同じ夢
目が覚めた瞬間、息が少しだけ荒かった。
「……またか」
夢を見ていた。
はっきりとは思い出せない。
けれど、昨日と同じだということだけは分かる。
暗い空間。
遠くで揺れる光。
そして――誰かがいた。
顔は見えない。
それでも、なぜか分かる。
あの距離も、あの位置も、すべて同じだ。
「気持ち悪いな……」
枕元のスマートフォンを見る。
時間は、またしても6時前だった。
偶然にしては、出来すぎている。
⸻
リビングに降りると、母がこちらを見ていた。
「また早いじゃない」
「最近な」
「ちゃんと寝れてる?」
「まあ、それなりに」
適当に答えて席に座る。
テレビではニュースが流れていた。
『昨夜未明、関西地方でも小規模な地盤沈下が確認され――』
昨日は関東、今日は関西。
規模は小さいらしいが、範囲が広がっている気がする。
「また増えてるな」
「そうなの?」
母はあまり興味なさそうにコーヒーを口にした。
「最近こういうの多い気がするけど」
「そうかしら。ニュースなんてそんなもんじゃない?」
あっさり流される。
それ以上言うこともなく、俺は黙ってトーストをかじった。
⸻
通学路。
今日も人は多い。
変わらない景色のはずなのに、どこかだけがズレている気がした。
信号が変わるタイミング。
人が歩き出す瞬間。
ほんのわずかに、自分の感覚と合っていない。
自分だけが先に動いているような――
「……気のせいだな」
そう呟いて歩き続ける。
そのとき、後ろから肩に軽くぶつかられた。
「すみません」
「あ、いえ……」
振り返ると、知らない男が頭を下げていた。
それだけのこと。
なのに、その顔を見た瞬間、妙な引っかかりを覚える。
――どこかで見たことがある。
だが、思い出せない。
「……いや、ないか」
自分に言い聞かせるように、視線を外した。
⸻
電車の中。
揺れる車内で、なんとなく周囲を見回す。
ふと、向かいに立っている男と目が合った。
知らない顔。
それなのに――
一瞬だけ、懐かしいと感じた。
理由は分からない。
向こうは何も感じていないのか、すぐに視線を逸らした。
それだけのことなのに、妙に気になった。
⸻
教室に入る。
いつもと変わらない空気。
自分の席に向かおうとして、ふと足が止まる。
窓際の席。
白峰澪が座っている。
特に関わりはない。
それなのに、視線が自然とそちらに向く。
彼女と目が合う。
一瞬だけ、動きが止まった。
驚いたような、何かを確かめるような目。
だが、すぐに逸らされる。
「……なんだよ」
小さく呟く。
もちろん、返事はない。
⸻
昼休み。
特にやることもなく、スマートフォンをいじっていると、通知が来た。
『不具合により、一部地域で通信障害が発生しています』
「またかよ」
思わず呟く。
最近、こういう通知を見ることが増えた気がする。
隣にいる友人は、何も気にせず動画を見ていた。
「電波、悪くないのか?」
「え? 普通だけど」
画面を見たまま、軽く答える。
自分のスマートフォンを見る。
アンテナは問題なく立っている。
なのに、通知だけが妙に浮いて見えた。
「……なんでもない」
画面を閉じる。
⸻
放課後。
帰り道は、いつも通りだった。
イヤホンをつけて音楽を流す。
今日はノイズは入らない。
その代わり――
一瞬だけ、音の奥に“何か”を感じた。
言葉かどうかも分からないほどの微かな音。
聞き取れない。
けれど、確かにあった。
足を止める。
耳を澄ます。
だが、それ以上は何も聞こえなかった。
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夜。
ベッドに横になり、目を閉じる。
今日一日を思い返してみても、特別なことは何もない。
なのに、どこか違う。
何かが、少しだけズレている。
そんな感覚だけが残る。
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意識が沈む。
気づけば、またあの場所に立っていた。
暗い空間。
揺れる光。
昨日より、少しだけ近い。
距離が縮まっている。
その奥にいる存在が、わずかに動いた。
声は聞こえない。
けれど、確かに“何か”を伝えようとしている。
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その瞬間。
ほんの一瞬だけ、言葉が形を持った。
『――戻……』
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そこで、途切れた。
⸻
次の瞬間、朝だった。




