第二十話:勇者は予想外の出来事に頭を悩ませた
今回ちょいといつもより長いです。
「うっ、ここは…?」
「あっ、気が付いた!」
目が覚めたらそこに、天使がいた。
後頭部が何か柔らかい、そして目の前には笑顔のアマネ…俺は死んだのか?
なら存分に楽しもう。グヘヘ
「俺も短い人生だったな、天使がお迎えに来るなんてな」
「まだ寝惚けてるなら、股間を潰す」
「ヤ、ヤメロォ!?」
物騒な事を口走ったネルに驚いて、慌てて飛び起きた。
「ネルちゃん、そんな事言っちゃダメだよ」
「私より多く寝てるなんて、生意気」
「そんな理由!?」
な、何だよそれ。そんな理由で俺は天使のふとももから離れてしまったのか…!!
そういえば、この狭さと揺れから見て、俺は馬車に乗っているみたいだな。気絶してる最中に馬車に乗ったのか。
「ははっ、楽しそうにやってんな!」
「クロウ、お前もいたのか」
気付いたら、クロウとその妹も同じ馬車に乗っていた。
同じ戦場で戦った者同士、こうして交流を深められるのは良いことだな。
「起きたんなら丁度良い、アマネとネルとマナ…あぁ、妹には話したんだが、お前等のパーティに頼みがある」
「頼み?」
クロウが俺達に頼みなぁ、多分同じパーティに入れてくれって話だろうな。
そんなの俺から頼みたいくらいだ、短い間しか交流してないけど、クロウは良い奴だと思うし実力や経験も俺より高い。
妹は分からないけど、クロウの妹なら良い奴なのは分かるし、二人が入ってくれるなら心強い。
まぁ、頼みってのがパーティに入れて欲しいってのは俺の願望なんだけどなぁ。
「あぁ、俺の妹…名前をマナって言うんだけど、お前等のパーティに入れて欲しくてな」
「妹って」
クロウの妹…改めて見ると、銀髪長髪碧眼の人形のような容姿をした美少女だった。
これぞ異世界って感じがする容姿だ。いや、ネルも悪くはないぞ?けど人形みたいに完成されてる風な感じがするな、この子は。
「あ、初めましてです。マナ・D・ジェミニって言います!」
「ああ、初めまして、リクト・アルタイルだ」
「アルタイルだと!?」
俺が名乗ったら、クロウが驚いたように声を出した。
周りを見たら、ネルとマナも目を見開いている。何かマズッたか?
良く見たら、ネルとマナは俺の刀をじっと見てる。綺麗でカッコイイデザインだからな。
自慢の一品なんだが…これも何か不味いのか?
「おいネル、何で黙ってた」
「フルネームは聞いてないし、もしかしてと思ったけどその刀…とすると、アマネのフルネームってもしかして、アマネ・ベガ?」
「へ?違うよ?私のフルネームはアマネ・カグラだけど」
「アマネはベガじゃない…?」
やっぱりベガが出てきたか。そんでアルタイルとベガの関連性もあると。
こりゃ益々この刀と関連する武器が二つだって事は確定的ってのが分かってきたな。
俺の予想が正しかったら、夏の大三角がモチーフになってるはずだからな。
というか、マナちゃんの苗字がクロウと違うな。何でだ?
そして、アマネは話について行けずに困ったようにおろおろしている。可愛い。
「というか、お前がアルタイルなんて本来は有り得ないんだがなぁ、そういう能力でも持ってんのか?」
クロウが良く分からない事を言ってる。けどどういう意味か俺には理解出来ないから、首を捻ってみた。
「何だ本当に分からないのか、あん時のゴブリンロードとの戦いの時にも思ったが、何でお前が無能のレッテルを貼られてんのかが、益々分からねぇなぁ」
何っ…!?何でこいつ、俺が城の連中に無能と言われた事を知ってるんだ!?
