ入った。それで、最近、北の森で魔獣が大量発生して、この町にも被害が出ているのは知っているね?」
「存じております。私にも魔獣狩りの依頼が来ておりますので」
「それで、私とギルド長で魔獣大量発生の原因を探ることになったんだが、巨大魔獣でも簡単に倒せる君に、是非とも同行して欲しいんだ。万が一のためのボディガードってとこだね。勿論、報酬ははずむ。お願いできないだろうか?」
領主様が自ら出向くか。
やっぱりイイ領主様なんだろうな。
調査隊に加わるのは別に問題ない。
元々覚悟していたからね。
もっとも、覚悟が出来ていなかったとしても、さすがに領主様直々の依頼じゃ絶対に断れないよね。
ハッキリ言って、『はい』か『Yes』の二択だからね、これは。
それに、行き先は北の森だし、だったら、ついでにスライム探しもさせてもらおう。
「分かりました。それで、出発は何時になりますでしょうか?」
「明日の朝八時にギルド前に来て欲しい。ただ、一日で終わるかどうか分からない。その間、医院の方は休業させることになるが……」
「今は、町の住人のためにも魔獣の件の方が優先度は高いと思います。一先ず、医院も飲食店も明日から問題解決するまで臨時休業にします」
「済まない」
「それから、転移魔法使いは如何致しましょう? 必要があれば、一人、心当たりがあります。勿論、その人への報酬も必要になりますけど」
「君の紹介なら間違いないだろう。報酬は約束する。転移魔法使いの手配も頼む。それでは、明日は大変だが、よろしく頼む」
そう言うと、領主様とギルド長は診察室から出て行った。
ただ、ギルド長って、一言も喋らなかったよね?
完全に空気だったよね?
まあ、領主様が一緒じゃ仕方が無いか。
私は早速、『明日臨時休業』の張り紙を二枚作成すると、それらを持ってフルフラールのところに行った。
「フルフラールさん。多分、聞こえていたと思うんだけど」
「魔獣発生源調査のことですね?」
「そう。それで、明日は臨時休業になるんで、この張り紙を医院と飲食店の入り口に張ってきて欲しいんだけど」
「了解ですけど、明日だけですか?」
「極力、明日一日で何とかしたいと思っていますけど、明日で終わらない場合、明後日以降は魔獣討伐のため本日は臨時休業って張り紙を張ることにします」
「分かりました」
正直、臨時休業を余り長引かせたくはないからね。
明日一日で決着を付けられるように最大限の努力をするつもりだ!
私は張り紙をフルフラールに渡すと、診療を再開した。
…
…
…
午前の診療が終わり、私とフルフラールは飲食店の方へと急いだ。
店内には、既にリジンとフユミの姿があった。リジンは飲食店の手伝い、フユミは昼食を食べるためね。
ただ、二人共、張り紙のことには既に気付いていたようで、開口一番、
「臨時休業ってどういうこと?」
と二人に聞かれたよ。
「実は、さっき領主のバルティカ公爵様が直々にいらして、明日から魔獣大量発生源の調査をするらしいんですけど、その同行を頼まれまして」
「明日一日で終わるの?」
「さぁ」
「さぁって」
「終わるのは、原則的に魔獣大量発生の原因が分かるか、領主様が諦めるまでってとこじゃないでしょうか?」
「じゃあ、その間、ずっと医院と飲食店は休業ってこと?」
「そうなります。この町にも魔獣が頻繁に出るようになってますし、この町にとっては最優先事項でしょうから」
「そりゃそうだけど」
「極力早く終わらせるようにしますから。出来れば明日一日で」
「そんなことできるの?」
「探査魔法を使えば何とか。それと、リジンさんにも是非、S級転移魔法使いとして同行して欲しんですけど」
「私が? メンドクサイんだけど」
「領主様からも報酬は約束するから是非と言われてますけど」
「ホント?」
「はい」
「報酬が出るのね。領主様からだったら期待できるかな? じゃあ、引き受ける!」
思った通り引き受けてくれたよ。
リジンって、やっぱり現金な娘だよね。
まあ、今に始まったことじゃないけど。
「それで、フルフラールさんには、臨時休業の間、リジンさんの代わりにリカルドさんの店を手伝って欲しいんです」
「了解です」
「あと、フユミさんとフルフラールさんの昼食は、お弁当を用意しておきますから」
「よろしく!」
一先ず同僚達への連絡事項は、これで終了。
リカルドには、リジンから話をしておいてもらうことにしよう。
そして、飲食店の開店時刻になった。
お客さん達は、入ってくると、いきなり、
「ねぇ。何で明日、臨時休業なの?」
「何処か行くの?」
臨時休業に対する問い合わせをしてきたけど、そこは、リジンとフルフラールに魔獣大量発生減の調査のため、急遽、招集された旨を説明してもらった。
町の危機ってこともあるし、うちのお客さんのほとんどはハンターだからね。
状況を考えて臨時休業も已む無しってことを、みんな理解してくれたよ。
そもそも、自分達で調査隊を組んで行かなきゃくらいのつもりでいたハンターも少なくなかったみたいだしね。
…
…
…
翌朝、私はリジンの転移魔法でギルドへと向かった。
カルボニフェラス世界に出張した際には転移魔法を使えるようにしてもらったけど、ここに戻れば元の魔法装備になるからね。
今、私は転移魔法が使えないんだ。
私達が到着した時には、既にギルド長も領主様もギルド内にいらした。
領主様を待たせてしまうとはね。
私達が最後で申し訳ないな。
「バルティカ公爵様。お待たせして申し訳ございません」
「いや、まだ予定時刻前だし、気にしないで。それでラヤ。その娘が?」
「はい。S級転移魔法使いのリジンです」
「そうか。私がバルティカ公爵だ。今日は、よろしく頼む」
「こ……こちらこそ……」
バルティカ公爵がリジンに握手を求めて来たんだけど、この時、妙にリジンが緊張していたよ。
それに、彼女の顔が赤くなっていたんだけど?
