35.一人追加!
「おいしぃぃぃぃ!」
ハルも、このミルフィーユを気に入ってくれたようだ。
ただ、この直後だった。ハルの後方数十メートルのところに巨大熊が出現した。
このいきなり、かつベタな展開!
私は探索魔法を切っていたし、ここまで接近していたことに全然気付かなかったよ。
体高は十メートルにも及ぶ。
さっきのサーベルタイガーよりも巨大だ。
S級ハンターでも単独では倒せないって言うのが分かる気がする。
それにしても、こんな麓近くに巨大熊が出てくるなんて。
やっぱり、魔物のパワーバランスが崩れているってことだ。
魔物の生態系が崩れている……と言うか、テリトリーに変化が生じている。
それで、普段なら森の深いところに行かなければ出ないはずの魔物が、浅いところまで降りて来ているってことだろう。
やっぱり、龍の伝承は本当なのかも知れない。
光龍が不在となり、闇龍が六体の龍を支配して魔物の生体バランスが崩れたんだ。
その熊は、ズシンズシンと大きな足音を立てて接近してきた。
って、さっきまで、足音なんか出していなかったよね?
だって、足音が出ていたら、私達がすぐに気付くはずだもん!
そして、ハルを掴み上げようとしたんだろう。
ハルの背後からハルを目掛けて熊が右手を伸ばして来た。
捕まる!
そう思った時だ。
迫り来る熊の右手を、ハルが右手の人差し指で突いたんだ。
その突きが痛かったのだろうか? 熊は、
「ウガー!」
と大声で叫びながら右手を引っ込めた。
その直後、ハルは熊の方を振り返ると、一気に魔力がとんでもない強大なレベルまで跳ね上がり、
「うるさぁい! 食事の邪魔ぁ! 空気読めぇ!」
と言って、右手から光の矢を放った。
こんな魔法は初めて見るよ。
って言うか、ここまで凄い魔力の持ち主だったんだ!
光の矢は熊の左胸を貫通。
そのまま、熊は絶命した。
あっと言う間の出来事に、私もナツミも、これには、さすがに目が点になった。
正直、ハルって強すぎでしょ?
ムチャクチャ凄いんですけど?
一方のハルは、
「お代わり欲しいんだけど……」
何事もなかった顔で、二つ目のミルフィーユを所望された。
「あっ、はい」
私は、ハルの紙皿の上に二つ目……合計四つ目のミルフィーユを出してあげたんだけど、そうしたら、
「私はモンブランが……」
と言うナツミの声が聞こえて来た。
すると、
「私も、それ欲しい!」
とのハルの台詞。
しばらく、この場でケーキバイキングを催すことになった。
それにしても二人とも、巨大熊の死体の前で、よくそんなに食べられるなぁ。度胸が据わり過ぎているよ!
…
…
…
私は、ナツミとハルに手伝ってもらって、巨大熊の死体もアイテムボックスの中に収納した。正直、こんな巨体を動かすのは私一人じゃ到底無理だもんね。
結構イイ時間になってきた。
そろそろギルドに向かわないと。
「ところで、ハルは何処に住んでいるの?」
「それが、行くあてが無くて」
「泊るところは?」
「決まってない」
ハルって、多分、私よりも年下だよね?
ムチャクチャ強い娘だけど、食にありつけなければ死んでしまう。ここで彼女を見捨てられるほど、私はドライじゃないんだよね。
多分、ナツミも……同じ考えっぽい。
仕方が無いなぁ。
「じゃあ、一緒に来る?」
「うん!」
大きな声で頷きながら、ハルは屈託のない笑顔を見せてくれていたよ。
と言うことで、ハルは私とナツミと同行することになった。
だとすると、宿泊手続きも必要だよね?
でも、スティービア・ビロサの採取と、サーベルタイガー退治、巨大熊退治で、それなりに賞金が出るはずだもんね。
お金の方は、特に心配ないだろう。
もっとも、それ以前にトモティ世界で稼いだ分もあるし。
それに、ハルがいればハンターとして、より大きな仕事ができそうだ。
だったら、ハルもギルドに登録させて、私とナツミとハルの三人でパーティを組むのが最善な選択だろう。
決まりだね。
「じゃあ、ナツミ。ギルドまでお願い」
「了解」
私達はナツミの魔法でギルドまで転移した。
そして、ギルドに到着。
早速、私達はギルドのカウンターまで行く。
「鑑定をお願いします!」
「はっ! はい!」
先ず私は、アイテムボックスから、十二個のしょいカゴに山のように入ったスティービア・ビロサを取り出した。
この想像を超える量には、受付の女性も目が点になっていたけどね。
「ええと、これから鑑定致しますので、少々お待ちください」
「それと、植物採取の途中で魔物に遭遇しまして、退治してきたのですが、それも鑑定していただくことは可能でしょうか?」
「他の誰かが依頼を受けていないモノであれば構いませんが」
「では、ちょっと待っていてください」
私は、依頼が張られた掲示板のところまで急いだ。
まだ、サーベルタイガーと巨大熊の依頼の掲示が残っている。良かった。まだ、誰も受けていないようだ。
それらの依頼の紙を取って、私はカウンター前まで戻って来た。
そして、
「これなんですけどね」
と言いながら、私は、それらの依頼の紙をカウンターの上に置き、続いてアイテムボックスからサーベルタイガーの首を出してカウンター前に置いた。
さらに、サーベルタイガーの胴体部分を取り出そうとしたんだけど、正直重い。
さすがにこれは、ナツミに手伝ってもらったよ。
カウンター前にサーベルタイガーの胴体も置かれた。
ただ、私達が退治したのは、これだけではない。
「あと、これもなんですけどね」
「……」
目が点になっている受付の女性を横目に、私は、ナツミとハルに手伝ってもらいながら、アイテムボックスから巨大熊の死体を取り出した。
カウンター前に陳列された二体の巨大な魔物の死体。
サーベルタイガーの方は、首と胴体が切り離され、熊の方は左胸を射抜かれた跡がある。
これには、ギルドにいた他のハンター達からも、
「おお!」
「スゲー!」
「マジで?」
驚きと称賛の声が上がっていたよ。
一方の受付の女性は、こんなものを持ち込まれて逆に震えていたけどね。
さすがに、こんな超大物をデビュー即日のN級ハンターが狩ってくるなんて、想像もしていなかっだろうからさ。
「では、少々お待ちください」
受付の女性は、一旦、奥に引っ込むと、数人のスタッフを連れて戻って来た。
退治された魔物の確認と、採取されたスティービア・ビロサの鑑定を行うためだ。
提示された金額は、
「税抜きで金貨八百五十三枚と小金貨二枚ですね。内訳は、サーベルタイガーが金貨三百五十枚、巨大熊が金貨五百枚、スティービア・ビロサが合計で金貨一枚に小金貨二枚になります」
これは、思っていたよりも高収入だ。
金貨一枚が十万円、小金貨一枚が一万円相当だよ?