「無能?」
「むっ、リクト君は無能じゃないよ!」
「そ、そうですよお兄ちゃん!本物のアルタイルさんが無能なんてありえないです!」
本物の?いや、今は考えるべき事が他にある。
クロウ、最初は腕が良くて人柄が良い冒険者だと思ってたけど、考えてみればこいつには謎が多い。
俺はチート使ってるとはいえ、そこそこの実力はある。でもこいつとは何故か圧倒的な力量差を感じる、何故かは分からないけど。
何者だ?こいつは…
「とにかくお前等に合流させたい理由を話すが、マナは記憶喪失でな。事情があって今まで記憶を取り戻す為の旅を続けてたんだが、俺とマナは事情があって一時的にパーティを離れてた。
そんで今回俺とマナが合流したのは、マナがクヴェランドに行きたいと連絡をとってきてな。マナが今まで組んでた奴等とクヴェランドに行こうとした矢先に…って訳だ。」
成程、そんな事情があったのか。確かに理由としては納得出来るけど。
「クロウは一緒に来ないのか?」
そう、何でクロウが来ないのかが気になる。
今回の件で胡散臭い部分が出てきたけど、まぁ百歩譲ってクロウの力は借りたいと感じてる。
できればクロウも協力してほしいんだけど…
「俺はやる事があるからな、魔王の動きも気になるしな」
「え?何で魔王?」
アマネの疑問は最もだ、何でこのタイミングで魔王が出てくる?魔王を討伐する為に俺達勇者が召喚されたんじゃ…
「お前等二人は知らねぇか…ネル、マナ、悪いが席を外すぜ」
「この馬車の中で?」
「あぁ平気だ、もう着いた」
クロウの言う通り、商団は関所に着いた。
思ったより早い到着だったな。まぁ内容はベリーハードだったけど。
「さて、俺はこの商団のトップと話付けてくる、お前等は外に出ててくれ。ネルは適当に寝とけ。マナは馬車から離れるなよ」
「そうする」
「はい…」
納得したのか、ネルは横になって目を閉じた。マナの方は暗い表情になって俯いてしまった。
「そんな顔すんな、また確かにクヴェランドまではついて行けないけど、また会える」
「お兄ちゃん…」
クロウがマナの頭を優しく撫でて、優しく声をかけるとマナは嬉しそうに目を細めた。
兄妹っていいなぁ、一人っ子じゃ考えられない気分だよ。
「んじゃ二人は外に行っててくれ」
「あぁ、分かった」
俺はアマネを連れて馬車の外に出た。
丁度良い、ネルとマナには聞かれたくない事…勇者と魔王の事を聞くチャンスだ。
クロウは絶対に何か知ってる。それを聞き出すんだ。
☆ ☆ ☆
「おう、待たせたな」
アマネと二人で暫く待っていると、やっとクロウが来た。
「話をする分は待ってもらう事にしてもらった。商団からの好意だ、存分に語ろうじゃねえか」
心の中で商人の人達に礼を言ってから、クロウに聞きたいことの整理をした。
アマネはまだ何が起こってるのかイマイチ理解出来てなさそうな雰囲気だな。この子天然が入ってるのか?まぁ良いけど。
「何でお前が俺達二人を勇者だと知ってる?」
「え!?知ってたの!?」
「おぉ、察しが良い…いや、まぁこんだけヒントがあれば充分か…」
俺の答えに満足したのか、数回頷いてからアマネに優しげな視線を向けたクロウ。
やめてくれ、彼女は天然なんだ。
「まぁ知ってるが、ネルやマナは知らねぇぞ?俺が特別なんだ」
「そうか、で?一体何者なんだクロウは」
「それは内緒、まぁヒントを与えるなら冒険者でも一握りの存在って訳だ」
それヒントじゃなくて答えなんですが…
冒険者で一握りって、S級じゃないか!道理で敵わないと感じた訳だ、そりゃ雰囲気が違うよ。
「次、アルタイルについて聞きたい」
「異世界から召喚された勇者なら知らないのも当然だが、その前にこの世界の伝説について知ってもらうか」
「伝説?」
この世界の伝説…か。
「あぁ、アルタイルとベガの恋物語のな」
元の世界でいう、織姫と彦星か。
そもそもアルタイルとベガってのは、元の世界じゃ星座の一部の星の名前だ。
そしてその二つの星は、日本じゃ織姫と彦星の伝説と言われてる。
織姫と彦星は、日本の昔話。一年に一度出会える恋人の話。七夕の伝説だ。
まさか、こっちの世界でも伝わってるなんて…
「まぁ後に、アルタイル、ベガ、デネブとシリウス、ベテルギウス、プロキオンの二陣営の英雄達の物語になるが…どっちが好みかな?」
「恋物語!絶対恋物語!」
おいおい、何でそこで冬の大三角が出てくんだよ…
そしてアマネ、何故恋物語で反応するんだ。てか絶対話長くなるから後で常識凌駕で詳しく調べよう。
「取り敢えず二つの大雑把な話を教えてくれ」
まぁ、大雑把の方が良いからな。
「んじゃ二つを大雑把に。昔昔のグリスレム王国の騎士であるアルタイルとベガの二人の幼なじみは、互いに両想いで婚約する。二人の親友のデネブは二人を見守る。以上!
