第9話 命を奪う覚悟を問う
2人が魔法を使えるようになって2週間が過ぎた。
その期間で習得した魔法はいくつもあり、へいこうして並行して術式も勉強させていた。
その成果は目に見えて出ており、いまでは下級魔術が使えるようになった
「いい感じですね、この調子でいけば上級魔術もそう日がかかることはなさそうです」
「ふう、疲れた……」
「最近はずーーーーっと魔術の勉強ばっかだったしなぁ」
「そうですね。……ではリョウ殿、コウタ殿。そろそろ実戦に赴いていただきたいのですが、いかがでしょうか?」
2人の文句を流しつつ、次の段階へ進みたい旨を伝える
「実戦というのは?まさかっ……魔人と戦うんですか!?」
「え、流石にまだ早くねぇか?」
確かにまだ魔人や魔族との戦闘なんて無理だろう。
だが、このままいつまでも修行を続けたところではたして意味はあるのか?
「魔人ではなく、魔獣の討伐です。」
経験とはどれだけ修行を積み重ねても得ることのできない"差"を産む。
1度の経験は1年の修行に値するだろう。
それだけ場数とは大事なものだ。
「実戦を行う目的は"命を奪う覚悟"です。」
一瞬、場の空気が凍った。2人に緊張が走ったのがわかる
普段の2人から感じられるのはどこか楽観的な面持ちは争いとは無縁だったのが伝わってくるほどに、優しいものだ
「私があなた方に学ばせているのは命を奪う技術です。剣も魔法も……」
「……はい」
「わかってるよ……」
先程までとは違い、2人の顔からは笑顔が消えた。
(いつかは……)と考えていたことが眼前に迫り、恐怖か焦りか
そのどちらもだろうか。まだ迷っている様子の2人は今、何を思っているのだろうか
「……王都を出て東北へ2日ほど馬車を走らせた所に森があります。そこには前回の魔王封印決戦の際の魔獣の生き残りがおります。それらの討伐をお二人にお任せします。もちろん、私も同伴しますが危険と判断するまでは戦闘に参加はしません。」
「初めての戦いでそれは厳しすぎませんか……?」
「ヒューマさんが参加しないなら俺ら2人で……それは無理だろ!」
これは自信がないのではなく不安なのだろう。
確かに初の戦闘で素人が2人は厳しいものがある。
「でしたら、冒険者を雇いましょう。場数や実戦の経験という意味においては、我々王国騎士よりも彼らの方が勝っていますから」
「ぼ う け ん しゃ!!!」
「あはは……」
冒険者と聞き、さっきまでの不安が消し飛んだかのように目をキラキラと光らせるコウタと
その様子を見て苦笑いを浮かべるリョウ
2人の変わらぬやり取りは場を和ませるには丁度よかった。
「予定は3日後です。心持ちの準備をしててください」
――――
3日はあっという間に過ぎ去り、馬車で移動を始め2日、ついに魔獣討伐の日が来た。
冒険者ギルドに掛け合い、A級のパーティが2人と組んでくれることになった。
俺やその他の護衛騎士達は遠くから勇者に危険が迫ることのないよう監視を行っている。
「さすがに離れすぎじゃありませんか?」
「ヒューマ様の実力はご存じですが……」
何人かの騎士が不安そうに声をかけてくる。
勇者様達との距離は半里ほどであり、魔力による視力の強化があってやっと見える位置だ。
「助けてもらえる、なんて考えられては困りますし。この距離ならギリギリ射程圏内ですよ。竜でも出ない限り問題はありません」
聞く人が人なら「フラグを立てるな!」と怒鳴りつけるだろうが、その場にいるのは全員がそんな知識を待ち合わせていない脳筋ばかりだ
「今回の標的はオークです。と言っても魔界に侵食されたダンジョンから出てきた変異体のオークです!」
「この世界ダンジョンあるんですかっ!!?」
ダンジョンは至る所にある。
地中、海、空などさまざまであり、生息するモンスターはそれぞれの環境によって姿形を変える
「魔界となった大陸にもいくつかダンジョンがありました。それが飲み込まれてしまい、モンスター強化されて外へ漏れ出たんです。それが前回の魔王決戦の際にこちら側に流れてきました。今回はそのモンスターの討伐をお願いします」
「きましたね。オークです」
「勇者様方も気づいた様ですね」
「警戒は怠っていませんね」
オークは5mはある巨体であり、手には丸太を棍棒の様に握っている
「さて、お手並み拝見です。」
――――
《フローマリア王国》祭壇の間
眩い光の端が天井まで伸びている。
その光は召喚魔法によるものだろう。
その日、フローマリア王国は勇者の召喚に成功した。
しかし歓喜に震えることも、歓声をあげる者もいない。
「…………」
「……これは」
「……っ」
困惑の声が静かな空間に響く。それは召喚した側の声なのか、召喚された側の声なのかの判別が不可能なほどにか細かった。
その場にいる全員が焦りと絶望に顔を歪ませている
「勇者召喚が完了致しました。人数は37人でございます……」
――――
同時刻 フローマリア王国より北方に離れた位置
魔王の娘である《緋炎のフレア》は3体の魔族、200体の魔人を引き連れ、フローマリア王国を滅ぼすために来ていた。
「召喚を終えたようですね……」
偵察に向かわせていた配下の1人、クワドルの報告を受ける
「今のうちに殺しておけば問題ない……あわよくばこちら側に引き込んでもいいだろう」
「……冗談ですよね?」
「…………ああ」
曖昧な答えにクワドルはただただ頭を抱えるだけだった
第2話ぶり?の魔王軍側の登場ですね
次話では初めての戦闘シーンです……
こわい




