第三話:勇者はギルドに登録する
無属性魔法を作っちゃったのは良いんだけど、肝心なのはこいつをどう使えば良いのかだなぁ。俺のイメージ次第では、この世界の魔法は無限の可能性を秘めていると思うから、こいつを集中的に研究していきたい。
一般的に知られてるのはイメージも魔力も全てオートで行われるのが一般的に知られてる魔法、という事はイメージ次第じゃトンデモ魔法もできるということだ、そこで俺は先ず無属性魔法に属性を付属するのを考えて行く事にする。
無属性は、何者でもない属性。そして誰にでもある魔力をそのまま使用した姿だ、誰にでも使える可能性があるこの魔法だが、誰にも使えない魔法…下手したら唯一無二の存在なのかもしれない、魔族ですらこの存在を知らないからだ。
だからこそ、この無属性魔法を使って行くと目立つ可能性もある…なるべく目立たない為に無属性に属性を付けるイメージを早いところ見出さないといけない。勇者の仕事はカズト君に任せてるから時間はたっぷりあるし、俺はこの世界をあらゆる意味で満喫できる。
そのためには冒険者になるのが色々と都合が良いと考えている、それも勇者という事を隠してだ。さて、そうなると勇者の職業が邪魔になってくるから、なんとかこれを削除ないし隠蔽する事はできないのか?
隠蔽魔法は風にカテゴリーされているけど、無属性でも代用できそうなのもな、イメージは周りの空気に溶け込む感じで…魔力を全身に纏いつつ穏やかな流れをイメージして…
「これでできたのか?」
実験段階じゃなんとも言えないから、とりあえずアマネちゃんと合流して効果を試してみよう、そう考えて街へ戻ろうとしたら。
「おっと、ゴブリンだ」
街の近くなのにゴブリンがいた、丁度良いからゴブリンで試してみよう。
大胆にゴブリンの目の前に立ってみたけど、連中が襲ってくる気配はしない…むしろ街の様子を見ている。
「これは見えてないな」
思った以上に無属性の隠蔽は凄いらしいな、試しに石ころを投げてみると。
「ガァ!」
威嚇してきた、これで襲ってくるかな?と思ったけど威嚇してきただけでスルーされた。
「見えているのか?」
魔物は人間を発見すると問答無用で襲ってくるのに襲ってこない、試しにゴブリンの周囲をウロウロとしていると鬱陶し気にこちらを見てくる。見えてはいるけど襲ってこないみたいだ。
試しに少し距離を離してから隠蔽を解除すると、急にゴブリンが棍棒を構えて威嚇してきた。
「成程ね」
どうやらこの隠蔽は、自分の存在を相手にとって無害な存在に書き換えるみたいだ。取るに足らない存在と認識させるから襲う必要もない。
成程この魔法は本来の隠蔽魔法より遥かに優れているな、これなら多少の無茶はできそうだ。
「んじゃ実験スタートだ」
次に無属性魔法を武器に纏わせる実験。この世界じゃ魔法剣士はいるが魔法剣は存在しない、単純に魔法剣の詠唱が存在しないからだ。
でも俺にはそんな縛りは存在しないから、武器である剣に魔力を纏わせる事ができる。無属性だからか無色透明で見た感じは分からないけど、確かにそこには魔力は存在している。
「くらいな」
試しにこの魔法剣の魔力を、斬撃を飛ばすようなイメージで剣を振るう。すると不可視の斬撃がゴブリンの一匹を襲ってゴブリンの首と胴体を切り離した。
「グァ!?」
それに驚いた他のゴブリンがこちらに向かうのを躊躇ったのか、距離を離す。だが俺には悪手だ…でも斬撃を飛ばすだけじゃ味気が無いから剣を逆手に持って思いっきり魔力を放出させて少しジャンプした。
「グェェ」
一瞬だ。一瞬で二匹のゴブリンの後ろに移動して、放出した魔力の余波だけで二匹は吹き飛ばされる。ちょっと移動にコツがいるけど超高速移動ができるようになった。
次に纏わせている魔力を鋭く、頑丈なイメージを思い浮かべながらゴブリンを二匹纏めて切り裂く。
「無属性魔法、面白いじゃん」
魔法剣という技術が無い今、単純だが強力な武器になるなこれは。魔力に色が無いから、切れ味頑丈さを誰にも悟られずに向上させることができるこの魔法、そして実力を隠すのに最適な隠蔽魔法、無属性は使い勝手が良すぎる。
イメージ次第じゃ更にとんでもない魔法ができそうだけど、これを使うと身体が重くなる。正規の手順で魔法を使ってないから、無駄な魔力を使ってしまったんだろう、ここら辺は改善が必要だな。
三体のゴブリンを倒す事で魔物から魔石が生まれたので、それを採取して街に戻る事にした。
「おっ、さっきの兄ちゃんか」
「お務めご苦労様」
「お前もお疲れさん、その様子じゃ何か掴めたな?」
「まぁ、ね」
この兵士は色々な冒険者を見てきたっていう話だからな、多分俺の様子を見てそう感じたんだろう、さっき出る時には話しかけてこなかったのに今は話しかけてきた。
「って事は冒険者ギルドに行くのか?」
「ああ、ギルドの登録所に仲間と行く予定だ」
「そうか、これから大変だろうが挫けんなよ?」