後に昔昔のリオナオン王国と戦争する、アルタイル、ベガ、デネブの三騎士はリオナオン王国のシリウス、ベテルギウス、プロキオンと戦闘する」
「待て待て待て待て!」
意味わからん!大雑把すぎんだろコラ!!
「分からん所は後で調べろ!」
「あぁそうするよ!」
「よし、続けるぞ〜」
「これから話す事は実際にあった伝説だ。多少長くなるがまぁ、飽きずに聞いてくれや。
両国は戦争を始めた事は話したな?その戦争中に突然魔王が現れ、両国はほぼ壊滅したんだ。
次に両国の三人、アルタイル、ベガ、デネブとシリウス、ベテルギウス、プロキオンは手を取り合い魔王を封印する事に成功した。
しかしその戦争でアルタイルは死亡し、ベガと離れ離れになってしまう事になる。
アルタイルの遺体はグリスレムの聖なる泉に埋葬された。アルタイルの生前の願いでな。
ベガはアルタイルと離れ離れになりたくない一心で、生前あらゆる方法を試して、アルタイルに会う事を試みたが、それは叶わぬ願いとなった。
ベガは悲しみに沈み、食事もろくに出来ず衰弱する一方。よっぽどアルタイルの事を愛してたんだろうなぁ。
親友のデネブはそんな彼女を見てられず、アルタイルとベガを会わせるためにシリウス、ベテルギウス、プロキオンにある頼みをする。その方法は死者を蘇らせる儀式をする事だ。
だがその儀式の代償には生贄が必要だった、それを知ったデネブは自分を生贄として、三人に儀式の遂行を頼んだ。
その儀式に成功した結果、アルタイルは蘇り、デネブは星になった。
そのおかげでアルタイルとベガは再開出来たが、シリウス達に告げられた真実に心を討たれ、同じ星になる儀式をする事に決めた。
親友を一人星にさせることは出来ない…ってな。
そしてアルタイルとベガも星になり、三人は再開したっていう話だ。
そして三人は星の英雄と呼ばれる事になった…これがアルタイルの由来だ」
「星の英雄…」
「アルタイルとベガの子孫っていうのは、色々な説があってな。お前がアルタイルの性を名乗ったのは驚いたんだぜ?もしかしてギルドとかに登録する時もそう名乗ったんじゃないだろうな?」
「グッ」
そ、それは…確かに名乗ってしまった。
「アルタイルは本物の英雄だ、その名を名乗りたい若い男性新人冒険者がアルタイルの性を名乗るってのは良くある、まぁ若い女性冒険者はベガの性をって具合にな。だが…お前はそれを持っている」
クロウが、俺の刀を指さして言った。
「あの時のゴブリンロードを斬ったそれは、アルタイルが愛用していたという伝説の武器。伝承でしか知られていない本物の武器だ。
最初はレプリカかと思ったがレプリカじゃあんな性能は出せない。
そんな矢先のお前のアルタイル性の名乗りだ。本物の子孫がいたと思われても可笑しくない」
そ、そんな大層な武器と名前だったのかよ…
「お前が異世界召喚された勇者だってのは分かるが…別世界の英雄の武器を使って、その性を名乗るのは流石に常識が通用しない事態だぞ?」
ほ、ほっとけ!俺もこうなるとは思わなかったんだよ!
