第十四話:彼女は奏で、彼は選ばれる
アマネのヒロイン力の高さよ
盗賊団を退けてから暫くそのままのペースで公道を走っていた商団は、徐々に速度を落として、やがて止まった。
「どうしたんだ?」
気になったから、馬車を操っている男の人に理由を聞いてみる。
「今日はここで休息を取るんだ、このままのペースで行っても着く前に夜になるからな。そうすると危険だから、商団の間で使われているこの場所で野宿するんだ」
成程、確かに辺りを見回してみると、既に野宿の準備に取り掛かっているな。
「あんたらのおかげで盗賊団に襲われなくてすんだんだ、準備は俺らに任せてゆっくり休んでくれ」
「そんな、悪いですよ」
「気にすんなっての兄ちゃん!それに連れの嬢ちゃんはもう休む気満々みたいだぜ?」
自分達だけ休むのは良くないと思って断ろうとしたが、ネルがもうぐだぐだモードに突入していたのを見て、溜息しか出なかった。
それを見た男の人は豪快に笑いながら準備を勧め始める。
「そうだよリクト、休むのも大事」
「お前、相変わらずだな」
「うん、私はぶれない」
本当、尊敬するよそこは。
さて、俺は周囲の見回りにでも行ってきますか。
「あれ?何処に行くの?」
「見回りに行ってくる、すぐ戻るよ」
「ん、行ってらっしゃい」
アマネとネルに見送られながら見回りに出る事にする。
今回も何かある可能性が無いとは言いきれないからな。きちんと見回りしないと
☆ ☆ ☆
リクト君は本当に真面目だなぁ、私なんて初めて馬車に乗ったせいか、少し疲れちゃったのに。
それに、今日はリクト君やネルちゃんの役に立てた。私でも二人の役に立てたって事が分かったんだ。
それが凄く嬉しいな。
「アマネ、何か嬉しそう」
「そ、そうかな?」
ネルちゃんに言われて気が付いたけど、さっきからずっと笑ってたせいで、だらしない表情になってた。いけないいけない。
「さってと」
「それは?」
私が取り出したバイオリンを興味深そうに見てきたネルちゃん、やっぱりこの世界じゃ珍しいのかな?
「これは、楽器だよ」
「それが楽器?見た事が無い形をしている」
あれ?バイオリンってそんなに有名じゃないのかな?この世界じゃあ。
ならあの鍛冶屋の人は何で知ってたんだろ?
うーん……まぁ今は良いかな。久しぶりにバイオリンを引きたいから。
「じゃあ、演奏するね」
演奏する時は、心を落ち着けて自分の引きたい音を引き出す。
楽譜があるなら話は別だけど、今回は私のオリジナルの曲だから。
テーマは、この世界。
この世界に来てから色々な事があった、リクト君達と出会って、カズト君達と別れて、ギルドに入って、ネルちゃんと出会って…リクト君に助けられた。
私は、最初は怖かった。この世界の何もかもが。でもそれを表に出そうとはしなかった、もしも表に出して足で纏いだと思われたら、皆と別れちゃうと思ったから。
でも、リクト君は自分から離れようとした。私と同じでカズト君やスズカちゃんよりも弱い能力だと言って、自分から進んで離れようとした。
私はリクト君を放って置けなかった。それに何でそんな事を平然とできるのか?皆と別れるのが怖くないのか?それが知りたかった。
だから私はリクト君について行きたいと思った。
でもリクト君は本当は強かったんだけどね。まぁ能力は分からないけれど。
それに、リクト君は凄く優しい。
私が弱くてもリクト君は文句を言わないで、一緒にいてくれる。一緒に冒険してくれる。
それが凄く嬉しいんだ。
_だからリクト君に、私が感じているこの嬉しいっていう気持ちを届けたいの_
