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第三十九話:傾国の少女

ボス戦で戦いたくないキャラその一。状態異常を滅茶苦茶やってくる害悪ボス。

 

 俺が道具屋で見つけた気になるものは、スキルポーションという物だ。これを飲むと新しく能力(スキル)が獲得できるかもしれないという代物だ。

 かもしれないというのには理由があって、一人一人には適正属性がある奴とそうでない奴がいるように、能力(スキル)を獲得する資格があるか、そうでないかに別れる。


 勿論値段は馬鹿みたいに高いし、そうそう出回る代物でもない。この世界の迷宮(ダンジョン)、それも難易度が高い場所でないと手に入らない代物だ。

 それが偶然にも、道具屋に売っていた。この機会を逃す訳にはいかないと思って、買いに来た。



「いらっしゃい……ああ、来たのか」

「ああ、ようやくお金が溜まったからな」


 前のウェアウルフ討伐の時にお金をたんまりと貰ったから、それでようやく目当てのものを買える金額が溜まったんだ。

 金額は金貨三枚、元の世界でいうと三千万円という破格の値段だ。ここでほぼ全財産かける程の金額になるけどスキルポーションはそれだけの価値はある。


「じゃあ約束の金貨三枚、きちんと払うよ」

「毎度あり……といいたいが、今回はサービスだ。金貨二枚にまけといてやる」

「えっ!?」


 驚いた、まさか割引きしてくれるなんて。ここで金貨一枚でも俺の手元に残るのは本当に助かる。


「その代わり、これからもご贔屓に」

「も、勿論!」


 道具屋の主人はふっと笑いつつ、棚にあるスキルポーションを手渡してきた、俺はそれを受け取って早速飲み干した。


「思い切りが良いな、あんた……どうだ?何か手に入れたか?」

「…………………」


 うーん、何か変わったのか?良く分からないんだけれど。


「まぁ、それで手に入らなくてもめげんなよ?」

「うん、分かってるさ」


 ま、後で自分の能力(スキル)欄を見てみるか。

 俺は軽く挨拶してから道具屋を出て、全てを見透かす瞳(ステータスチェック)を使い確認した。


「これは……」


 唯一能力(ユニークスキル)テクニカルアーツ(この能力(スキル)を持つ者は、オリジナルの剣技を扱う際に補正がかかる)


 成程、これは元の世界でいう特技を使う事ができる能力(スキル)かな?とすると魔法剣とかも本格的にできるかもしれない。それにしてもユニークときましたか。成程確かに魔法剣なんてのが存在しない世界にとって、オリジナルの剣技を扱えるってのは確かに唯一の力になるな。


 でも、これはきちんとしたイメージが無いとロクに使えない力になるな、コルルさんから剣術を学べば何とかものに出来そうだな。今度頼んでみようか?

 予想以上に良い物が手に入ったな、これで俺はもっと強くなれそうだ、常識凌駕(ルールキャンセラー)と組み合わせても良い力で、リスクも少ない。

 これから先この能力(スキル)にはお世話になるな。







 さて、他にやることも無いし酒場に戻ろうかな……ん?

 この音は?凄く心地いい音楽が聞こえてくる。聞いているだけで優しい気持ちになってくる、そんな音楽。

 誰が演奏しているんだろう……あっ。


「凄いな、アマネは」


 道行く人が集まってちょっとした団体になっている、老若男女問わずに人が集まっていて、その中心にはバイオリンでクラシック風の音楽を奏でているアマネがいた。

 俺も周りにいる人と同じように、アマネの奏でる音楽を立ち止まって聴く。


 これからとんでもない連中と戦うっていう、俺の中にあった不安をかき消すような……それ程に美しく、聴いていて心地いい音色。

 改めて思う、相手がどんな奴だろうと俺の仲間は絶対に死なせないと、絶対に守ると。俺は彼女の楽しそうに演奏している姿を見て、再び心に誓った。


「……………」


 その為には、もっと強くならないといけない。

 もっと知らなくちゃいけない。

 もっと、もっと、もっと。

 あんな狼にやられる位じゃ話にならない、だからこそ……もっともっと、今よりもずっと成長するんだ。



























 拳を握り締めすぎて、血が滴る事にその時の俺は全く気が付かなかった。




 ☆ ☆ ☆



「ふぅ」


 一足先に酒場に戻った俺は、いつの間にか怪我をしていたのに気付いて、簡単な治療をしてから席に座った。

 アマネやマナはともかく、ネルが居ないのが気になった。まぁ席はあるから気にしにくても良いかな……


「ねぇねぇ、君でしょ?勇者って」


 勇者、その言葉に俺は目を細めて声の主の方を向く。

 そこにいたのは背が小さいけど、言葉では表現出来ないほどに可愛い女の子がいた。一瞬呼吸が止まったけど、すぐに立て直す。


「き、君は?」


 ちょっとどもったか?まぁ落ち着け俺、普段美少女は見てるだろ?だから下手をこくなよ俺ェ!


