二十七話「異世界をまたにかけて俺の命が狙われています!③」
いつもと変わらない朝が始まる
「将大さんー! 朝ご飯ができますよー」
「うう……ふぁいい」
「寝ぼけてないで着替えてください! 今、私のパン作っていますから!」
「え? パンツ喰ってる? ああ、そうかここは夢か……見える……ミミのパンツは青色の……」
ゴス! ゴス!
「うっ!」
「パンです! トースターをしているんです! それに今日は青色じゃありませ……ってなに言わせてるんですか!」
ゴス! ゴス!
「ぐふっ、ぐふっ!」
「わぁ! 強く殴りすぎちゃいました! 将大さん! 大丈夫ですか?」
「うぅ……う……、ミミ、おはよう」
「おはようございます!」
いつもと変わらない天界での日常が始まる。
ちなみに、ゴス! ゴス! は骨が揺れるときの音だ。
最近、おなか周りが固くなってきた。それは俺の腹筋がミミのゴス!で強化されているからに違いない。
ミミのゴス! ゴス! は日に日に威力を増している。
「いただきますー」
今日の朝ご飯はベーコンエッグとトーストしたパンだ。
「将大さん、最近私のお店が繁盛し始めたんです。もちもちの生地がやめられないってリピーターが続出しているんです。特にパンをつくる練習はしていないんですが、どうしてか凄くふわふわのパンができるんです! これも日頃の成果でしょうか!」
「あはは……そうだね」
ミミは自分で作ったトーストをおいしそうに頬張っている。
そりゃあ、俺のおなかを毎日ゴス! ゴス! しているんだから当然生地づくりにも影響するだろう。
確かに、ミミのパンは日に日においしさを増している。お客さんも増えているらしいし、このまま行けば天界で大人気のお店になる事も夢ではない!
しかし、彼女は女神を目指していており、その食いつなぎのためにパン屋さんでアルバイトをしているのだ。
「それでですね、今度パンのコンクールがあるみたいで、お店の店長さんが私をお店の代表として推薦してくれたんです! 私の作るパンは天界で1位に成れる可能性があるんですって!」
「ミミ、凄いじゃあないか。確かにこのもちもち感は病みつきになるな」
俺はそっと自分のおなかをさすりながらつぶやく。
「そうなんです! 私、凄いんです! 目指せ! 天界一のパン職人!」
「おいおい、ミミが目指すのは女神だろう? 幼いころからの夢だったじゃないか」
「はい! 女神も目指します! だから私は天界一のパン職人女神のミミとして頑張ります!」
「うわぁ、欲張りだね!」
「はい! 私は欲しい物は全部手に入れますから! だから、将大さんもアルバイト頑張ってくださいね!」
「あ、ありがとう。がんばるよ」
(欲しいものは全部手に入れる……かぁ)
とても気合が入っているミミ、それはとても良いが彼女は一つ忘れている。
それは俺の存在だ。俺はもともとこの天界に居座るはずのない人間で通常すぐに異世界転生される予定だった。しかし、ひょんなことから異世界転生するためのタブレット、イセパットが壊れてしまう。ミミが見習い女神から、本当の女神になるための最終試練が俺を異世界へと無事に転生させることなのだ。
最終試練ではすべての物は自己負担、イセパットの修理費用も自己負担となる。
その額120万エリカ必要だという事、それを早く稼ぐために俺はダリアさんのいる「快晴や」で日給8万エリカの異世界転生アルバイトをしているのだ。
イセパットを修復し俺が無事に異世界転生すれば、もうミミに会うことが出来なくなる。
しかし、俺が異世界転生しなければミミは一生見習い女神のままである。俺とすれば天界の生活はそれとなく、有益で可能であればこの世界で暮らしていきたい。だからまずはそれとなく、凄く遠いところからミミに意思確認しないと。
「ミミ、一つ聞きたいことがあるんだけどいいかい?」
俺はお皿に盛られた最後のベーコンを取ってミミに告げた。
「例えば、例えばなんだけどさ。このミミの住んでいる女子寮って名前の通り女の子限定の寮じゃん。もし、俺がばれたら女神の試験にも影響しちゃうんじゃないかな? そろそろミミの家じゃなくて別々の場所で……」
ゴス! ゴス!
「ぐぬぅ」
「もう、別々の場所に住もうなんて言わないでくださいよ。私たちはずっと一緒です。わかりました?」
め、目が笑っていない。 このままではゴス! ゴス! がまた再び俺のおなかに……
「ご、ごめんなさい」
「わ、私も急に手が出てしまいました。ごめんなさい。でも引っ越しをするのは最善かもしれませんね。最近となりのおうちから『ゴス!』って落としているけれど大丈夫?って聞かれるんです。念のためパンを作る練習ですとは言っているんですけれど、そろそろ限界かな? って思っていたんです。だから、もう少し防音の部屋を借りましょう。これなら大丈夫ですね!」
「大丈夫ですねーって! 俺の心配は無しかい!」
「だって将大さんが悪いんですからね! それと今日の私のパンツは黒色です! って何言わせているんですか!」
ゴス! ゴス!
「ぐ、ぐぬぅ。ミミが最初に行ったんでしょうが……」
最近のミミの暴走は加減がない。きっと俺はこのままだと腹筋が鉄骨のように固くなるのではないだろうか。
俺は鉄板のようなおなかを優しくさすりながら思う。
(黒色……幸せだ……じゃなくて、限界だ。何とかミミのゴス! ゴス!を止めさせないと。)
「ああ、いけない! またお隣さんにご迷惑を……そうだ! 将大さん、今日は二人ともお休みですから不動産に行きましょう!」
「ふぇ? 不動産?」




