決戦数時間前
未だ夏休みの真っ最中。
イグノがUAOにログインしてみると、けたたましい通知音が頭に響いた。
「なんだよ!?」
軽くキレつつ、通知を確認してみると……第六回イベントの告知があった。
「どうしたの、ダーリン?」
「いや、通知がうるさくて……ミワは通知音しなかったのか?」
「しなかったけど。ああ、告知はあったよ」
「なあ、マドカは通知音聞こえたか?」
「……なんの話っすか?」
どうやら、通知音が聞こえたのは俺だけらしい。
そのことに少し不安になりつつ、とりあえず第六回イベントの内容について確認した。
「良かったね、ダーリン」
「ゴミがよぉ……」
第六回イベントの内容は、海陣営VS空陣営の大戦争。
全ての魚VS全ての鳥。
そして、その戦いの勝利条件は、敵の大将を倒すことで……大将は前回イベントの優勝者になる。
あのタイマン大会の優勝者である、イグノ君が大将になるのだ。
「おれ、たいしょう。しんだら、まけ。せきにん、じゅうだい」
「大丈夫だよ、ダーリンなら」
「あー。ラチックに任せれば良かった」
「まあ、負けても大丈夫なんっすよね?」
「……負けてもいいならどれだけ良かったか」
そう言って、告知の最後の文章を指さした。
そこには、今回のイベントで得られる物が書いてあり……前回までは大体食べ物とかだったのに、今回は『夏休みキャンペーンが終わっても空が飛べるようになる』という物。
多分、空の方だったら『水に潜れる』とかになるんだろうなぁ。
つまり、今回のイベントでこのゲームの面白さが倍くらい変わる。
「重いんだよぉ……」
「ドンマイ(笑)」
「楽しんでんじゃねえ! そ、そうだ、イベントの時にログインしてなければ、この胃痛ポジから逃れられるのでは!?」
「それを私が許すと思う?」
声の方に振り返ってみると、俺がいなかったら大将にさせられそうなラチックさんがいた。
……そういえば、こいつにはリアルがバレてるんだっけ。
逃げ道が無くなったことを察し……もう色々と諦めた。
「……っし、じゃあ勝つしかないか」
「それでこそよ」
◇
イベント当日、数時間前。
運営が設けてくれた、イベント参加者全員が集まり、大将の演説を行うとかいう、人によっては死にそうな場。
「凄い人数ね」
「だなぁ」
広場に集まったのは、数千人、いや数万人はいると思われる魚たち。
俺は、この人たちの思いを全て背負っていくのか。
「……大丈夫?」
「ああ。覚悟はできてる」
一度深呼吸をして、ダイナミックにマイクを握った。
そして、まだお喋りを続ける群衆に演説を開始する。
『あー、色々あって今回の戦争の大将になったイグノだ。よろしく』
ざわざわとした喧騒は一気に小さくなり、話が通りやすくなった。
そのまま、スピーチを続けようとすると……緊張で内容を忘れた。
カンペ用意しとけばよかったなぁ……。
とりあえず、それっぽいことを言っておこう。
『俺が倒されたら敗北になっちゃうから、頑張って守ってね♪』
「ウゼー!」
「引っ込んでろ!」
「まあまあ」
……やっぱ綺麗な女性のラチックがやった方が良かっただろ。
女子ウケはそこそこ良いけど、男性ウケは終わってる。
こういう時に必要なのは……面白い設定だ。
『……分かった。もし負けたら、俺を刺して、刺身にするなり叩きにするなりすればいい』
「……その言葉を比喩以外で使うのは初めて見た」
『今まで【マグロ】目的に襲われることはあったが……一回もやられた記憶はない。その俺が、マグロを提供してやる。これが俺の覚悟だ』
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」×無限
よし、なんとか求心できたかな?
本当は勝った時に報酬をあげた方がいいけど、それだと俺の勝つ気が無くなるからヤダ。
『あー、あと、作戦に文句がある奴は、うちの作戦参謀に将棋で勝ってからにしてくれ』
隣に控えていたラチックは、知的そうな伊達メガネを上げた。
すると、数人の頭が良さそうな人が集まって来た。
「じゃあ、よろしくラチック」
「任せなさい」
「あー、疲れた」
「……よく即席でそれっぽいこと言えたな」
「そりゃ生徒会副会長だからな。緊張はいつまで経ってもダメだけど」
裏に引っ込んで、クランメンバー達と話していると、いきなりアンペルが笑い出した。
……あの顔は、面白いことになった時の顔だ。
「……何があったんだ?」
「向こうの大将が分かっタ。シロンらしイ」
「誰だそいつ?」
「前のデュオ大会で私と組んでた奴ダ」
「……あいつかぁ」
アンペルと組んでいた、骨の鎧を纏った高速高火力アタッカーのチートちゃんが、相手の大将らしい。
一筋縄ではいかなそうだ。




