56.フルフラール!
家の中に戻った。
そして、私はフユミと一緒に二階に上がり、フユミの部屋の扉を開けた。
そこは、ベッドしか置いていない極めて簡素な空間。
「机と椅子は、どんな感じのがイイですか?」
「ええとね、こんな感じのがイイ!」
フユミが紙に絵を描いてくれたけど、やっぱり下手だね。この絵のモノを、そのまま出したらギャグでしかないよ。
なので、私が急いで、その場で描き直したよ。
「こんな感じですかね?」
「本当に、ラヤちゃんは絵が上手ね」
「さっきも言いましたけど、フユミさんが下手なんだと思います」
「……」
「では、出します。出ろ!」
これで、イメージ通りのモノは出せたと思うけど……。
一応、フユミは、
「だいたいこんな感じ。ありがとう!」
と言ってくれたので、多分、イメージから、そんなに大きくは、かけ離れていないはずだよね?
まあ、気に入らなければ作り直すよ。
一旦、私達は二階リビングに移動した。
今後の営業時間とかを決めるためね。
一応、医院と薬屋が併設されるわけだから、休業日を一緒にした方がイイだろう。
それから、住血吸虫関連で、例の村……アフロディテ村って言うらしいんだけど、そこにも定期的に行かなければならない。
それも含めて考える。
それにしても、アフロディテ村って、名前だけは凄いね!
とても住血吸虫に脅かされている村の名前とは思えないよ。愛と美と性を司るギリシア神話の女神と同じ名前だもんね。
一応、この世界も一週間は七日になっていた。
曜日も、幸運なことに月火水木金土日ってなっていたよ。
分かりやすくて嬉しい!
先ず、フユミから、
「週休二日にしない? 休みは木曜と日曜で。ただし、可能な限り急患は受け付ける方向で」
って提案があった。
「構いませんけど。それと、アフロディテ村のことですけど」
「生石灰と殺貝剤は、私が毎週水曜に朝一で行って散布して来るわよ。だから、水曜だけは薬屋は十時からってことで、他の日は九時からの営業で構わないから」
「あと、私が行く日は?」
「住血吸虫と虫卵の摘出でしょ? だったら月一でイイんじゃない?」
「そうですね」
「その時は、私が連れて行くから」
「お願いします」
さすがに私は独力で行けないからね。
移動だけはフユミに頼るしかない。
いつも思うけど、転移魔法、欲しかったな。
「なので、そうねぇ……。月一回、木曜にお願いできるかしら。そうしたら、ラヤちゃんが行く週は、生石灰と殺貝剤の散布も木曜にするから」
「了解です。それと、一つ質問があるんですけど」
「何かしら?」
「薬以外に出せるモノってあるんですか? 例えば構造が分かれば、別の物質とかも出せるとか?」
「それがダメなのよねぇ、残念なことにさぁ。試薬類とかナントカ薬、ナントカ剤って言われているモノなら出せるんだけど。もし、何でも出せたら、それこそ宝石でも出して、しこたま稼いでいるわよ!」
「そりゃそうですね」
「でも、他の薬屋よりはイイモノを作れるから、信用は高い方って自負しているし、業界の中では儲けている方よ」
多分、そうなんだろうけど……。
でも、テナントで寝泊まりしていたくらいだから、そんなに派手には儲かっていなかったんだろうって想像する。
もっとも、それ以前に、お金に執着していない感じだけど。
ウイルス性イボの時だって治せなかった患者からはお金を取っていなかったし、アフロディテ村の方も、治せなかった以上は、今まで無償だったに違いない。
生石灰とか殺貝剤の散布だって、お金を要求していなかった気がする。
たしかに、どっちの村も、お金を要求できるほど潤っていないと思うけどね。
そう言えば、アフロディテ村の治療費、私も貰っていないや!
