ラチックの策
海空決戦の始まりの時。
結局、ラチックより将棋が強い人物は現れなかった。
ちなみに、『将棋程度で実力が計れるか!』とかいう奴は、ラチックが『将棋でも勝てない癖に、この一戦に掛けられるの?』と言って説き伏せた。
「さて、どうなるか」
「さあ?私たちは、信じて指示を出すだけよ」
イグノ達《海馬組》メンバーは、本陣の海底にいた。
詰められた時に、少しでも連携が取りやすいメンバーで固めてある。
対して、相手の本陣は遥か上空にある。
戦場では上を取られている方が不利なのだが、UAOの世界ではそこまで関係ないだろう。
ちなみに、大将の位置情報は分かるので、隠れたりはできない。
「陣形は構築できてるか?」
「ええ、聞いている限りでは完璧ね」
ラチックの【シャチ】には通信能力もあるので、状況は彼女を通して伝えられる。
そして、開始時間はまだかと時計を見ていると……
『そろそろ始まるよ』
『そろそろ始めますよ』
ザ・フィッシュと、ザ・バードの声が響いた。
今回はSeaとSkyの両方が絡むので、二匹で開始宣言をするのだろう。
そして、時計はカチカチと進んで行き、
『デュエル開始ィィィ!』
遂に始まった。
◇
視点は前線に移る。
最前線の人たちは、海中から空に浮かぶ相手を睨んでいた。
今は、海面に結界が貼られていて、攻撃は通らないが……
『デュエル開始ィィィ!』
開始時間になったことで、結界が解除された。
瞬間。
「【顕幻・セイレーン】」
「【顕幻・リヴァイアサン】」
「【顕幻・クラーケン】」
「【顕幻・海坊主】」
「【顕幻・骨クジラ】」
最前線の人たちが、巨大な化け物に変身していった。
その大量の怪物達が並ぶ世界の終わりの様な光景に、相手は驚愕して……少しの隙ができる。
「【王水 NOCl】」
「【音響指高破膜】」
「【ガンランス】」
そこに、怪物の影から遠距離系一撃必殺技を放った。
これで、十数人を必殺技を出させずに倒した。
相手からも反撃が来るが、耐久が高い怪物系が受けて、遠距離必殺の人を守る。
これがラチックの第一策。
怪物系を壁にして、遠距離一撃必殺系をなるべく多く撃つ。
結構人が固まっているので、割と沢山の人を持っていけた。
まずは、この第一線で出来るだけ相手を削って……
「【フェアリー戦士 ファイアレッド】」
「【フェアリー戦士 ウォーターブルー】」
「【フェアリー戦士 ランドイエロー】」
……いつの間にか、日曜午前8時半に活躍していそうな、女の子のヒーロー達がいた。
「〈メラバーン〉」
「〈バケットレイン〉」
「〈アースエンジャー〉」
三人それぞれが魔法を放ち……こっちの化け物たちを全て跡形もなく消し飛ばした。
下手な一撃必殺系でも出来ない芸当に、今度はこっちが恐れ慄く。
「なんだあいつら!?」
「すぐに参謀殿に報告しろ!」
前線の方々が、ラチックに壁役が爆散したことを伝えると……恐らく、モンスター特攻能力だろうとのこと。
よく調べてみると、化け物の背後に隠れていた人たちは、少し傷ついたくらいで済んでいる。
モンスターに対してのみ、火力が大幅に上がるのだろう。
『怪物系全ての動きに関わります。突撃系はモンスター特攻を全員撃破。それ以外は、少し速いですがフェーズ2移行して下さい』
「突撃ィィィ!【ワン ヒット ピアー】」
「【影の王国の住人】」
「【WHITE・DEATH】」
数人が死を覚悟しつつ突貫し、フェアリー戦士たちの撃破を目指す。
ある人は影から、ある人は光からワープして対象に接近し、ある人は超スーパーバカスピードで全てを貫き、フェアリー戦士を全員倒した。
他の人たちは、少し引いて体勢を整える。
殿(後ろに下がる時に、背中を突かれないために、残って戦う人。分からなかったら調べて)の数人に敬礼して、フェーズ2は終わった。
「撤退と仕込み、完了しました」
『よろしい。モンスター特攻能力者に気を付けつつ、巨大怪物壁を再展開。仕込みも一気に発動させて、押し切りなさい。これから先、一歩も引くことはありません』
「分かりました」
参謀に状況を伝える役の人が、最後の通信を受け取って……大きく息を吸い込んだ。
そして、大声でラチックからの作戦を伝える。
「第二陣壁、展開。仕込みも全て使え!ここから先は作戦なんてない、一歩も引かずにぶつかり合うぞ!」
「第二陣、行きます!【顕幻・タニファ】」
「【顕幻・レヴィアタン】」
「【顕幻・栄螺鬼】」
第二陣の怪物達が現れ、再び壁を成した。
それと同時に、仕掛けてきたトラップも全て発動させる。
「【水地雷・氷の型】」
「【バクテリア アクティベーション】」
「【Διαφανείς μέδουσες】」
至る所で氷化する爆弾が爆発し、水を飲んだ人々が毒に苦しみ、透明だったクラゲに刺された。
……行儀がいいのはここまで。
あとは、真正面から押し切るまで。
トラップで弱っている相手を打ち倒し、有利な状況のまま、少し下がった戦線を上げていく。
ラチックの策が上手くハマり、かなり押していた。
あと少しで、相手の本陣という所。
「これは勝っただろ」
「……残念な伝令です」
「ん?」
「相手が突撃してきました」
「……は?」
かなり追いつめられたことで、残る全ての戦力で突撃してきたらしい。
全員で塊になって、一点突破をしてくる。
「え、ここまで来ないよね?」
「防御系能力が多いらしいわ。あと……クラン決戦システムって知ってる?」
「何それ?」
クラン決闘システムとは、逆転用の救済システム。
大将にのみ使え、一定範囲内に相手の大将がいると、両方の大将とそのクランメンバー以外の干渉を受けない結界が展開できる。
大きな人数差があっても、大将にさえ近づければクランVSクランまでに縮められるのだ。
運営によると、大将の二人が同じ10人のクランリーダーなので、このシステムが採用されたらしい。
「……出番ありそう?」
「多分来るわ」
「勝確だと思ってたのによぉ」
「まあいいじゃないですか。勝てばいいんですよ、勝てば」
「……《海馬組》各員、来ない事を祈りつつ戦闘用意」
「はい!」
数分後。
もうなんか察してた。
壁を作る能力者が、気休め程度の壁(ウォールマリアと名付けた)を作ったが、一瞬でヒビが入り、見覚えのある白い鎧が、十数人を率いて現れた。
そこは、もう射程内。
「「クラン決戦結界、機動!」」
二人の大将の間から、四角い結界が広がっていき、クランメンバー以外は押し出される。
ここまでくる途中で、相手のクランメンバーが一人くらい欠けていることを期待していたが、しっかり十人揃っていた。
まあ、こっちにも万全の十人がいる。
「さあ、決戦だ」
ラチックの策(簡略化)
1怪物で威圧し、ついでに遠距離攻撃で削る。
2トラップを仕掛けつつ撤退する。また、相手は怪物を倒した達成感で、深追いしやすい。(撤退の殿は、一々交換しやすい人を採用する)
3第二陣とトラップで出来るだけ相手を削り、そこのアドバンテージで押し切る。
これ以上に難しい作戦は失敗しそうなので、この程度に留めた。
現在のポイントSea196 Sky240