33.姉妹設定なんだよね!
バージェス編は、普通にナーロッパ世界の話のつもりです。
ナツミの転移初体験は無事終了……と言うか成功。
勿論、初体験だけど『性交』じゃなくて『成功』ね!
街までの距離は五十メートル程度。
街全体が壁で覆われていて、ブルバレン世界やトモティ世界、エディアカラ世界とは様子が違う。
これって、魔物とかが結構出るってことかな?
一応、ブルバレン世界にもトモティ世界にも魔物はいたけど、こんな装備がされている街は少数派だった。そんなに魔物が出なかったからだ。
先ず私は、ステータス画面のチャットボット機能を開き、この世界や目の前の街のことを確認した。
「やっぱり、この世界は魔物が結構いるみたいです。この街……オパビニアの周辺も頻繁に魔物が出るようですね」
「マジ?」
これを聞いてナツミは驚いていたけど、特に怖がっている様子はなかった。
むしろ、見てみたい……と言うか退治してみたいって感じだ。
まあ、ナツミは底なしのパワーを持っているからね。
腕試ししてみたいんだろう。
「あの街、宿泊施設はありますけど、一人一泊、素泊まりで最低金額三千Xenですって」
「Xen?」
「この世界の通貨単位で、貨幣価値から考えると1Xenが1円に相当するらしいです。金貨一枚が十万Xenで、小金貨一枚が一万Xen、銀貨一枚が千Xen、小銀貨一枚が百Xen、銅貨一枚が10Xen、アルミの貨幣は一枚1Xenですって」
「じゃあ、銅貨とアルミ貨幣は、マジで十円玉と一円玉ってとこだね!」
「ですね」
「でも、そのお金をどうやって稼ぐかよね?」
一瞬、ナツミが身体を売れば、すぐに稼げるって思ったけど……。
さすがに、口には出さなかったよ。
「食べ物は出せるんですけどね」
「そうだ。食べ損なったデザート!」
くそっ!
思い出したか、この食欲魔人め。
「ここで食べるの?」
「別にイイでしょ!」
「何が食べたいですか?」
「じゃあ、先ずカスタードクリームと生クリームの入った大きなシュークリーム!」
「先ずって、他にも食べるってこと?」
「ピンポーン! ガトーショコラもお願い」
「(ホント、そんなに食べて、良く太らないわよね?)」
取り急ぎ、私はリクエストのジャンボシュークリームとガトーショコラを出した。
さすがに手渡し手掴みと言うわけには行かないので、これらをトレーの上に乗せ、それから小さ目のフォークを添えた状態で出してあげたよ。
「じゃあ、これ」
「ありがとう。美味しそう。じゃあ、早速いただきます!」
ナツミってば、こんなところで、平然とした顔で美味しそうに食べているよ。
別に人通りも無いからイイけどさ。
しかも食べるの早っ!
もっと味わって食べて欲しいなぁ。
「じゃあ、このトレーとフォークを一旦アイテムボックスにしまってもらえる?」
「了解です」
私は、ナツミからトレーとフォークを受け取ると、アイテムボックスを開いた。
この時、私は当然、中身がカラのつもりでいた。
ところが、
「あれっ?」
見たことが無いデザインの金貨が沢山入っていた。
これが何なのか、私はチャットボット機能で確認した。
『Q:アイテムボックスに入っていたお金は何?』
『A:トモティ世界で稼いだ金』
『Q:トモティ世界のお金とは違いますけど?』
『A:この世界の貨幣に換金してあります』
えっ?
だとすると、この金貨を使えるってこと?