まあ、イイか。
たまにはボランティアでも……。
翌朝、朝食を終えると、フユミが。
「じゃあ、薬屋に行くけど、ラヤちゃんは役所だよね?」
と私に声をかけてきた。
「そうです」
「じゃあ、役所まで送って行くよ」
「イイんですか?」
「どうせ同じ方向だし、転移魔法だから一瞬だしね」
「じゃあ、お願いします。それから、これ。お弁当」
「イイの?」
「はい。サンドウィッチに卵焼きとウインナー程度ですけど」
「助かるわ。ありがとう」
「でも、作るのは一瞬ですから」
「それは、そうだけど。じゃあ、役所前まで移動するわね。転移!」
と言うわけで、次の瞬間、私は役所の前にいた。
送ってもらえて、私の方こそ助かります!
そして、
「じゃあ、私は店に行くから」
フユミは、そう言うと転移魔法を使わずに店の方へと歩いて行った。
ここから大した距離じゃないみたいだからね。
ムリに転移するのをやめたんだろう。
一方の私は、役所の中へと入って行った。
今日もサービスカウンターには、前に来た時と同じ女性が座っていた。
なので、彼女のところに行き、
「済みません。家の査定をお願いしたいんですけど!」
と言うと、
「またですか?」
って言いながらマジで驚いていたよ。
そりゃあ、こんなショートスパンで新たに何かを建てるなんて、常識的に考えられないだろうからね。
「では、前回同様に係りの者が伺わせていただきますが、お名前と場所をこちらの用紙に記載してください」
「ええと、二か所なんですけど」
「二か所ですか?」
さすがに、これにも驚いていた。
前の分を入れるとショートスパンで合計三か所だからね。
普通は有り得ない話だろう。
「前回建てたところの両脇にテナントをですね……」
「なら、同時に査定は可能ですね?」
「はい」
「それで、査定の日程ですが、何時頃が良いでしょうか?」
「最速は何時になりますでしょうか?」
「今日の午後一時頃になりますが?」
「では、その時間にお願いします。私は住居の方におりますので、いらっしゃいましたら呼び鈴を鳴らしていただければと思います」
「了解しました。その時間に前回と同じ者が伺わせていただきます。それと、査定の際に、係りの者が金額を提示しますが、その際に、登録用書類をお渡しします。それを持って再び役所まで来てください」
「了解です。ありがとうございます」
私は、書類に必要事項を書き込むと、それをその女性に提出した。
今回は物件二つだから書類は二枚になったけどね。
取りあえず、午前中の役所での作業は、これで終了。
まだ一時まで時間があるし、ちょっとヒマになっちゃった。
それで私は、ギルドに顔を出すことにした。
ちょっとギルドにお願いしたいことがあるからね。
ギルドに着くと、フランが、ドンヨリ顔の女性と一緒にいたけど、もしかして彼女だったりして。
こんな娘がいるのに、私に結婚してって迫って来るのはマズイんじゃない?
「フランさん。おはようございます」
「ラヤちゃんか。おはよう。なんでギルドに?」
「役所の帰りです」
「何か手続きでも?」
「ええちょっと……。それで、そちらの女性は?」
「妹のフルフラールだよ」
「妹?」
「ああ」
なんだ。彼女じゃなかったのか。彼女だったら茶化してやろうと思ったのに。
でも、フランの妹にしてはカワイイ気がするよ。
「全然似てないけど?」
「余計なお世話だって」
「それで、どうかしたんですか?」
「フルフラールが、俺達のパーティに入るつもりで田舎から出て来て、さっき、ここでハンターの適性検査を受けたんだけど、結果が散々だったんでな」
「散々って?」
「Nランク未満だったってこと。つまり、ランク外」
うーん。聞かなければ良かった。
ここで何を言ってあげたらイイのか分からないよ。特段、コミュニケーション能力が高い訳じゃないからね。
いっそのこと、声をかけずにスルーしておけば良かったって後悔してきた。
すると、フルフラールが、
「お兄ちゃん。この人って?」
とフランに聞いた。
「前に話したラヤちゃん」
「昨日、お兄ちゃんが狙ってるって言ってた女性ね。フラれたけど」
「言うなってば」
「でも、どんな女性かって思っていたけど、こんなカワイイ系美少女だったんだ」
「これでもハンターとしてはS級だぞ」
「マジで?」
「言ったろ。大熊魔獣を一発で仕留めたって」
「そう言えば……」
「治癒術師としてもS級な。ピレンがその魔獣にヤラれて大怪我したのを一瞬で治したくらいだからさ」
「えっ? 魔獣を倒した人とピレンさんを治した人って、別々じゃなかったんだ!」
「お前、ちゃんと聞いてなかったのかよ」
「だって、二つの能力適性を持っていて、共にS級って言ったら一億人に一人のレベルじゃん? 普通は常識的に考えられないよ!」
ええと……。カワイイ系美少女って言ってくれてありがとう!