「分かってるよ」
兵士と多少のやり取りをしてから、冒険者ギルドの方へ向かっていった。
・・・・
「あっ!どこ行ってたのさ!探したんだよ!」
「悪い悪い、ちょっと腕ならしをしてたんだ」
「腕ならしって、街の外に行ってたの!?」
「まぁ、俺一人でどこまでやれるかな〜ってさ」
「もう!宿屋で話してた事と全然違う事してるじゃん!」
「わ、悪かったって」
「次は私もちゃんと連れてくように!返事!」
「は、はい!」
「よろしい!」
お、女って怖いな…とにかくここが冒険者ギルド、ここで俺達二人は改めて冒険者になる。
周囲を見渡してみると、厳つい感じの冒険者や優しげな雰囲気の冒険者、獣耳をした冒険者とか様々な人間…?がいた。
「なんかさ、本当に異世界に来たって感じだよね」
アマネちゃんが俺にこっそりと話してたから、俺もそれに同意した。ゲームとかアニメとかで見る光景が目の前に、しかもその光景に自分が存在している。それだけで気分が震え上がった。
「じゃあ行くか、登録に」
「うん!」
そして俺とアマネちゃんは登録受付と書かれている受付に向かった。そこには耳が長い青髪の女性がいた。
「エルフ…」
思わず口に出してしまったけれど、お姉さんは気にせずにニッコリと微笑みかけてきた。
「エルフを見るのは初めてですか?」
「は、はい!」
アマネちゃんが緊張したような声色で答える、とわいえ俺も結構緊張している。何せエルフ、しかも美人のお姉さんがいるからだ。これで緊張するなってのは無理だろうに。
するとお姉さんか微笑ましげにこちらを見てくるので何か気まずくなった。田舎者かと思われたかな?
「では、冒険者ギルドの登録料に一人銅貨10枚かかります」
「これでいいか?」
「はい…確かに銅貨20枚受取りました。ではステータスカードの提示をお願いします」
ステータスカード、宿屋で調べた限りこの世界の住人は必ず持っている身分証明書みたいなものだ。そして俺達は勇者という肩書き…マズイ。俺は咄嗟にアマネちゃんの背中を押す、勿論無属性の隠蔽を使ってだ。
「じゃあ、出すか」
「うん!」
そして二人一緒にステータスカードを提示する。何やら作業をした後に返却してくれて、お姉さんはニコリと微笑んだ。
「リクト・アルタイル様、アマネ・カグラ様ですね、ようこそ冒険者ギルドへ!」
「はい!よろしくお願いします!」
アマネちゃんは喜びながらカードを受け取り、ステータスを見る。
「見て見て!私称号が増えたよ!」
称号が増えたね、じゃあ俺も確認するか、どれどれ?
名前 リクト・アルタイル
称号 魔法の開拓者、冒険者
職業 勇者
特別能力常識凌駕
適性属性 無
性質 強欲、大鷲
ん?
ん?思わず二度見してしまった。
気付いたらなんか増えてるし、適性属性無しから無になってる。称号も魔法の開拓者ってのが追加されてるけど、それは心当たりがあるし理由も分かるから置いておく。
けど、名前が本当にリクト・アルタイルになってるし性質も増えてる、何より能力が特別能力に変化してる。
これは一体どういう事なんだ?そう思って詳細を見てみると
特別能力常識凌駕(ありとあらゆる常識を伸ばし■■■■能力)と書かれている、なんか一分文字化けしてるから読めない…益々謎が深まった。
「これで私達、冒険者だね!」
「お、おう」
素直に喜べねぇ…
・・・・・
新しく冒険者登録した人物には興味は無い、いや、この世界全てに興味は無い。ただ生きていければそれで良かった少女は確かにその少女は、偶然それを目撃した。
「ありえない」
顔立ちが良く中性的な容姿の少年が、魔力を纏ったのを、魔力を引き出すには詠唱が無いと不可能。なのにその少年は詠唱もせず息を吸うように、自然に魔力を纏って少女の背中を押した。一瞬の出来事だ。
魔力を感知するのは自分達のような特別な一族でないと不可能だ、エルフでさえそれは不可能…だからこそ他の冒険者や受付のエルフは見逃した。
その少年が何をしたのかを、そしてそれがこの世界にとってどういう事を意味するかを。
(ありえない、魔力を纏う。しかも属性が無い魔力なんて)
本来詠唱によって引き出される魔力には色がある。火は赤、水は青、土は黄土色、風は緑色、雷
黄色、光は橙色という風に。なのに今のは無色透明、魔力なのに目視できない。
しかも彼は魔力を纏わせたのだ。本来詠唱から生み出された魔力は、自動的に魔法へと変換される筈なのに、彼は詠唱を行わず魔法を使わずに魔力だけを引き出したのだ。
少女はそれを知りたいと思った、普段怠けているだけで、自分が生きていくだけの必要最低限の仕事しかしない少女は、生まれて初めて他人に興味を持った。
(絶対に、暴いてみせる。その力の秘密)
そして少女は、新たに冒険者となった二人に近づいた。
『報告、リクト・アルタイルに冒険者の称号が新たに獲得されました。それにより能力獲得スロットが一つ追加されました』