「ナツミ。一先ず、しばらく泊まる分はありそうですよ」
「マジ? 何で?」
「トモティ世界にいた時に、稼いだお金をアイテムボックスに入れていたんだけど、それが換金されて入ってます」
「ホントに!」
「うん。なので、泊るとこ探しましょう。でも、節約しないといけないから安宿で」
「まあ、そこは仕方が無いかな。その分、食べ物と飲み物はお願いね」
「了解!」
「あと、この世界では姉妹設定だから、もう敬語は無しでお願いね。他人行儀に感じるし。それと、どっちかって言うと、私が頼る方だと思うから」
「……分かった」
たしかに平民の姉妹で敬語って、普通は無いか。どこぞのお嬢様じゃあるまいし。
まあ、それはさておき、お金があると言うことで、私もナツミも安心して街の中へと入って行った。
ゲートで手続するって初めてだなぁ。
これが行商人とかだと、積んでいる荷物に応じて通行税がかかるっぽいけど、私もナツミも商業目的で入るわけじゃないからね。
二人して非課税でゲートを通してもらえた。
そもそも手ぶら状態だし、税をかけようにもかけようが無かったってとこだろう。
お金は隠し持っていたけど……。
それから、ナツミは思い切り担当官にナンパされまくっていたよ。
私は……無視されたけどね。
美少女のはずなんだけど、まだガキ扱いだからね。
って言うか、ナツミと並ぶと、どうしても私が見劣りするんだよね。
もし、隣にいるのがナツミじゃなかったら、絶対に私はチヤホヤしてもらえると思うんだけどなぁ。
うーん、随分、自意識過剰になっているな、私。
ゲートを超えたら、早速、宿探し。
数件当たったけど、安い部屋は全部埋まっていて、結局、素泊まりで一人四千Xenの部屋になった。
まあ、ちょっと高い分、バストイレ付きになったけどね。
チェックインして部屋に入ると、私は早速、アイテムボックスの中のお金を数えた。
あの頃は、全然、数えていなかったんだけど、改めて数えると結構な額が入っていたよ。
思い返せば、たしかに教会に収める食費三食分と宿代、合わせて一か月三千Zen くらいしか使わなかったもんなぁ。
それに、治療が困難で難しい症例ばかり見ていた……と言うか押し付けられていたからね。結構儲けてたんだ。
一千万Xen以上入っていたよ。
それを知ってナツミは、
「じゃあ、当分遊んで暮らせるね!」
と楽観的に捉えていたけど、そう言うわけには行かない。
「仕事をしないでいたら、いずれ底をつくでしょ!」
「えぇっ!?」
「明日、ハンターギルドに行って登録するからね! 魔物退治してみたいんでしょ!」
「そ……そうだね。それなら興味ある」
「じゃあ、決まりね。で、ナツミにお願いがあるんだけど」
「何?」
「カウンターでギルドのことを調べてもらえないかしら? 私は、チャットボットを使って、この世界のことをもう少し調べたいんで」
「了解!」
と言うことで、とりあえず作業を分業。ハンターギルドの場所とか手続きとか、その辺の確認はナツミに100%任せることにした。
あれだけ食べさせたんだから、ナツミにも、これくらいは動いてもらうよ!
私は、しばらくチャットボット機能で悪戦苦闘した。
一問一答式なので、回答にノイズが入りにくい利点はあるけど、全容を掴むためには沢山質問しなくてはならない。
ボランティアで共同執筆されたインターネット百科事典みたいなのがあると便利なんだけどなぁ。
このバージェス世界と呼ばれる惑星は、大きさも海の面積も陸の面積も地球とほぼ同じとのことだ。
六つの大陸があり、それらは全て同じくらいの大きさとのこと。
しかも、南極大陸のように人が住めないような大陸は無い。
また、そのうち三つの大陸は、数キロの幅の地面で陸続きになっているらしい。
意外だったのは、この世界では既に地動説が受け入れられていたってことだ。
ちなみに、惑星の名前はブルゲシア(またはバージェシア)だそうだ。
それから、この世界には、龍に関わる伝承がある。
それぞれの大陸を、黒龍、白龍、青龍、緑龍、黄龍、紅龍と呼ばれる六体の龍が守護しているとのことだった。
一つの大陸に龍が一体配置される感じね。
その中で、陸続きの三つの大陸を治めているのが白龍と緑龍と紅龍とのことなんだけど、もしかして大三元?
ホワイトドラゴンにグリーンドラゴン、レッドドラゴンだし。
また、これらの龍を統治する最高位の光龍と言うのもいるらしい。
つまり、六体の龍の上司ってとこだろう。
七体の龍で、さしずめ大七星(七対子型字一色)……って、ちょっと違うか。
ただ、光龍は千年に一度、一旦死んでフェニックスのように炎の中で復活することになっていた。
当然、死んでから復活するまでの間、光龍が不在になる期間が僅かに生じるんだけど、この期間を狙って、地獄から闇龍と呼ばれる悪魔の化身が現れて、六体の龍を支配するそうだ。
その支配は、光龍が闇龍と戦って闇龍を葬り去るまでの間、続くってことらしい。
しかも、まさに今、この世界は闇龍支配の期間内に入っているとのことだ。
それに、その間は、魔物の生態系が崩れるとも言われるようだ。
加えて今回は、この星が誕生して丁度六十億年の節目らしい。
人間で例えれば、この星の還暦(?)みたいなものだそうだ。
そのためか、闇龍の力が今までよりも強大との話もあるらしい。
こんな時代に送り込まれて、本当に平和に生きて行けるのだろうか?
女神グエホイ様は、比較的平和って言っていたけど、何と比較するんだろう?
エディアカラ世界と比べれば平和ってことかな?
少なくとも、トモティ世界で私が暮らしたブロッキニア王国と比較して平和ってことだけは無さそうだ。
あっちの方が絶対平和だと思うもん!
そうそう、それと、この世界には異世界モノで定番のダンジョンが無いらしい。
ちょっと期待していたんだけどなぁ。
ダンジョンでの魔物退治とか宝探しとか……。
あと、自分の魔法のことも確認したけど、かなり制限されていたよ。もう、豊胸術もナニの増大も出来ない。
ゴメンね、この世界に人達!
