第九話:勇者は新たな目的を見出す
もし宜しければ、感想等をくれれば嬉しいな…って思ったり。
「提案って?」
ネルが俺の言葉に興味深そうな表情を浮かべ、俺を見る。
アマネちゃんは頭に?マークが浮かんでいるような不思議そうな表情を浮かべている。可愛い
ゴホン!!
「いやさ、そもそも俺が冒険者になった理由ってのはさ、この世界を自由に見てまわりたいってのが理由なんだ」
「そう…」
「?」
俺の言葉に興味を失ったのか、ネルはギルドのカウンターの方に目をやり、アマネちゃんは首を傾げて俺の話を聞いている。
まぁ本題はここからだし?ネルにそんな態度取られても悲しくないし?ふん!
「と、とにかく聞いてくれよ。俺はこの世界にはまだまだ未知が溢れていると思う訳、現にネルも俺の力は知らなかっただろ?」
「…………」
俺の言葉にネルは反応し、俺をチラッと見る。
その反応が少し嬉しくて、ついニヤリと笑ってしまうが、まぁ話を続けるとしよう。
「本題だ、俺はこの世界の未知を見に行きたい。この世界の全てを見てまわりたい。この世界を隅々まで冒険したい」
「…………」
ネルは黙ったまま俺の話を聞き、やがて深く溜息をついた。
「似ているな、あの人に」
小さな声でネルは何かを言ったようだが、良く聞きとれなかった。
「と言うことは、この城下町を出るの?」
「そういう事」
「ま、また急だねぇ。でもこの街でまだ依頼を受けていった方が良いんじゃないかな?」
アマネちゃんは俺の提案に苦笑いしながらそう言ってきた。まぁついさっき新人冒険者として登録したばかりだから、その辺りを考えているんだろう。
「いや、私はリクトの意見に賛成」
するとネルが俺の意見に賛同してくれた。意外な所からの援護に少し戸惑ってしまう。勿論アマネちゃんも同じく戸惑っていた。
「この国を早く出るという点では、この国は正直長居したくない。私がこの国にいたのは不可抗力によるものだし」
「ネルちゃんがそこまで言うなんて」
ネルは酷く苦い表情をしつつ、俺達にそう告げた。
アマネちゃんは驚いたような様子だが、俺も驚いている。何せネルがここまで表情を苦くして言うんだ、この国には一体何があるっていうんだ?
「まぁ賛成してくれるなら、良いさ」
「私もこの国を出る事を勧める気でいた。だから礼はいらない。寧ろ私が言う側」
「それでもだよ、ありがとうネル」
「…………」
改めてお礼を言ったら、ほんのりと顔を赤くしてプイっとそっぽを向いてしまう。
なんだ、ネルにも可愛い所はあるんだな。
「とにかく、宿に行こうぜ。今後の事を話し合おう」
俺が二人に言ったら、二人共頷いて席を立つ。俺も席を立って元々取っていた宿に向けて足を運び出した。
☆ ☆ ☆
「全員同じ部屋なんて、アマネ正気?」
「し、正気って何!?何で私そんな扱い受けてるの!?」
「当たり前、嫁入り前の女が男と同じ部屋なんて」
「リクト君はそんな事しないよ!?」
ネルの酷い扱いに多少悲しくなるけど、アマネちゃんの信頼の深さも何か心配になるというか、無防備というか。
「経費削減だっての。それに俺は襲わないって!」
「不能?それとも同性愛者?」
「俺はノーマルだァ!」
「ええっ!?リクト君はそんな性癖なの!?」
「んな訳無いだろ!!」
何だよこれは!?てかアマネちゃんちょっと天然すぎないか?まぁそこも可愛いけどさ!
「そ、それよりネル。文字詠唱ってなんだよ?」
気を取り直して、俺は気になっていた事をネルに聞くことにした。別に常識凌駕使えば良いんだろうけど、それは後だ。
後で試したい事があるからな。
「文字詠唱?あれは詠唱を行えない不測の自体…例えば沈黙状態に陥った時にも発動できる事をコンセプトに開発した魔法。従来の物より威力は落ちるけど、通常よりも素早く魔法を撃てるという利点がある」
「へぇ、そうなんだ!」
なる程ね………?何か今違和感があったような、気のせいか?
「聞きたいことには答えた。次は貴方達の番」
やっぱりそうくるよなぁ…ふとアマネちゃんの方を見ると俺に何かを聞きたげな雰囲気を出していた。そんなアマネちゃんと何度かアイコンタクトをやり取りしつつ、俺は答えた。
「アレはアマネちゃんの能力、そんで俺のこれも能力による物だ」
「能力……なる程、なら初心者にして、S級と渡り合えるのも納得がいく」
ん?ネルの口振りからして能力自体はこの世界にはあるのか?
「能力ってそんな万能なの?」
「ある程度の理不尽は全部能力扱いになる程度には、実際にS級の全員は能力持ち…まぁ例外は存在するけど」
例外ねぇ、大方力に頼らない本物の強者って所かな?あのブレイヴって奴がそれっぽいかもな。
「疑問は解けた、答えてくれてありがとう」
「お、おう」
余程嬉しかったのか、滅多に表情を変えないネルが優し気に微笑んできた。
ちょっとだけ、本当にちょっとだけ可愛いって思った。
「と、とりあえず俺何か買ってくる!」
何か気まずくなったから、逃げるようにその場を離れる事にした。
「照れて逃げ出すなんて、以外と可愛い」
「ネルちゃんのギャップにやられたんだよ!うん!」
「ギャップ…?」
「そうだよ!可愛いもんネルちゃん!」
「そ、そう?」
リクトが逃げ出した後、二人の間にこんなやり取りがあったとか。
☆ ☆ ☆
宿から出てから、人気の無い路地に来た。理由はこれからやる事を余り人目に付かせたくないからだ。
「特別能力常識凌駕、発動」
ここで俺は普段使っているこの能力について改めて試したい事が出来た。
無属性魔法…可能性に気付けば誰でも使えるが、果たしてそれは本当にそうなのか?という事。
俺がこの能力を使えるから使えるようになってから獲得した物だし、ひょっとしたらこの能力にはまだ隠された何かがあるんじゃないか?そう考えて検証する事に決めた。
先ずはこれ…この世界で常識とされている事の一つとして、『人は物を魔力で造れない』事。
無属性を媒体として、俺は試しに空き缶を想像してみる。
「結果は成功」
俺の右手には空き缶がある。だけどまだ検証は終わっていない。
次に俺は『人は魔法を使わなければ空を長時間飛べない』常識を…覆す。
「うわっ!」
結果は成功、魔法どころか魔力を纏わずに俺は空に浮かぶ事ができた。が
「な、なんだこれ」
異様に疲れる、たった二回検証しただけでこれ。でも新たに分かった事があるし、ひょっとしたら…
特別能力常識凌駕(ありとあらゆる常識を伸ばし、無視する能力)と書かれている。
うん、つまりは…この能力はチートって事になるな。
ははっ、ひでぇ効果。
『報告、リクト・アルタイルの常識凌駕の情報が完全公開されました。それにより常識凌駕に進化の可能性が生まれました』