第三十三話 異世界アルバイト! デュアルボード! ドラゴンレースで世界1位を目指せ!⑤
『あんた、レースを楽しみすぎてるみたいだけど、優勝するのが課題なんだからね。その算段は付いているの?』
ダリアさんがいつものように天界から脳内にメッセージを送ってくる。
「そ、そりゃあわかってるけど……まずはゴールするのに一生懸命で……」
『はぁ……あんた何しにこの世界に来たのよ。取り合えず今の順位を見てみなさい』
ダリアさんはあきれた声でつぶやいた。
「今の順位?」
俺は龍方磁石に表示されている
「40位……」
俺の最高記録だった。
そりゃあそうか……
飛行していた時の最高順位は69位だったが、みんな同じ場所でチェックポイントで休んでいるんだから、順位が上がるのは当たり前か……
しかしまぁ……ドラゴンに乗っていただけなのに凄い疲労感だ。目を瞑ったら一瞬で夢の世界へ行けそうだ
『このままではゴールできても優勝なんて無理よ。上位陣含め39位以上の選手はすでに第一チェックポイントを通過して先に進んでいるわ。優勝するならあんたもこれくらいしないとだめでしょ』
ダリアさんが俺にきつめに声をかけてくる。この疲労感たっぷりの時のダリアさんの叱責はきつい……
「で……でも俺の相棒のメイズはレンタルドラゴンなんですよ。ほかの選手は自前の龍で勝負しているんです。今だって休息中でして……。8時間は最低限休ませる必要があるんです」
『課題の二枚目に書いていたでしょう? 課題はクリアしないと優勝するまで何度もドラゴンレースに挑戦することになるわよ』
(いや! 渡し忘れていたじゃん!)
ダリアさんが渡し忘れていた2枚目の内容は、本当に後出しじゃんけんだった。
今回、優勝できなかったら来年の大会まで待つ必要がある。この世界の1年間は天界時間に計算すれば約3週間、もちろん給料は残業扱いにはならず当初の1日分の8万エリカしかもらうことが出来ないのだ。
ドラゴンレースは俺が楽しめる世界ではあったが、優勝しない限り天界に戻ることが出来ない。
天界に戻らないとミミのイセパットの修理代が稼げずに彼女はずっと見習い女神のままだ。彼女はいつまでっも女神見習いのままだ……。
「ど……どうすれば……」
『ふう……ばかね。これは異世界転生アルバイトなのよ。転生ってのはチートアイテムがつきものなのよ』
ブワン
謎の音とともに俺の隣には謎のピンク色の箱がおかれていた。
「こ、これは……なんですか?」
俺は眠い目をこすりながらダリアさんに問う。
『ふん! パラメータ調整機よ、初心者のあんたがいきなり参加で優勝できるわけないじゃない! これをドラゴンの背中にセットすれば好きな速度、加速度、体力などを設定することができるわ』
な、なんというチートアイテム!
異世界転生にはチートアイテムが必須だよな。困った時のダリアさんだ。
「ありがとうダリアさん」
これで明日からのレース、ぶっ飛ばして優勝をぶんどってやる……
でも……
ああ、だめだ眠い!
通信中だけど疲労感でもう限界だ……
もう気絶しそうなくらいな勢いで眠れそうだ……
一言だけ、一言だけお礼をいって眠ろう。
俺は最後の力を振り絞り、ダリアさんからもらったステータス調整機を枕元に置きいた後
「ダリアさん……」
『な、なによ』
「これからも俺をそばで支えてください……」ZZZ
『ん?』
『んんん!?』
『はあ! あんた何言っちゃってんの!? ってもう寝てるし! 将大! 将大!』
ピピ
◆ ◆ ◆
天界 快晴やにて
「支えてくれ……ですって?」
ぷんすか ぷんすか
将大の奴、なんて生意気なの!?
この前のオークのアルバイトの時も私に『結婚して』だったり! なんであいつは! 簡単にそういう言葉を口にして! 馬鹿じゃないの! それに私たち年の差が最低でも250歳はあるのよ。無理無理! 絶対無理! 戻ってきたら説教して、それとバツとしてあいつにご飯を奢らせるんだから!
すうーはぁー
ダリアは深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後
「だから、戻ってくるのよ……」
小さくつぶやいた。