私が検索を始めて数時間が過ぎた。
それにしても、ナツミは何をやっているんだろう? まだ戻って来ない。
転移魔法も使えるはずだし、そもそも並の男子よりもパワーがあるからね。
追加で電撃魔法も使えるようになっているし。
だから、あのHな身体をしていても、ヤラれることだけは無いとは思うけどね。
むしろ、襲った方の命が危ないからね。
とは言え、ちょっと心配だな……。
なんて思っていたら、
「ただいまぁ」
元気いっぱいの顔でナツミが戻って来た。
「随分遅かったじゃない?」
「ちょっとギルドまで行って手続きしてきちゃった」
「ナツミだけ?」
「書類を出すだけだったからね。一応、ラヤの分の書類は貰って来たよ。サインが必要だから、私が代わりに手続するわけには行かなかったんでね」
「そうなんだ」
「ただ、初心者なんでNランクから始まるって言われたけどね」
「Nランクか……」
一応、これについても私はチャットボットで調べておいた。
ランクは上から順にSランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランク、Fランク、Gランク、Nランクに分けられている。
たしかに初心者だとNランク扱いされるけど、ある程度以上の手柄を立てれば、すぐにEランクに上がれるようだ。
ただ、余りイイ言葉の響きじゃない気がするよ、Nランクって。
Y or NのNを連想させるもん。
「でも、この世界に来て初登録なんだし。私もラヤも、Nランクスタートになったって仕方ないでしょ!」
「そうなんだけどね」
「それよりお腹すいた。何か食べさせて!」
「何かリクエストは?」
「じゃあ、カツカレー!」
「はいはい」
カレーか。
トモティ世界ではカレーを思い切り否定されたけど、今、ここで食べるのは私とナツミの二人だけだもんね。否定されることは無い。
むしろ肯定的な味だ。
それにしても、カツか。
たしか、こっちに来る直前に、ナツミは食べていなかったっけ? カツ丼とやらを。
プラス、ラーメンと半チャーハンだったけど。
まあ、イイか。
ただ、ナツミが所望する食事は野菜が少ない気がする。
なので、私は、ナスやピーマン、ブロッコリーとかを沢山入れた野菜カレーを使ったカツカレーにした。
別にナツミは野菜が嫌いなわけじゃない。
野菜よりも肉が好きなだけ。
野菜も出せば、チャンと食べる人だ。
この日は、久々に美味しくカツカレーを食べました!
翌日、私はナツミと一緒にギルドに行き、書類を提出した。
これで登録完了。
特に魔力の審査とかは無いらしい。
あれば、最初からもっと高いランクにしてもらえると思うんだけどな。
それにしても、審査がないのは驚いたよ。
これだと誰でも登録できちゃうもん。
とは言え、全然能力が無ければ依頼を達成出来ないだろうし、ランクも上がらないだろうからね。
登録は簡単でも、自ずと自然淘汰されるってことなんだろう。
早速、私達は掲示板に張られている依頼内容を見た。
色々あるな。
私の目に真っ先に飛び込んできたのは、サーベルタイガー退治の依頼と、巨大熊退治の依頼。
共に、つい今しがた張られたばかりだ
どちらも大きくて強い魔物。
Aランクハンターですら、単独では全然相手にならないとされている強大なヤツだ。
私が、その掲示を見ていると、それを張ったスタッフが私に声をかけて来た。
「見かけない顔ですけど、ランクは?」
「昨日、この街に来て、今日、登録したばかりですのでNです」
「他所からいらしたんですか?」
「はい」
「他所でのハンター歴は?」
「ありません」
「じゃあ、さすがに、これらの依頼を任せるわけには行きませんね。サーベルタイガーはAランクなら三人、Sランクなら一人でやっと倒せるレベルとされていますし、このレベルの巨大熊はSランク三人で何とか倒せるレベルって言われていますから」
「分かってます」
さすがに実績なしの私達に、サーベルタイガーとか巨大熊が倒せるとは思ってもらえないってのは分かってるよ!
倒せないとは思っていないけど!
「まあ、こう言った魔物の退治に憧れるのは十分理解できますが、先ずは薬草集めとかから始めた方が良いでしょう。特に今年は、魔物の勢力バランスが崩れているためか、ビロサが余り採取できていません」
「ビロサですか?」
「スティービア・ビロサと言う薬草で、料理にも使われます」
「ハーブとしてですか?」
「まあ、そうなりますね。この地方では、女神様が天地創造された日のお祝いにビロサを使った料理を食べる風習があるのですが、今年は数が足りませんので割と高く買わせていただいております。お祝いの日まで、あと三日しかないのですが、例年の二割しか採れていないんです」
「そうですか」
でも、スティービア・ビロサの採取のために山とか森に入って、たまたまサーベルタイガーとか巨大熊に遭遇して倒しちゃったのなら別にイイんだよね?
なら、やることは決まった。
言うまでもない。
ビロサ採取を装った魔物退治だ!