「とにかく、ネルとマナは間違いなくお前をアルタイルの子孫だと思うだろうな…まぁどうするかは任せるがな。勇者って事を隠してるんだろ?」
「まぁ、な」
「リクト君は変な所で神経質だからね」
いやだってさ、落ちこぼれ勇者が強いって分かったら色々とめんどくさい事になりそうじゃんか。それで他の国に行きたかったのに…こんな所で障害がぁぁ!!
「これは提案だが、お前が勇者だってのを隠したいなら、本当にアルタイルの子孫になる事も検討したらどうだ?」
「ど、どういう事だよ」
「その武器は伝説だとアルタイルの子孫にしか現れないって言われてるんだ。まぁプロキオンが記した伝承だがな。その伝承の武器を持ってるって事は…まぁ分かるだろ?」
あぁ、アルタイルの縁の人間だって思われれば間違いなく異世界召喚された勇者以上の厄介事になる!
くそ!これが原因で規格外に目を付けられるのは嫌だぞ!すぐ死にそうだから!
チートがあるって?経験が足りないんだよ!俺は冒険して経験を積んで活躍する気なんです!ゆっくり成り上がりが良いんです!
実際勇者という事で探りに来たブレイヴみたいなのもいるしな!敗北イベント(死亡)なんてごめんだぞ!
だから目立ちたくないんだ!力を付けるまでは!でも選ばれた以上はしょうがない!この刀を使わければ良いんだ!ハッ、それにアルタイルじゃなくてウミヤを名乗ればこんな厄介な問題も解決する!何だ簡単じゃないか!取り敢えず俺の考えをクロウに伝えるか。
「分かる、分かるけど俺にはまだ力が足りないんだ。そんな事やって目立って変な奴に目を付けられるのは嫌だ。それに偽名を名乗れば問題は無い!」
「お前、本当に異世界召喚された勇者なのか?俺が知ってる異世界召喚された勇者ってのは死にたがりか馬鹿が多いんだが」
「俺は慎重なんですぅ」
そこ!臆病とか言わない!
(リクト君は慎重じゃないでしょ…絶対)
何かアマネから変な物を見るような目を向けられてるけど、知らんなぁ!
「本当色々と俺の中の常識が通用しないな、お前」
「そんな常識、クソくらえだ!」
「おっ?勇者特有の決め台詞か?」
「はァ!?」
「あっ、良いよその決め台詞!カッコイイよ!」
「何でそうなってんだよ!」
……でも、良いかもしれない。俺の中二心にぴしぴしと響いてくる。
うん、良いな。機会があったら使ってみよう。
「まぁとにかく、お前が今は目立ちたくないってのが分かったが、これからどうすんだ?」
これからどうするか、か。
「まずクヴェランドの主要都市に向かって、依頼を受けて実力を付けようかと考えてる」
「うん、良い考えだな。じっくりと実力を付けるのは冒険者の鉄則だ。確信したぜ、お前ならマナを任せられるよ」
「お、おう」
何か知らない内に認められていた、まぁ良かった。
「他に聞きたいことは?」
「俺はもう無い」
「私も」
聞きたいことは、それだけだったからな。
「んじゃ戻るか…リクト、アマネ、頑張れよ?異世界生活はこれからだからな」
「ああ、そうだな!」
「うん!頑張るよ!」
クロウの言葉に実感が湧いた。
異世界生活はまだ始まったばかりだって事が。
新しい仲間もできたし、新しい国に入って新しい冒険が、これから始まる。
ワクワクしてきた、ここらか俺達の…本当の物語が始まるんだ!まぁ取り敢えずこれからはアルタイルじゃなくてウミヤって名乗ろう。アメミヤでも良いかなぁ…あんまり好きじゃないんだよな、この苗字…
「リクト君、遠い目をしてるけど…何かあった?」
「ははは、まぁ…うん」
迅速に力を付ける必要がある、そう思っただけさ…
この世界での英雄の話。
番外編で英雄談をやるかもしれません。
裏設定、デネブは男の娘