一日でこんなに稼げるとは。
私は、賞金を受け取ると、すぐさまアイテムボックスの中にしまい込んだ。
それから、その後すぐに私達はハルにハンター登録させた。と言っても、簡単な書類手続きのみで終わるんだけどね。
その後、私達は宿に戻り、ハルの宿泊手続きを行った。
勿論、部屋は私達と同室だよ。
そして、部屋に入るといきなり、
「「夕飯は何?」」
ナツミとハルの言葉がハモった。
どうやら、私は食欲魔人を追加でパーティに引き入れてしまったようだ。
「何が食べたい?」
と私が聞くと、すかさずナツミが、
「先ずステーキ!」
と答えた。
そして、ハルは、
「じゃあ、私も!」
ナツミに賛同。
ただ、ステーキの前に、『先ず』って言わなかった?
ってことは、他の何かも後から追加する気マンマンってことだよね!?
もしかして、私が物質創製魔法で食事を出せなかったら、今日の賞金も、すぐに二人の食費で底を尽いてしまうのでは無かろうか?
女神様に感謝です。
私に飲食物を出す能力をお与えくださって……。
こんな大食漢二人を抱えて、贅沢なモノばかり食べられていたら、普通はお金のやりくりが厳しいもんね。
結局、この日は、二人ともステーキの後にクレープとアイスクリームを所望された。
翌朝、私達は朝食を済ませるとハンターギルドを訪れた。
朝食も大変だったんだけどね。
ナツミとハルは、パンにスープにスクランブルエッグにソーセージにフライドポテト。さらにフルーツにヨーグルト……。
私は久しぶりに和食が食べたくて、鮭の塩焼きにご飯に味噌汁だったけどね。
私達が向かったのはギルドの掲示板。
その前で依頼を探していると、スタッフの一人が私達に声をかけて来た。
「ラヤさんにナツミさんですね」
「はい」
「昨日のサーベルタイガーと巨大熊退治の成果から、お二人のB級ハンター昇格が決まりました」
「あ……ありがとうございます」
「本来ならS級にすべきなのですが、いきなりN級からA級以上への昇格は規定上難しく、一先ずB級と言うことでご了承ください」
「分かりました」
「それから、もう一人のハルさんは、登録が魔獣の鑑定の後でしたので、今回の昇級の対象には入りませんでしたが、成果を上げていただければ、すぐに昇級できると思いますので」
「はい」
「では、ご活躍、期待します」
そう言えば、周りからの視線も昨日と違う。
やっぱり、力があると認めてもらえれば、一目置いてもらえるってことだね。
地球にいた頃は、一目置かれるなんてこと自体、全然無縁の状態だったもんね。
逆に永遠に舐められっぱなしだんじゃないかな?
「ねえ、これなんかどう?」
ナツミが依頼の一つを指さした。
内容は、畑を食い荒らす巨大魔獣退治の賞金額は5,000万Xenとのこと。昨日の巨大熊と同レベルの内容ってことだ。
「面白そう。ハルは?」
「やる!」
そりゃあ、あの熊を一発で仕留めた化け物だもんね。
ハルに辞退する理由は無いよね。
ってことで、私達は、その依頼の紙を持って受付カウンターに行った。
ただ、カウンターの女性からは、
「この依頼は、あまりお勧めできませんが」
といきなり言われたんだけどね。
「何か問題でも?」
「この魔獣は、昨日の巨大熊クラスの魔獣ですが、実は一体だけではないんです」
「えっ?」
「合計三体。しかも、移動費込みの依頼ですから、賞金額を三倍にしてもらえても割に合わないと思います」
「でも、畑が食い荒らされているんですよね?」
「そうです。この地方の農作物は、もはや壊滅的です」
「なら、割に合わなくても可能な限り受けたいと思います。で、どのような魔獣なのでしょうか?」
「頭に角を三本持つ攻撃的な魔獣です。四つ足で体長は約十メートル……」
容姿的には、まさにトリケラトプスってとこかな?
これはこれで見てみたい!
スマホがあったら、是非とも画像とか動画に収めたい。
ナツミも目をキラキラ輝かせている。多分、私と同じで、この魔獣を是非とも見てみたいんだろうね。
ハルは、退治する気マンマンって感じだ。
「では、この依頼を受けさせてもらいます」
「分かりました。では、こちらが正式な依頼書です。場所は、ここから百キロ離れたカスモ村になります」
「了解です」
と言うことで、早速、私達はナツミの転移魔法でカスモ村に向けて出発した。