「私?今は内緒!それより君に興味があるなぁ」


 お、俺に興味って……やべぇ、何かドキドキしてきた。


「ねぇねぇ、名前は?」

「お、俺?リクトって言うんだけど」

「リクト!リクトって言うんだ!」


 女の子はにぱぁっと太陽のような眩しく笑って、嬉しそうに俺の名前を連呼する。

 そんな彼女の様子に当初の警戒は綺麗さっぱり無くなった、彼女になら俺の全てを話してもいい……そんな考えに浸される。


「そ、それより何で俺が勇者だって言うんだ?俺は一般の冒険者だぞ?」


 だけど留まる、これだけは知られちゃいけないと思ったからだ。対して女の子は楽しそうにまクスクスと笑って俺の隣に座ってきた。ち、近いです。


「じー……」

「いや、口で言うのかよ」


 本当にじっと見つめてくる彼女に益々ドキドキしてくる。滅茶苦茶いい匂いがする、ずっと嗅いでいたくなるほどに。


「そっか、勇者って言うのは私の勘違いだったね!でも私はリクトが気に入ったよ?今までのどんな人より……ね、もっと教えて欲しいな?リクトの事♪」


 彼女は俺の手をぎゅっと握り締めてきて、上目遣いをしつつ囁いてくる。

 彼女を抱き締めたくなる、ずっと一緒にいたくなる、それこそ何もかも放り出して永遠に寄り添イタクナル。


「キミハイッタイ……」


 アタマガボーットシテキタ


「今なら教えてもいいかな?私はね……これから恋人になるの♪私の最初で最後の恋人に♪相手は勿論君だよ?ダーリン♪」


 コノコガオレノコイビト?コンナカワイイコガ?セカイデイチバン、イトオシイオンナノコノセンゲンニ、オレハ……



















「正気に戻れ!!」


 ッ!!?


「ありゃ、残念だよ」


 な、何が起こって……ってネル!?


「この場の全員を洗脳して、擬似的にリクトと二人きりになって、どうするつもりだ?レリィ」

「まさかネルちゃんがいるなんて!王様が探してるよ?」

「関係ない!あんな国、私にはもう!!」


 ど、怒涛の展開ぃ……ってかマジで今俺どうしてたんだ?良く覚えてない……っ!?

 何だ、酒場のこの空気は……異常だ、具体的には分からないけど何か……もしかしてレリ


「リクト!こいつの名前を心の中でも言うな!」

「っ!?」


 ネルの鬼気迫る雰囲気に圧倒される、彼女のこの雰囲気を見るのはあの時のゴブリンロード以来だ、それ程危険なのか?この子は。


「駄目駄目ネルちゃん。もうダーリンは私のターゲットになったから!一目惚れっていうのかな?最初はただ私の同類を見たかっただけなのに、予想以上にカッコイイもん!独り占めは良くないですなぁ?」

「黙れ天災、金輪際私達に近寄るな!」

「嫌われちゃったぁ。ねぇねぇ、君は私を嫌わないでくれるよね?ダーリン♪」


 彼女が俺に向かって甘ったるい声色で問いかけてくる、まだ俺の顔が熱くなってきた。彼女の言うことなら何でも聞きたくなるような……


「恋の奴隷になりし者よ、その心を取り戻せ。ディスチャーム!」


 っ!!これはネルの魔法?


「やっぱりネルちゃん相手だと部が悪いや、今日はここで帰るけど、忘れないでね?私が本気になったらネルちゃんも惚れちゃうんだよ?」

「冗談は大概にした方がいい、現に私には効いてない」

「違うんだなぁ、いつ私に惚れさせるって言ったの?私は他人の恋心を増幅させる事もできるんだよ?まぁ今はしないけどね♪じゃあまたねダーリン!」


 彼女は満面の笑を浮かべて、手を振りながら酒場を後にした。


「ネル、一体何がどうなって……」

「レリィはアーラじゃなかった?ならアーラは一体……」

「おいネル!」

「!……ふぅ、今のは忘れるべき」


 俺がネルを大声で呼ぶと、深呼吸をした後に何時もの気怠気そうな雰囲気に戻った。

 正直聞きたいことは山ほどあるけど……忘れるべきって言うなら深くは聞かない方が良い。でも……


「なら一言言わせてもらうぞ?俺達は仲間だ、何があっても俺はお前を離さない」

「…………」


 ネルは俺の仲間だ、だから俺は彼女も守ると誓った。今は隠し事をしてもいいさ……そんな彼女でも俺は絶対にその手を離さない。


「……ん」


 短く返事をしたネルは、微笑んでから俺の隣に座って寄りかかってきた。






レリィ・T・アマテラス


S級の冒険者の中でも抜き出て異常な存在、彼女の能力は謎が多いが、少なくとも男である以上は彼女の力には抗えないという事が判明している。彼女を知る者からは天災と呼ばれているが、当の本人は運命の人を探すという恋愛脳のお子様だ。


だが、彼女が執着するような人物は過去には全くいなく、唯一リクトが執着するに値する人物だという事が分かった。



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