ただ、フルフラールは、ハンターになろうとして田舎から出て来て、検査を受けたけど適正無しってことは、もしかすると今はフリーターかな?
他で働き口を見つけているかも知れないけど、一応、聞いてみよう。
でも、その前にステータス画面をチェックしておこう。
名前はフルフラールで、年齢は十六歳。
特に買い物依存症とかは無いっぽいし、性格もマジメみたいだね。
少し様子を見る必要はあるけど、医院の収入は、私の方でもメモしておけば、診療後にチェックできるし、まあ、お金を盗むようなら、その時に注意しよう。
「ねえ、フルフラールさん」
「何でしょうか?」
「今、何か仕事してます?」
「お陰様で、完全にプータロー状態です」
「今、私の医院で受付担当者兼食堂ウェイトレスを募集中なんだけど」
「医院と食堂って、どう繋がるんでしょうか?」
「つまり、基本的に医院の受付なんだけど、昼の時間帯だけ食堂を手伝ってもらうの」
これを聞いてフランが、
「食堂もやるんだ。なら、俺、絶対に食いに行くから」
と文字通り食い付いて来たよ。食堂だけに。
すると、フルフラールは、
「お兄ちゃんが来るの?」
って言いながら、なんか嫌な顔をしていたよ。
さすがに兄が来る店で働くのは抵抗があるってことかな?
「だって、ラヤちゃんが出す料理って美味しいんだぜ」
「えっ? お兄ちゃん、手料理を食べたの?」
「まあ、俺だけじゃなくて、うちのパーティ全員だけど」
「ふーん」
「ピレンなんか、ラヤちゃんをお嫁さんにしたいって言い出して」
「それは、お兄ちゃんもでしょ!」
「うっ……」
なんか、話が余計な方に行っちゃってるんで軌道修正させてもらうよ。
一応、時間に余裕があるとは言っても、私だって一日中暇ってわけじゃないからね。
「それで、勤務体制は九時六時で週休二日。住み込み可能で、急患が来れば対応するってことと。あと、昼の賄いありで、ええと、木曜と日曜が休みで……」
「そんなことより、時給は、いくらでしょうか?」
「時給と言うよりも、月給で六十万Venでどう?」
これを聞いて、フルフラールは、
「やります!」
即決してくれた。
それを横で聞いていたフランは、
「ちょっと待て! 俺より高給取りじゃん?」
って言ってたけど、もしかしてフランって冒険者の割に稼ぎが少ないんじゃ……。
でも、フランは悪い人じゃないよね。
もし悪人だったら大熊魔獣の討伐代は、全額くすねていただろうから。
「それじゃ、フルフラールさん。今日は時間、大丈夫?」
「はい」
「そうしたら、これからギルドに大怪我をした人を私の医院に回すようにお願いして来るから、その後、一緒に私の家に来てくれない?」
「分かりました」
「昼食も出すから」
「ありがとうございます!」
これで受付&二人目のウェイトレスをゲットだね!
勿論、実際に、この後、医院に来てもらって仕事の流れを説明して、その上で、やれそうかどうかの再確認を取るけどね。
でも、月給六十万Venは、ヤリ過ぎたかなぁ?
フルフラールの月給分だけで、多分、マトモに行ったら赤字だもんね。一応、そこはストックが十分あるから大丈夫なはずだけど。
まあ、最悪の場合は私がハンターでもやって稼ぐし、それに、私のところはエンゲル係数がゼロだからね。
何とかなるだろう。
「じゃあ、ちょっとここで待ってて」
私は、そうフルフラールに言うと、ギルドの中へと入って行った。