多分、相手が想像していた以上にイケメンだからだろうね。
基本的にリジンの周りには私達女性陣に父親のリカルド、それからハンターギルドのヤロウ共くらいしかいないからね。
こんな上品なイケメンを拝めるチャンスは滅多に無いし、免疫自体がそもそも無いのかも知れない。
バルティカ公爵は、リジンと握手を交わした後、早速、手書きの地図を広げた。
北の森が中心に大きく描かれていて、森の下側にイアペトゥス町が、森の右下に王都の文字があった。
また、森の数か所には赤丸が描かれていた。
赤丸部分を指しながら、バルティカ公爵が、
「この赤丸は、最近、ハンター達が魔獣と遭遇したところになる。まず、この町から一番近い遭遇点に行ってもらえないだろうか?」
と言った。
この森の何処で、何が原因で魔獣が大量発生しているのかは分からないし、魔獣は動くから発生地点と遭遇地点が必ずしも近い保証はない。
でも、遭遇地点から調査するのが現段階では正論だろう。
「そうですね。では、リジンさん。お願いします」
「わ……分かりました。転移!」
その直後、私達は眩いばかりの真っ白な光に全身を覆われた。リジンのS級転移魔法が発動する際には、何時も強烈な光が放たれるんだ。
そして、その光が消えると、私達はギルド内から森の中へと移動していた。
先ず、魔獣の存在を確認しなくてはならない。
なので、私は、
「サーチ!」
急いで探査魔法を展開した。
北東に二十キロほど離れたところに強大な魔力源を発見!
しかも、そこにいるのは一体じゃない。何十体も密集している感じだ。
それから、私達の十メートルくらい先に非常に弱い魔力源を発見した。
と言うか、今まで森の中では巨大な魔獣ばかりをターゲットにしていたから、こんなに弱い魔力は無視していた……と言うか気付かなかったよ。
これって、私的には非常に気になるんだけど……。
何となくだけど、これって今回の私個人のターゲットの可能性があるんじゃないかって気がするからね。
なので、私は、
「済みません。ちょっと確認してきます」
その弱い魔力源へと静かに近づいて行った。そして、そこで発見したのは、思った通り待望のスライム!
やった! これは運がイイよ!
早速、私は、
「テイム!」
そのスライムを私の従魔にした。
ただ、このままだと荷物になるな。
スライムには悪いけど、一旦、アイテムボックスの中に入ってもらうことにした。
中では時間が止まるから死ぬことは無いよね?
「お待たせしました」
「何かいたのか?」
「スライムでした」
「そうか」
「それから、北東二十キロの位置に強い魔力源を感じます。しかも、数十体の群れです」
「では、そこで発生源があるのかも知れない」
「可能性は否定できません」
「では、リジンとやら。そこまで移動してもらえるかな?」
「わ……分かりました。転移!」
まだ、リジンは緊張しているっぽい。
でも、転移魔法はキチンと正確に発動していた。
さすがS級だよ。
私達は、再び強烈な白色光に身を包まれると、次の瞬間、さっき居たところを起点に北東二十キロの地点へと移動していた。
ただ、何十もの魔力源があるところだったからね。
目の前には二十頭近い巨大魔獣が立ち並んでいたよ。
さすがに、これを見た途端、
「ひ……ひぃぃっ!」
屈強なハンター達を束ねる立場のギルド長が悲鳴を上げた。
バルティカ公爵は完全に固まって言葉すら出ない様子。
リジンに至っては、思い切り失禁していたよ。
勿論、大じゃなくて小の方ね。
多分、リジンは後で自己嫌悪に陥るだろうな。
或いは私に八つ当たりするか。
よりによってイケメン領主様の前だもんな。




