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異世界に転生したのでダーツを布教してたら最強の投擲魔法になってました~最終目標は自分のダーツバーです~  作者: Pman


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第十八話:一年の意味

季節が、一巡した。


朝の空気は冷たく、息が白くなる。


あの頃と同じ場所。


だが、立っている自分は少し違っていた。


「……やるか」


ダーツを手に取る。


枝は以前よりも高い位置に結び直してある。


距離も、遠い。


風も強い。


条件は、あの頃より厳しい。


(それでいい)


構える。


呼吸を整える。


――投げる。


一投目。


枝の中心に刺さる。


揺れる。


二投目。


同じ位置。


ほぼ重なる。


三投目。


わずかにズレるが、それでもまとまる。


「……いいな」


小さく呟く。


一年前なら、当たるかどうかだった距離。


今は、揃えられる。


「相変わらずだな」


横から声がする。


荒い少年だ。


少し背が伸びている。


顔つきも変わった。


「そっちはどうだ」


「まあまあだ」


そう言いながら、構える。


投げる。


三本のうち、二本がまとまる。


「……悪くねえ」


「上出来だ」


「お前基準で言うな」


苦笑する。


だが、確実に上達している。


最初とは比べものにならない。


「魔力は?」


「まだ安定しねえ」


「そうか」


俺も、完全ではない。


だが――


ダーツにわずかに“乗せる”ことはできる。


刺さりが変わる。


軌道も、少しだけ安定する。


「それでも、前よりはマシだ」


「ああ」


短くうなずく。


あの時の感覚。


今は、少しだけ掴めている。


「実戦は?」


「何度かやった」


荒い少年が言う。


「小さいのばっかだがな」


「十分だ」


俺も、同じだ。


あの一度で終わりじゃない。


何度か、同じような場面があった。


逃げることもあった。


当てられないこともあった。


それでも――


「死んでねえなら、合格だ」


「基準低くねえか」


「現実的だ」


それでいい。


生きていること。


それが一番重要だ。


「……で」


荒い少年が、少しだけ間を置いて言う。


「行くのか」


「ああ」


迷いはない。


「今日か」


「今日だ」


一年。


長いようで、短かった。


やることはやった。


足りないものは、まだある。


だが――


(これ以上は、外だな)


ここでできることは、ここまでだ。


「……そうか」


荒い少年は、少しだけ黙る。


それから、軽く笑った。


「俺も行く」


「……いいのか」


「いいに決まってんだろ」


即答だった。


「面白えしな」


理由としては、それで十分だ。


「親は」


「説得した」


「通ったのか」


「条件付きだ」


俺と同じだ。


「一年、ちゃんとやったからな」


「……そうか」


納得する。


それだけやった。


それなら、止められない。


「他は?」


「何人か来るらしい」


「そうか」


少しだけ、賑やかになりそうだ。


「でもまあ」


荒い少年が肩をすくめる。


「どうなるかは分かんねえけどな」


「それでいい」


未来なんて、最初から分かるものじゃない。


「やりながら決める」


それでいい。


俺はダーツを一本、手に取る。


最後に、もう一度だけ。


この場所で。


構える。


一年前と同じように。


だが、今は違う。


距離も。


精度も。


意識も。


――投げる。


中心。


深く、まっすぐに刺さる。


二投目。


重なる。


三投目。


ほぼ同じ位置。


完全ではない。


だが、十分だ。


「……いいな」


小さく呟く。


ここでやることは、終わった。


俺はダーツを抜く。


手の中で軽く回す。


(行くか)


振り返る。


街が見える。


酒場がある。


家がある。


一年過ごした場所。


全部、そこにある。


だが――


ここでは足りない。


それは、もう分かっている。


「行こうぜ」


荒い少年が言う。


「ああ」


短く答える。


二人で並んで、歩き出す。


街の方へ。


準備は終わった。


あとは――


外に出るだけだ。


一年の意味は、ここにある。


積み重ねたもの。


足りないと知ったもの。


それ全部を持って、次へ行く。


俺は一度だけ、振り返る。


風が吹く。


枝が揺れる。


あの場所。


最初の練習。


全部、そこにある。


(またな)


心の中でだけ言って、前を向く。


――旅が、始まる。

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