自分の心を音に乗せる、自分の思いを音に乗せる。
私の能力は、きっとその為にあるから。
☆ ☆ ☆
今、俺の目の前には傷付いた一匹の鷲がいた。
翼の付け根から赤い液体が流れている、多分あの辺を怪我してるんだろうな。
まったく、こういうのは見過ごせないタイプなんだよ俺は、動物好きだしな。
「無属性で回復って…こんな感じか?」
常識凌駕を使いつつ、鷲の怪我を治して行く。
あ、こいつ凄い綺麗な目をしているな。オレンジ色の、凄く綺麗な目だ。
鷲と目が合ったけど、構わずに怪我を治療する。携帯して持っていた包帯をキツすきず緩すぎずに巻いていく。
「うし、もう大丈夫だぞ。何があったかは知らないけど、もう怪我すんなよ?」
これでこの鷲は大丈夫だ、そろそろ拠点に戻ろうかな。
「ん?」
戻ろうとしたら、さっきの鷲が緩いスピードで俺の周りを飛び始めた。
「何だ?お礼でもしたいのか?」
冗談半分でそう言ったら、俺の言葉を理解したのか鷲が甲高い声で鳴いた。そしてそのままのスピードで少し先の木の枝に停まり、俺を見る。
俺が鷲に近づくと、別の木の枝に停まって俺を見る。
その鷲の行動が気になった俺は、後を追いかける事にした。
☆ ☆ ☆
鷲の後を追いかけたら、開けた場所に出た。
そこにあったのは、森の中にある神秘的な雰囲気のした湖だった。
「凄い………」
思わずその湖に見惚れる、その位に綺麗で透き通った湖だった。
「もしかしてお前、ここに…あれ?」
気が付いたら鷲が消えていた。
「へへっ、そっか」
それだけで理解した。あいつはきっと俺にこの景色を見せたかったんだろうって。
「ありがとうな」
もうそこにはいないけど、そいつにお礼を言って帰ろうとした。
直後、激しい音と共に湖から水柱が立ち上った。
「ッ!?」
驚いた、何の前触れも無くこんな事があったから。
「あれは?」
そして、水柱の中心に何かがあるのを見つけた。
翠色の鞘…多分武器だろうな。それとあの形から見て刀のような、そんな物を。
そしてそれは、緩やかなスピードで湖から出て、俺の目の前に辿り着く。
俺は恐る恐るそれを手に取った。
「軽い…」
それは、驚く程に軽かった。
重さを殆ど感じられない、刀の類だとは思うけれど、ここまで軽い物なのか?
試しに鞘から抜いてみると、そこにあったのはオレンジ色の刀身が姿を見せる。
武器には詳しくない俺でも分かる、こいつは凄い代物だ。
こいつは、とんだプレゼントだな。
「ありがとう…いやマジで」
まさかこんな物を貰えるとは思わなかったぜ。
やがて水柱は収まり、元の綺麗な湖に戻った。
「戻るか…」
刀を腰に付け、元々持っていた剣を背中に付けるけど、こうなると剣が重く感じるな。
この刀一本で行くか、それとも二本武器を使うか…改めて考えておくかな。
剣と刀の二刀流って、和と洋の二つが合体したみたいでカッコイイしな。
☆ ☆ ☆
「そうか、君が認めた人間がいるんだね、アルタイル。その近くにはきっとベガに認められた人間もいる筈だ、君達二人は引き合うからね。
そして僕が認めるべき人間も…なら久しぶりに下界に降りてみようかな。
君達が認めたって事は、まだ人間も捨てた物じゃないって事になるからね」
『報告、アマネ・カグラが性質を獲得しました。リクト・アルタイルが天星伝説武器の一つ、天翔大鷲を獲得しました。』
と、いう事でリクトにチートな武器が手に入りました。
今開示できる情報は、重さを殆ど感じない重量という事。殆どですよ、ここ大事。
最後に登場した謎の人物…多分そんなに重要じゃないかも。




