12番 岸本 麻衣
岸本 麻衣:クラス委員長木葉のギャル仲間。
女の子は、恋をすると変わる。
彼女はそれを、身をもって実感しているところだった。
「よし、物理オッケー!」
再来週の期末試験に向けて、彼女は試験範囲の復習を始めていた。一年前の彼女なら「試験なんてかったるーい」と一夜漬け+補習でクリアしていた。
だが今は違う。
その変わりように「一体どうした?」と両親は首をかしげて驚き、何があったのかと三者面談で担任に問いただしたほどだ。
「まあ、何はともあれ真面目に勉学に励むのはよいことですよ」
担任は、母の質問にそう答えたのち、ほほえましい目で彼女を見た。「あ、先生気づいてる」と少々恥ずかしく思ったが、知らん顔してやり過ごした。
「はあ、ちょっと休憩」
ベッドに倒れこみ、スマホを開くとメッセージが届いていた。
昨日、クラスメイトから発せられたSOSは無事解決したようだ。出かけていて「レスキュー隊」には参加できなかったので気になっていたが、さすがは咲夜率いる二年三組、心配無用だった。
「うひゃー、めっちゃうまそう。陶山ちゃん、いい彼氏ゲットしたよなー」
アップされた料理の写真を見て思わず声を上げた。「助けて」「よしきた」の二つ返事でこれだけのご馳走を作ってくれるなんて、彼氏が素敵すぎてうらやましすぎる。
自分も、あいつとこんな彼氏彼女になりたいな。
彼女はある男子の顔を思い浮かべ、ドキドキした。
一つ年下の男の子。たまたま同じ委員会になって、数学がわからないと頭を抱えていたので、たまたまわかるところだったから教えてあげたら、ものすごく感謝された。
「数学が得意な女の子って、すごくかっこいいですよね!」
ギャルっぽいからバカだと思ってました、と、「どついたろか」と思うことを言われた直後にそんなことを言われた。それをきっかけに懐かれ、何かと頼りにされるようになった。「わからない」というのが癪なのでがんばって勉強し、したり顔で教えてあげたらもっと褒められた。
それで調子こいてしまった。夏休みは塾の夏期講習にも行ってしまい、中学の友達からは「あんたガリ勉ちゃんになったの?」と驚かれた。
「しょーがないじゃん」
勉強で頼られたり誉められたりしたことは一度もなかった。それなのにあいつは頼りにしてくれる。あんなに褒めてくれる。チョロいと言われるかもしれないが、浮かれてしまうのは仕方ない。
「期末試験終わったら、遊びに行きましょう。色々教えてもらったお礼します!」
その後輩君に、一昨日の帰り道でそう言われた。そんなニンジンをぶら下げられてはがんばるしかない。それが、恋する乙女というものだ。
「さてと」
この期末、彼女は大きな目標を立てていた。
平均点八十点以上。
かつての自分なら絶対無理。だけど今の自分ならきっとできる。だって自分はがんばっている。だから、自分を信じて突き進むのみ。
「よーし、やったるぞ。見てろよー、目標クリアして……告白してやるんだから!」
尊敬される先輩から、一歩先へ。
あいつが自慢できる彼女になってやるんだと、彼女は気合を入れて、机に向かうのだった。




